◎アルメニア軍のオニーク・ガスパリアン准将は声明で、「軍は名誉毀損を目的とした現政権による攻撃に辛抱強く耐えてきたが、限界を超えた」と述べた。
2月25日、アルメニアのニコル・パシニャン首相は軍当局者の脅迫を「軍事クーデター未遂」と見なし、軍は民主的な選挙で選出された政府の指示に従わなければならないと警告した。
パシニャン首相は昨年発生したナゴルノ・カラバフをめぐるアゼルバイジャンとの紛争で11月に和平協定を結んで以来、辞任を求める抗議に直面している。
今週初め、パシニャン首相は軍のティラン・ハチャトリアン中将(副長官)を解任した。これに対しオニーク・ガスパリアン准将(参謀長)はパシニャン首相の辞任を求めたうえで、「首相と政府はもはや合理的な決定を下すことができない」と述べた。
現地メディアによると、ガスパリアン准将は声明の中で、「アルメニア軍は名誉毀損を目的とした現政権による攻撃に辛抱強く耐えてきたが、限界を超えた」と述べたという。
ガスパリアン准将は現政権が外交政策における致命的な過ちを犯し、その結果、アルメニアはナゴルノ・カラバフを奪われ、滅亡の危機に瀕していると述べた。
ナゴルノ・カラバフ紛争はロシアが仲介した和平協定で終結し、アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフの主要な町を取り戻した。一方、そこで生活していたアルミニア人は土地を追われ、アルメニアの一部の市民は和平協定を「敗北宣言」と見なした。ナゴルノ・カラバフは公式にはアゼルバイジャンの領土と認められているが、住民の大部分はアルメニア人で構成されていた。
パシニャン首相は首都エレバンで演説を行い、「軍はクーデターを試みようとしている」と支持者に呼びかけ、ガスパリアン准将を厳しく非難した。
ニコル・パシニャン首相:
「私は自分の意志ではなく、民主的な選挙で皆さんに選んでもらい、首相になりました。軍は政府の指示に従いたくないようです。彼らは私を撃ち殺したいのでしょう。それなら皆さんの前で私を処刑してもらいましょう」
パシニャン首相の演説会場の近くに集まった2万人以上の野党支持者たちは、「ナゴルフ・カラバフを奪われた現政権は去れ!」「ニコル、裏切者!」「ニコル、辞任!」などと叫んだ。
現地メディアによると、パシニャン首相の支持者と野党支持者の間で散発的な乱闘が確認されたが、致命的な暴力には発展しなかったという。一部の野党支持者は中央通りを行進し、道路上にバリケードを設置した。
パシニャン首相はアゼルバイジャンとの和平協定について、「アゼルバイジャン軍の侵攻を抑えることはできず、あのまま戦闘を続けていればナゴルノ・カラバフ全土を占領されていた」と主張し、断腸の思いで協定に合意したと述べた。一連の戦闘は約1カ月間続き、双方の死亡者は6,000人以上と伝えられている。
一方、野党勢力は和平協定を嘲笑したが、ロシア、アゼルバイジャン、そしてアゼルバイジャンを支援するトルコとの争いは望んでおらず、「平和的に交渉を行ったうえで、奪われたナゴルノ・カラバフの領土を取り戻すべきだ」と主張している。
パシニャン首相は軍が戦闘中に使用したロシア製のイスカンダーミサイルの10%が機能しなかったと軍当局者を非難したうえで、今週初めにハチャトリアン中将を解任し、軍の反抗的な声明が発表された直後にガスパリアン准将も解任した。
この命令を実行するためにはアルメン・サルキシャン大統領の承認が必要。ただし、現地メディアによると、中将と准将がポストを去るかどうかは分からないという。
パシニャン首相は演説の中で、「大統領が私の解任要求に署名しなかった場合、それは彼が軍事クーデターに参加することを意味しますか?」と支持者に尋ね、「大統領は軍事政権を決して許しません」と訴えた。
ロシアは同盟国が混乱に陥る可能性に懸念を示し、問題はアルメニア自身で解決しなければならないと強調した。ドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に対し、「私たちは落ち着きを求めています。アルメニアの憲法が守られることを確信しています」と述べた。
