コンテンプト・オブ・コート 6-40
マイクの事務所。
窓の外では、アンカレッジの街を覆う雲が低く垂れ込めていた。机の上には市長殺害事件の資料が積まれている。マイクは書類を閉じ、向かいに座るローリーを見た。
「カーターのことが気になるか?」
「ええ。これからどうするつもりかしら」
ローリーは答えた。
「無罪になったからといって、過去が消えるわけじゃない。本人も分かっているはずよ」
「分かっているからこそ、動くかもしれない」
「コールに?」
マイクは答えなかった。カーターが何をするつもりか、確かめる手段はない。だが、あの男がコールの命令に従い続けるとは到底思えなかった。
マイクは椅子の脇に置いた鞄を開けた。中から、小さな黒い手帳を取り出す。
「これを見てくれ」
ローリーは手帳を受け取った。
「何?」
「ニューヨークにいた頃、俺のところに届いた。送り主は分からない」
ローリーは表紙を確かめた。装飾も題名もない。使い込まれた様子もなく、黒い表紙には目立った傷ひとつなかった。
「誰かが、あなたに送ったの?」
「ああ。差出人の名前はなかった」
「中身は確認したの?」
「一通りな」
ローリーは手帳を開いた。
最初のページには、名前と日付が記されていた。次のページには企業名、役職、金額。短い記述の脇に、訴訟番号や事件の日付らしき数字が並んでいる。ページをめくるたび、同じ人物の名前が別の事件や企業と結びついていた。
ローリーの指が止まった。
「……コールCEO」
テラ・インフラテックの名前の下に、土地取引や資金の流れに関する記録があった。汚染された工業用地の買収。再開発計画に絡む不透明な取引。関係者の名前と、資金が移動した日付まで記されている。
ローリーはページをめくった。
「マリベル裁判官……」
裁判記録に関する記述が続いていた。再開発をめぐる訴訟、棄却された請求、関係者の名前。判決の年月日と、別のページに記された企業側の動きが符合している。
「これ、単なる人物一覧じゃないわね」
「そうだ」
「アンカレッジの有力者が、何人も載っている」
ローリーは名前を追った。オースティン。ドミニク・ハミルトン。エリス。リンカーン。ジューン・アトキンソン。
それぞれの名前の横に、過去の行為が簡潔に記されていた。裁判での不自然な判断。巨額の融資。報道の差し止め。検察が扱った事件の隠蔽。企業を通じた資金の移動。いずれも断定的な文章ではなく、日付や記録、関係者の名が添えられている。
ローリーは最初のページに戻った。複数の記述を照らし合わせる。別々に見えた事件が、同じ人物や組織を通じてつながっていた。
「これが本当なら、街の中枢にいる人間が、長いあいだ同じ仕組みを使ってきたことになる」
「その可能性がある」
「あなたは、どこまで調べたの?」
「手帳に書かれていることを、全部裏付けたわけじゃない」
マイクは机に両肘をついた。
「名前があるだけで有罪にはできない。記録が正しくても、それだけで犯罪を立証できるとは限らない」
ローリーは顔を上げた。
「それでも、これだけの情報が一か所に集まっている。誰かが意図的にまとめたのね」
「そう考えるのが自然だ」
「送り主は、何を望んでいるのかしら」
「分からない」
マイクは手帳を見た。なぜ自分に渡したのか。何を知っているのか。
ローリーは手帳を閉じた。表紙を見つめてから、マイクの前に置く。
「これを公にすれば、街中がひっくり返るわね」
「証拠がなければ、ただの告発文だ。相手に否定されて終わる」
「なら、証拠を集める」
マイクはローリーを見た。
「ああ」
ローリーは手帳から手を離した。
「マイク。あなたは、最初からこれを追っていたの?」
「帰ってきた理由は一つじゃない」
