◎花の都パリは2カ月にわたる壮絶なストライキでゴミだめになり、異様な雰囲気と臭気に包まれている。
2023年3月16日/フランス、パリの議会議事堂近く、政府の年金改革に抗議するデモ(Thomas Padilla/AP通信)

フランスのボルヌ(Élisabeth Borne)首相は16日、退職年齢を62歳から64歳に引き上げる年金制度改革法案を憲法の規定に基づいて採決なしで採択した。

ボルヌ氏は国民議会(下院)で憲法49条3項を発動し、採決を省略すると発表。法案は採択された。

地元メディアによると、議会議事堂周辺では改革に反対するデモ隊が機動隊と衝突したという。

花の都パリは2カ月にわたる壮絶なストライキでゴミだめになり、異様な雰囲気と臭気に包まれている。

マクロン(Emmanuel Macron)大統領によると、年金制度は高齢化に伴い、今後10年で赤字に転落する見通し。他の先進国も似たような問題を抱えている。

マクロン氏は争点となっている定年年齢の引き上げ(62歳→64歳)を提唱し、社会保障を維持するためには「もう少し長く働く必要があるんです」と有権者に訴えている。

そして16日、ボルヌ氏は憲法49条3項を発動し、採決を回避した。

この決定は国会議員による法案の採決が予定されていた数分前に発表された。マクロン氏の与党・共和党前進は昨年の議会選で過半数を失っている。

野党はボルヌ氏に引退を勧告し、国歌を熱唱。審議は約2分中断されたものの、法案は無事採択された。

極右・国民連合のル・ペン(Marine Le Pen)党首は採決後、不信任決議案を提出すると示唆した。

極左・不服従のフランスのメランション(Jean-Luc Melenchon)氏はSNSに声明を投稿。「全国民が改革に反対しているぞ」と主張した。「マクロンは、あの男は、国を危機に陥れようとしています」

全国各地で改革に反対するデモ隊が国家を歌い、労組の旗を振り回し、ゴミ箱に火をつけ、商店に石を投げつけ、機動隊に「帰れ!」と叫んだ。

AFP通信によると、パリの一部地域でデモ隊と機動隊が衝突したという。コンコルド広場の中央には火が放たれ、盾と警棒を持った機動隊が暴徒に突撃した。

AFPは関係者の話を引用し、「夕方までに少なくとも120人が逮捕された」と報じている。

強硬派労働組合「フランス労働総同盟(CGT)」は16日、改革案を却下し、23日に大規模ストとデモを強行すると宣言した。

国営フランス・テレビジョンは専門家の話を引用し、「有権者は過半数を保持しない与党の憲法49条を支持しないし、不満に思うだろう」と報じている。

マクロン氏は昨年、年金改革を公約の柱に据えて再選したが、連立政権は議会で過半数を占めておらず、法案を成立させるためには共和党の支持が必要不可欠だった。

共和国前進は共和党幹部と何度も協議を重ね、法案に理解を求めていた。

ボルヌ氏は法案の不人気ぶりを目のあたりにした共和党の一部議員が反対票を投じたり、棄権したりすることを恐れ、49条の発動に踏み切った。

しかし、国民の代表である議会の採決なしに法案を通すという決定は批判を集めた。

報道によると、49条はこの60年以上で100回ほど使用されたという。

ボルヌ氏はすでに何度か49条を発動しているが、その法案はあまり議論を必要としないものばかりだった。

野党は近いうちに内閣不信任決議案を提出するとみられる。与党は過半数を保持していないため、共和党が賛成に回れば成立もあり得る。

これが可決されればボルヌ政権は崩壊し、極右・極左・保守野党が新政権発足に動くかもしれない。ただし、共和党はルペン氏を「最も危険な右翼」と呼び、同氏が参加する政権には「死んでも参加しない」と明言している。

フランスの年金制度改革は劇的なものとはいいがたい。日本は65歳。イギリスは2039年までに68歳に引き上げる予定だ。

しかし、フランスの労働者層は改革を「残忍」「非人道的」「戦争犯罪」「恥」と非難している。

フランス人の働く意欲は低く、この騒乱でますます低くなり、労働者は62歳を待たずにリタイアし、明るい第二の人生を過ごしたいと考えているようだ。

2023年3月16日/フランス、パリの議会議事堂、記者団の取材に応じるルペン党首(Thomas Padilla/AP通信)
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