コンテンプト・オブ・コート 7-9
アンカレッジ国際空港。
到着ロビーに、シアトル発の便が到着したことを知らせるアナウンスが流れた。
搭乗口から乗客たちが姿を現す。出張帰りのビジネスマン、家族連れ、旅行者。人々は手荷物を引きながら、到着ロビーへ向かっていた。
その列の中に、一人の女がいた。
女は小さなキャリーケースを引き、周囲を気にする様子もなく歩いていた。服装は目立たず、手荷物も少ない。長旅の疲れは見えるが、足取りに迷いはなかった。
彼女が乗ってきたのは、フィリピンからシアトルを経由した便だった。
入国手続きと乗り継ぎを済ませ、アンカレッジ行きの便に乗った。長い移動だったが、女は機内でもほとんど眠らなかった。
到着ロビーに出ると、女は一度立ち止まった。
天井の案内表示を見上げる。出口の方向を確かめ、再び歩き出した。
周囲では、到着した乗客を迎える人々が待っていた。名前を書いた紙を掲げる者、子供を抱き上げる者、電話で到着を知らせる者。再会を喜ぶ声が、ロビーのあちこちから聞こえてくる。
女は携帯電話を取り出し、画面を確認した。着信はない。短いメッセージが一件、表示されている。
女は内容を読み、画面を閉じた。
そのまま出口へ向かう。
自動ドアを抜けると、冷たい空気が頬に触れた。空港前の道路にはタクシーや送迎車が並び、乗客を降ろした車が次々と走り去っていく。
女は歩道の端で足を止めた。
道路の向こうには、空港の駐車場が広がっている。遠くに山の稜線が見えた。空は低い雲に覆われ、街の光が薄くにじんでいた。
女はコートの襟を整え、携帯電話をもう一度取り出した。
連絡先の一覧を開く。
しばらく画面を見つめていたが、発信はしなかった。
やがて、タクシー乗り場へ向かった。
「市内まで」
運転手に行き先を告げ、後部座席に乗り込む。
タクシーが動き出すと、女は窓の外を見た。空港の建物が後方へ流れていく。道路標識にアンカレッジ市内の案内が表示されていた。
女は膝の上に置いた鞄に手を添えた。
その中には、長い間持ち続けてきたものが入っていた。
タクシーは空港を離れ、市街地へ向かう道路に入った。
女は携帯電話を取り出し、先ほどのメッセージをもう一度開いた。
短い文章だった。
彼女はそれを読み終えると、画面を消した。
窓の外では、アンカレッジの街並みが近づいていた。
