◎ロシアは沿ドニエストルを独立国家として承認していないが、この地域の事実上の独立を支えているのは駐留ロシア軍と考えられている。
2021年3月7日/モルドバ、東部沿ドニエストルの市街地(Getty Images/AFP通信)

ウクライナ南部と国境を接する分離主義国家「沿ドニエストル」とモルドバの緊張が高まっている。

沿ドニエストルで今週相次いだ攻撃は、ロシア軍がウクライナに続いてモルドバに侵攻するのではないかという懸念を引き起こした。

沿ドニエストルへの攻撃に関与したという犯行声明は出ていないとされる。

沿ドニエストルは1990年代初頭の「トランスニストリア戦争」でモルドバから独立したと主張しているが、モルドバ政府と国際社会はこれを認めていない。ロシア軍は分離主義勢力のテロ作戦を支援し、平和維持活動という名目で兵士1500人を駐留させている。

沿ドニエストルの医療機関で働いているモルドバの住民ビクトリア氏はアルジャジーラの取材に対し、「どうすればいいか分からない」と心境を語った。「ロシア軍はモルドバを攻撃するつもりですか?それが現実になれば、多くのモルドバ市民が国外に退避するでしょう」

ロシア軍の高官は先週、ウクライナ東部の分離主義国家(ドネツクとルガンスク)と南部クリミアを結ぶ陸上回廊を形成し、さらに南部全域を掌握することで沿ドニエストルも解放すると示唆した。

沿ドニエストルの内務省は25日、政府庁舎がRPGと思われるロケット弾による攻撃を受けたと発表した。

さらに同省は翌日、ウクライナ国境付近のラジオアンテナが爆破され、ウクライナからドローンが飛来し、ロシア軍の武器庫がある村に発砲したと主張した。

ロシアは沿ドニエストルに対する攻撃を「テロ行為」と厳しく非難し、ウクライナが地域の不安定化に一役買っていると主張した。

一方、米国は攻撃について、ロシアもしくは親ロシア勢力の「偽旗作戦」の可能性があると警告している。

モルドバの検問所に配備された警察官はアルジャジーラに、「事件以来、モルドバから分離主義地域に渡る際のチェックが厳しくなった」と語った。

この警察官によると、沿ドニエストル当局は検問所を通過する車両のチェックを厳しくしたという。

モルドバの副首相はロシア軍が関与したという噂や憶測を疑問視している。

副首相はフランスのラジオ番組のインタビューの中で、攻撃の理由は明確ではないとし、沿ドニエストルの「親ウクライナ派と親ロシア派の内部衝突」の可能性を挙げた。

しかし副首相は、「地域情勢やモルドバの経済的な弱さを考えると、事件は国の安全保障に影響を与える可能性がある」と認めた。

地元メディアによると、モルドバが国内で消費するエネルギーは沿ドニエストルを横断する電気(送電線)とガスパイプラインに大きく依存しているという。

ロシアは沿ドニエストルを独立国家として承認していないが、この地域の事実上の独立を支えているのは駐留ロシア軍と考えられている。

あるアナリストは、「沿ドニエストルとロシアは密接な関係にあり、そこに住む人々の多くはロシア語を話し、政府は親ロシアの分離主義者によって運営されている」と報告している。「ロシアは沿ドニエストルに天然ガスを無料で供給し、この地域の高齢者に年金を支給しています...」

モルドバはNATO非加盟国であり、ロシアは沿ドニエストルを含むこの国をロシアの勢力圏内にとどめておきたいと考えている。

モルドバ政府は先月、EUへの加盟を申請した。しかし、沿ドニエストルにロシア軍が駐留しているため、モルドバは自国の国境を完全にコントロールできておらず、EU加盟条件のひとつである領土と国境コントロールをクリアできる可能性は低い。

多くの専門家が「ロシア軍はウクライナ南部を抑えたあと、沿ドニエストルの親ロシア勢力とモルドバに侵攻する可能性がある」と懸念している。

ただし、ロシア軍が沿ドニエストルに到達するためには、南部の主要拠点を複数抑える必要があり、一筋縄ではいかないと思われる。

モルドバと沿ドニエストルの国境近くで雑貨屋を営む女性はアルジャジーラに、「ウクライナの戦況を注視している」と語った。「私たちはウクライナが倒れないか心配しています。ウクライナが倒れたら、次は私たちの番かもしれません...」

ウクライナ政府は沿ドニエストルへの攻撃を非難し、「ウクライナ軍はモルドバ周辺を含む南部の安全保障を確立する」と約束した。

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