ペスコフ報道官によると、ウラジーミル・プーチン大統領はパシニャン首相と電話で話し、アルメニアの平和と秩序の維持を求めたという。
一方、ロシア国防省は声明で、正確無比と宣伝しているイスカンダーミサイルの性能に問題はないと主張し、「パシニャン首相は誤解している」と述べた。
和平協定はアルメニアで広く非難されているが、トルコの支援を受けるアゼルバイジャン軍は一連の戦闘で圧倒的な軍事力を示しており、野党が政権を奪取したとしても、ロシア主導の和平協定が修正される可能性は低いと伝えられている。
ナゴルノ・カラバフについて知っておくべきこと
・2021年1月11日、ロシア、アゼルバイジャン、アルメニアによる3カ国首脳会談。ナゴルノ・カラバフをめぐる紛争で麻痺した地域の輸送ルートの再開について話し合う。
・2020年12月13日、アゼルバイジャンの国防省、アルメニア軍の攻撃で兵士4人が殺害されたと発表。
・2020年12月12日、アルメニアとアゼルバイジャン当局、ナゴルノ・カラバフ紛争の和平協定に違反したとお互いを非難。
・2020年12月5日、アルメニア、ニコル・パシニャン首相の辞任を求める大規模な抗議活動が行われる。
・2020年12月1日、アゼルバイジャン政府、アルメニア軍から取り戻したナゴルノ・カラバフの一部地域の開拓を完了したと宣言。
・2020年11月16日、トルコ議会、アゼルバイジャンとアルメニアの和平協定を監視する平和維持軍派遣を承認。
・2020年11月16日、アルメニアのゾラブ・ムナサカニャン外相、辞任。
・2020年11月11日、アルメニア市民がアゼルバイジャンとの和平協定に抗議。国会を占領し、首相の辞任を求めた。
・2020年11月9日、アルメニア、アゼルバイジャン、ロシアがナゴルノ・カラバフの紛争を終結させる和平協定に調印。
・2020年11月9日、アゼルバイジャンの領土であるナヒチェヴァン自治共和国付近を飛行していたロシアの軍用ヘリ「Miー24」がミサイル攻撃を受け墜落。アゼルバイジャンはロシアに対し、誤った撃墜したと謝罪した。
・2020年11月8日、アゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフの戦略的に重要な町、シュシャをアルメニア軍から奪取。
・2020年11月、中東の過激派勢力2,000人が紛争に加わったと伝えられている。アルメニアはアゼルバイジャンの同盟国、トルコが関与したと非難。
・2020年10月28日、アゼルバイジャンのバルダ県への空爆(クラスター爆弾)で民間人21人が死亡。
・2020年10月25日、アメリカの仲介による停戦合意が破綻。戦闘再開。
・2020年10月25日、アメリカの仲介でアルメニアとアゼルバイジャンが停戦に合意。
・ロシアのプーチン大統領によると、9月末からの戦闘で少なくとも5,000人が死亡。.
・2020年10月17日。10月9日の停戦合意は破綻し、民間人13人が死亡、40人以上が負傷した。
・約4,400平方キロメートルの山岳地帯。
・キリスト教のアルメニア人とイスラム教徒のトルコ人が生活していた。
・ソビエト連邦時代、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの自治区に加えられた。
・公式にはアゼルバイジャンの領土と認められているが、人口の大部分はアルメニア人で構成されている。
・現在、ナゴルノ・カラバフは分離主義勢力(自称当局)に占領されている。
・ナゴルノ・カラバフの大統領(自称)はアライク・ハルチュニヤン。
・自称当局は、アルメニアを含む全ての国連加盟国に認められていない。
・1988年から1994年の紛争で約3万人が死亡、推定100万人が避難を余儀なくされた。
・1994年の停戦合意後も膠着状態は続いていた。
・アルメニアは分離主義勢力(自称当局)を認めていない。
・アゼルバイジャンは「分離主義勢力=アルメニア軍」と認識している。
・トルコはアゼルバイジャンを積極的に支援している。
・ロシアはアルメニアに軍事基地を持っている。