◎この計画には法人税率を現在の21%から28%に、富裕層を対象としたキャピタルゲイン(株式や債券などの売却益)税を39.6%に引き上げることが含まれている。
5月28日、ジョー・バイデン大統領はコロナ禍を打ち破りインフラストラクチャーを強化する2022年の予算計画を発表した。予算規模は2021年を大幅に上回る6兆ドル(約650兆円)規模になる見通しで、すでに発表している2つの巨大支出計画「アメリカン・レスキュー・プラン」と「アメリカン・ファミリーズ・プラン」もこれに含まれている。昨年のドナルド・トランプ前大統領の提案額は約4.8兆ドル(520兆円)だった。
また、この計画には法人税率を現在の21%から28%に、富裕層を対象としたキャピタルゲイン(株式や債券などの売却益)税を39.6%に引き上げることが含まれている。
行政管理予算局のシャランダ・ヤング局長代理は28日の記者会見で、「2030年以降、政策がもたらす収益は年次赤字を打ち消し始める」と述べた。
共和党のミッチ・マコーネル上院少数党首はバイデン大統領の提案を批判した。「アメリカの家族は借金、赤字、インフレに飲み込まれるでしょう。民主党は大規模な増税をアメリカ国民に押しつけたうえで、毎年1兆ドル以上の赤字を垂れ流し続けます。私たちの借金は第二次世界大戦以来の規模に膨れ上がり、債務負担は全ての記録を打ち破り、1940年代を凌駕するでしょう...」
連邦支出はGDP(2020年度:約2,300兆円)の約25%に増加するが、2021年の経済成長率はプラス5.2%になると予想されている。
バイデン大統領は幼稚園(3歳と4歳)の完全無料化を達成するために10年間で2,000億ドル(約22兆円)、公立二年制大学の無料化に1,090億ドル(約12兆円)を割り当てている。
民主党は歳入を増やすために企業や富裕層を対象とした増税を提案しているが、それでも国債額は今後数年以内に過去最高を更新することは確実と考えられている。
ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は27日の定例会見で、共和党に高すぎると批判された予算計画は「長期的にはより良い財政基盤を築くだろう」と述べた。
上下両院は9月末までに予算法案を可決する必要がある。可決されなかった場合、一部の政府機関はサービスを停止する可能性がある。
民主党は下院で過半数を占めており、上院でも1議席優位を保っている。そして予算法案は野党の議事妨害(フィリバスター)を無効化できる特別なプロセスを利用できるため、上院民主党は共和党の協力を得ることができなくてもカマラ・ハリス副大統領の1票で法案を通過させることができると期待されている。
ただし、上院民主党の一部議員は法人税の引き上げに反対しており、1人でも造反が出れば法案は却下される可能性がある。
アメリカン・ジョブズ・プランの要点:約2.3兆ドル(250兆円)
<高速道路とその他の道路の改修費用:1,150億ドル(約12.8兆円)>
ホワイトハウスによると、道路約32,000km、重要な橋、その他の約10,000の小さな橋を改修する予定だという。
<公共交通機関の改修:850億ドル(約9.4兆円)>
<貨物鉄道の改修:800億ドル(約8.9兆円)>
北東部の貨物路線の改修がメインになると伝えられている。
<電気自動車関連のインフラ整備:1,740億ドル(約19兆円)>
電気自動車用の充電ステーションを全国に50万カ所建設する。
<空港の改修:250億ドル(約2.8兆円)>
<河川と港の改修:170億ドル(約1.9兆円)>
<高速道路建設の影響を受けたコミュニティに対する補償:200億ドル(約2.2兆円)>
<自然災害対策強化:500億ドル(約5.5兆円)>
<鉛水道管の交換と下水道システムの改修:1,110億ドル(約12兆円)>
<5Gを含む高速ブロードバンドの構築:1,000億ドル(約11兆円)>
<全国の電力網の整備とクリーンエネルギーへの移行:1,000億ドル(約11兆円)>
<低所得者向けの手頃な価格の住宅約200万棟の建設と改修:2,130億ドル(約24兆円)>
<学校の建設と改修:1,000億ドル(約11兆円)>
<退役軍人病院と診療所の整備:180億ドル(約2兆円)>
<連邦政府の施設の改修:100億ドル(約1.1兆円)>
<介護サービスの拡充:4,000億ドル(約44兆円)>
<クリーンエネルギーなどの開発プロジェクトへの投資:1,800億ドル(約20兆円)>
<クリーンエネルギー関連の製造業への投資:3,000億ドル(約33兆円)>
<新たな労働力の開発:1,000億ドル(約11兆円)>
◎法人税率を21%から28%に引き上げる。
◎企業に21%のグローバル最低税を課し、節税対策を打ち負かす。
◎企業に15%の最低税を課す。
◎化石燃料業界に与えられた税制上の優遇措置を廃止する。
◎大企業に対するIRS監査を強化する。
