コンテンプト・オブ・コート 7-4
アンカレッジ連邦地方裁判所。
市長就任式を終えたコールの車列が、裁判所の正面玄関に到着した。
黒いセダンが停まり、警備担当者が周囲を確認する。後続車から市長室の職員や随行者が降りてきた。玄関前には、すでに報道陣が集まっていた。
コールが車を降りると、カメラのシャッター音が一斉に響いた。
「コール市長!」
記者たちが前へ出る。
コールは立ち止まり、笑顔で手を上げた。就任式を終えたばかりの新市長に、質問が次々と飛んでくる。
「市長、今後の市政で最も優先する政策は何ですか?」
「ノース・ホライズン・シティ計画は予定通り進めるのでしょうか?」
「テラ・インフラテックとの関係について説明してください」
コールは一つずつ質問を聞き、落ち着いた口調で答えた。
「市民の生活を守ることが最優先です。雇用を生み、地域産業を育て、老朽化したインフラを整備する。ノース・ホライズン・シティ計画も、その一環として検討を進めます」
「市長に就任したことで、テラ・インフラテックの経営から完全に離れるという理解でいいですか?」
「その通りです。市政と企業経営を混同するつもりはありません」
記者の一人が声を上げた。
「白紙委任信託の公約は守りますか?」
コールは記者の方へ顔を向けた。
「もちろん。公約は必ず守ります。すでに法的手続きに入りました」
「これまでの例のように、ただのパフォーマンスでは?」
その質問に、コールは歩みを止めた。
一瞬、周囲のざわめきが小さくなる。
コールは質問した女性記者を見た。表情には不快感も苛立ちもなかった。
「テラ・インフラテックは、人望があり、信頼できる人物に引き継ぎます」
「その人物は誰ですか?」
別の記者が尋ねた。
「適切な時期に公表します。手続きは進んでいます。憶測で判断するのではなく、結果を見ていただきたい」
「経営への影響力を残すことはありませんか?」
「ありません。私は市長として、この街のために働きます」
コールはそれ以上答えず、記者団に軽く頭を下げた。
「質問は以上です。今日は裁判官にご挨拶する予定がありますので」
報道陣がさらに質問を重ねたが、随行者が間に入り、コールは玄関へ向かった。
そのとき、裁判所の職員が正面玄関から出てきた。
続いて、マリベル・ヴァレンタインが姿を現す。
マリベルは足を止め、コールを迎えた。報道陣のカメラが二人に向けられる。
「おめでとうございます、市長」
マリベルが言った。
「ありがとうございます。裁判官が自ら出迎えてくれるとは。この上ない光栄です」
「これからが本番ですね」
「ええ。市民の期待に応えなければなりません」
マリベルは記者団に一度視線を向け、それからコールに戻した。
「今後、どんな市政を行う予定ですか?」
コールは報道陣の前で姿勢を正した。
「司法を代表する裁判官の前で誓います。私は市民のために働き、法治の街の名にふさわしい市長になります」
マリベルは小さくうなずいた。
「期待しています」
二人は並んで玄関へ向かった。記者たちはその後ろ姿を撮影し続けた。
コールは最後まで笑顔を崩さなかった。
市長と裁判官が並ぶ姿は、報道陣にとって格好の映像だった。新市長が司法の権威を尊重し、法の支配を重んじる。その印象を与えるには十分だった。
玄関を通り抜けると、外の喧騒が遠のいた。
マリベルは歩きながら、声を落とした。
「執務室へ来なさい」
「承知しました」
コールは彼女の半歩後ろを歩いた。
二人の姿が廊下の角に消えるまで、報道陣のカメラは玄関に向けられていた。
