第二波

スペインの第二波が加速している。

欧州で最も厳格なロックダウンを実行したスペインは、数カ月かけて感染者および死者数を抑えることに成功した。

現在、同国の新規感染者数は右肩上がりで増加しており、過去2週間の感染率は人口10万人あたり142件に達した。

ロックダウンを終了した時点の新規件数は1日あたり100件~150件ほどまで減少していたが、再び3,000件台に逆戻りした。

死者数については、パンデミック発生直後と状況が異なる。先週の最多死亡数は8月20日(木曜日)の120件、4月2日に記録した950件に比べると少ない。

第二波の侵攻を受けている日本、オーストラリア、韓国などと同じく、「新規感染者数は増加しているが、死亡者数は横ばいもしくは少し上昇している」状態である。

スペイン政府は右肩上がりの現状について、春とは状況が異なると指摘した。

陽性者の中で入院治療を必要とする者は約3%、集中治療(ICU)を必要とする者は0.5%未満。死亡率は約0.3%まで低下している。

ミゲルエルナンデス大学、公衆衛生学教授のイルデフォンソ・エルナンデス氏はBBCの取材に対し、「感染者数が急増しているにも関わらず、患者の入院率と死亡率は非常に低い。何かが変化したことは間違いないだろう」

「しかし、感染者数が増加している限り、自分たちは第二波の中にいると理解しなければならない。状況が悪化することを想定し、感染拡大防止に努めてほしい」と述べた。

6月末、欧州各国は国境を開放、夏の観光シーズンで落ち込んだ経済を立て直そうと考えた。しかし、スペインは感染者数が再び増加したことでブラックリスト入りし、観光客の呼び込みに失敗した。

第二波の震源地になったカタルーニャ州の感染率は人口10万人あたり145件。全国平均をわずかに上回っているが、観光客の集まるビーチエリア周辺の感染状況は収束しつつある。

各州の医療体制と規模にはバラつきがあるものの、春の状況を鑑み、第二波に備えた準備が進められてきた。

ただし、地方都市はマドリードやバルセロナに比べると医療体制が脆弱であり、感染者数の急増に対処できない可能性も指摘されている。

また、都市によって10万人あたりの感染率に大きな差がある。北西部アストゥリアス州は32件だが、北東部のアラゴン州では500件を超え、医療体制のひっ迫が懸念される。

アラゴン州の州都サラゴサは、ここ数週間で感染率が急激に悪化。地域の産業を支える果樹園に数千人規模の季節労働者を集めたことでクラスターが発生した。

サラゴサの果樹園生産者と荷造り会社は、雇った移民労働者に宿泊施設を提供せず、倉庫や屋外での宿泊を強要、感染拡大を招いたと批判されている。

スペイン緊急医療協会のファン・ゴンサレス・アルメンゴル氏はサラゴサの果樹園で発生した事象について、「移民労働者を大量に雇い、衛生環境の悪い屋内や屋外施設に収容した結果、感染拡大を招いた。政府のガイドラインに従い、移民労働者への感染予防対策も徹底しなければならない」と述べた。

アラゴン州政府は、6月までに約760人が自宅で死亡したと推定している。その後、春の大流行は何とか乗り切ったものの、第二波はやってきた。

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スペイン、第二波

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スペイン政府

スペインの政治は、コロナウイルスの危機を管理するうえで必要なコンセンサスや協力の精神に欠けている。

ペドロ・サンチェス首相と中央政府は、死亡率を偽っていると野党に厳しく非難された。

また保守的な国民党リーダーが運営するマドリード州政府も、同様の非難に直面している。

首都マドリードは、春の大流行で公立病院のシステムを吹き飛ばされ、人口が倍以上多いカタルーニャ州より多くの死者を出した

しかし、春の教訓は残念ながら活かされず、現在、新規感染者数は再び増加し始めている。

マドリードは経済活動再開を目指し、社会的距離の確保やマスク着用義務化などの対応を進めてきた。

しかし、州政府の場当たり的な対応に反対する勢力やアンチマスク主義者などが大量に現れ、感染再拡大に拍車をかけたと言われている。

特にアンチマスク集会は数千人規模で開催され、クラスターが各地で発生した。また、アメリカのトランプ大統領を応援する保守層まで登場し、他の州は大いに盛り下がった。

ミゲルエルナンデス大学、公衆衛生学教授のイルデフォンソ・エルナンデス氏はマドリードの現状について、以下のように答えた。

「スペインの民主主義の質が感染増加と高い感染率につながっている。中央政府および州政府には説明責任がある。マドリードだけでなく、他の地域でも感染が拡大している事実を受け入れ、対策が足りなかった部分については早急に是正しなければならない」

スペインの第二波は若者がもたらしたと言われている。

同国は3か月間ロックダウンされた。その間、多くの若者が自室に閉じ込められた。

第二波を発生させた最大の要因は、繁華街で開催されるストリートパーティ、そしてパブなどでのナイトライフである。

州や市のイベント(祭り)は全てキャンセルされた。しかし、世界的に有名な牛追い祭り(サン・フェルミン祭)を楽しみにしていた若者を止めることはできなかった。

8月14日には400人の若者がタファリャの街を練り歩き、「なぜ祭りを行わないのか」と抗議した。

美食の街バスク地方で進む感染拡大の主要因も、若者の集まりである。

先月、ビルバオのBack&Stage(ナイトクラブ)に入店した客から陽性者が確認され、350名にPCR検査を実施した。結果、34人が陽性を示し、当局は全国のナイトクラブを閉鎖すると発表した。

Back&Stageに入店した18歳のアルカッツ・セラーノ氏は地元メディアの取材に対し、「ナイトクラブ、パブ、バーなどでマスクを着用している客はいない。踊る時や酒を飲む時邪魔だろう?」と語った。

エルナンデス教授は、クラブ等で頻発したクラスターについて、「ロックダウン中は政府やWHOのガイドラインに従ってきた。しかし、正常に近い生活を取り戻したことで、対策に大きな緩みが生じている」と述べた。

バスク州政府はさらなる感染拡大を防ぐために、アルコールを扱うクラブやバーおよび、全ての野外集会を禁止した。

【スペインのコロナウイルス実績】

・ジョンズ・ホプキンズ大学のまとめによると、累計感染者数は38.6万人超、これまでに28,800人以上の死亡が確認されている。

自宅で亡くなった人など含めた総死者数は約45,000人

・中央政府は、19,000人以上の高齢者がコロナウイルスおよびそれに関連する合併症等で死亡したと発表した。

・春の大流行時、地域の病院は介護施設への救急隊派遣を停止した。結果、感染した高齢者の大半が診断を受ける前に介護施設内で死亡した。

・国境なき医師団のシメナ・ディ・ロロ氏は、「二度と高齢者をひとりで死なせてはならない」と中央政府の準備不足を痛烈に批判した。

【世界の感染状況/8月21日時点】

累計感染者累計死者新規感染者
世界2,280万人79.6万人268,087人
アメリカ562万人17.5万人24,920人
ブラジル353万人11.3万人45,323人
インド291万人54,849人68,898人
スペイン38.6万人28,838人6,671人
イギリス32.3万人41,405人1,033人
フランス23.4万人30,503人4,586人
日本59,900人1,157人951人

第二波の恐れ

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