Today, I released my budget for the upcoming fiscal year. It builds on the progress we’ve made over the last few months and makes historic investments that will help our nation build back better for decades to come. Read more here: https://t.co/6dKv8wa4yI
— President Biden (@POTUS) May 28, 2021
アメリカン・ファミリーズ・プランの要点
<家族の育児をサポートする>
・低中所得世帯の5歳未満の子供の育児にかかる費用を収入の7%以下にする。
・育児労働者の平均時給12.24ドルを15ドルに引き上げる。
<コミュニティカレッジ(公立二年制大学)を無料にする>
・1,090億ドル(約12兆円)を投資する。
・授業料などの費用は連邦政府が約75%負担し、残りは州が負担する。
・歴史的黒人大学や他の少数奉仕機関に在籍している年収125,000ドル未満の家族の学生に2年間の補助金付き授業料を提供する。投資額は390億ドル(約4兆円)
<ペル・グラント(返済不要の助成金)を強化する>
・低所得の学生に最大約1,400ドルの追加支援を提供する。(有色人種を含む700万人近くの学生がペル・グラントに依存している)
・2021年から2022年の学年度で対象者に最大6,495ドル(約70万円)を提供する。
<有給の家族休暇と医療休暇を提供する>
・計画開始から10年目までに、合計12週間の有給の家族休暇および医療休暇を労働者に提供する。
・毎年3日間の慶弔(忌引き)休暇を保証する。
・労働者は全国休暇プログラムを通じて月に最大4,000ドルを受け取るか、最低でも3分の2の賃金を保証される。費用は10年間で推定2,250億ドル(約24兆円)
<ユニバーサル幼稚園に投資する>
・推定500万人の児童とその家族の生活を支えるために2,000億ドル(約22兆円)を投資する。
・対象は国内の全ての園児。幼稚園に通う費用の50%を連邦政府が負担し、残りは州が負担する。
<教師の採用数を増やす>
・教師を目指す学生向けの奨学金を4,000ドルから8,000ドルに増やす。
・歴史的黒人大学、部族大学、少数民族奉仕機関の有給教師居住プログラムに28億ドル(約3,000億円)、特別教育教師育成に9億ドル(約1,000億円)、教師準備プログラムに4億ドル(約400億円)を投資する。
・特殊教育やバイリンガル教育などの需要の高い専門分野の資格取得に16億ドル(約1,700億円)を投資。
・新任教師や有色の教師向けの教育研修に20億ドル(2,200億円)を投資。
<子供たちの食事を支援する>
・推定2,900万人の児童に無料および割引価格の食事を提供する。投資額は250億ドル(2.7兆円)
<児童税額控除を2025年まで延長する>
・6歳未満の子供がいる家族は子供1人あたり3,600ドル、6〜17歳の子供がいる家族は子供1人あたり3,000ドルの税額控除を受けることができる。対象は年収75,000ドル未満(約800万円)の親。
<オバマケアの助成金を恒久化する>
・約1.9兆ドル(200兆円)のアメリカンレスキュープランに含まれている助成金を恒久化する。現在の期間は2023年。
<扶養控除を強化する>
・資格を満たす家族は、13歳未満の子供にかかる費用の半分の税額控除を受けることができる。対象は年収125,000ドル未満(約1,400万円)の親。年収125,000~400,000ドルの親も一部税額控除を受けることができる。
<勤労所得税額控除を強化する>
・現在の子供を持たない労働者に対する勤労所得税額控除の強化を恒久化する。
・申請可能年齢を25歳から19歳に引き下げ、年齢上限を廃止する。
アメリカン・ファミリーズ・プランの負債を補う対策は次の通り。
≪富裕層の所得税を引き上げる≫
・トランプ前大統領が引き下げた最高限界所得税率を37%から39.6%に戻す。対象は人口の上位1%。
≪キャピタルゲイン税率を引き上げる≫
・年収100万ドル以上(約1億1,000万円)の世帯は、キャピタルゲイン(株式や債券などの売却益)に対してより高い税金を支払う必要がある。
≪富裕層の相続資産に課税する≫
・100万ドルを超える未実現利益(売却していない株式や債券など)、250万ドル以上の不動産などに課税する。ただし、家族経営の企業や農場で、事業を継続している相続人に引き継がれる場合は対象外。
≪ヘッジファンドパートナーと不動産投資家を打ち負かす≫
・持ち越し利益の抜け穴を閉じる。現在、ヘッジファウンドパートナーと不動産投資家の所得はキャピタルゲインとして扱われることが多く、税率が低くなっている。
・不動産投資家は50万ドル(約5,000万円)以上の資産を売却する時に課税を延期できるが、バイデン大統領はこの規則(減税)を終了したいと考えている。
≪内国歳入庁を強化する≫
・内国歳入庁(IRS)に800億ドル(約8兆円)を投資し、高所得者の脱税を厳しく取り締まる。