コンテンプト・オブ・コート 6-38
アンカレッジ連邦地方裁判所。
マリベルの執務室に、エルマ・アトキンソンが入ってきた。
マリベルは机の向こうに座り、エルマを迎えた。机上にはラングドンの証拠捏造事件に関する報告書が置かれていた。
エルマは机の前で足を止めた。
「お騒がせして申し訳ありません」
マリベルは報告書から目を上げた。
「あなたが謝ることではないわ。捏造したのはラングドンでしょう」
「ですが、彼は私の部下です。監督する立場にありながら、見抜けなかった責任はあります」
「責任を感じることと、責任を引き受けることは違うわ。あなたは何をするつもり?」
エルマは即答した。
「ラングドンが何をしたのか、徹底的に調べます。誰の指示で動いたのか、ほかにも証拠を捏造した事件があるのか。隠された事実があれば、すべて明らかにします」
「検察内部にも調査が及ぶでしょうね。あなた自身が疑われる可能性もある」
「承知しています」
「検察の信用は失われた。回復するには時間がかかるわ。それでも続けるの?」
「はい」
エルマはマリベルの目を見た。
「真実を明らかにするのが検事の仕事です。組織の面子を守るために事実を隠すつもりはありません」
マリベルはしばらく黙っていた。
「以前のあなたなら、そこまで言い切れたかしら」
エルマは答えなかった。
ラングドンの捏造を見抜けなかった。カーターを有罪にするため、検察側の証拠を疑うことなく公判を進めてきた。法廷で映像を見たとき、自分が何を見落としていたのかを思い知らされた。
「……私は大きなミスを犯しました」
エルマは言った。
「だから、もう同じ間違いは繰り返しません」
マリベルはエルマを見据えた。
「エルマ、私のそばにいたいと言ったわね。今の気持ちは?」
エルマは一瞬、言葉を止めた。
マリベルのそばにいる。それは、彼女から学び、信頼を得ることだけを意味していたわけではない。マリベルが何を考え、何を守ろうとしているのか。そのすべてを知る機会でもあった。
だが、今は自分の立場を見失うわけにはいかなかった。
「変わりません。強い検事になりたいです」
マリベルは表情を変えなかった。
「強い検事、ね」
「はい。誰かの顔色をうかがうのではなく、事実を見て判断できる検事になりたいんです」
「強さを取り違えないことね。疑うことだけが強さではない。自分が信じたものが間違っていたとき、それを認められることも強さよ」
「肝に銘じます」
エルマは頭を下げた。
マリベルは机上の報告書を閉じた。
「ラングドンの件は、事実に基づいて進めなさい。誰であろうと、調査の対象から外してはいけない」
「分かりました」
「それから、あなた自身も調べられることになる。疑いを晴らしたいなら、記録を残し、手続きを守りなさい。正しいと信じているだけでは、何も証明できないわ」
エルマはうなずいた。
「はい」
退室しようとしたエルマに、マリベルが声をかけた。
「エルマ」
彼女は振り返った。
「あなたが強い検事になれるかどうかは、これからの行動で決まる」
「そう思っています」
エルマはそれだけ答え、執務室を出た。
扉が閉まる。
マリベルはしばらく、閉じた扉を見つめていた。
エルマはラングドンを追及するつもりだ。検察内部の調査が進めば、コールとの関係にも目が向くかもしれない。彼女がどこまでたどり着くかは分からない。
マリベルは携帯電話を手に取った。コールに連絡することもできたが、今はまだ動くべきではなかった。
エルマが何を見つけるのか。それを確かめてからでも遅くはない。
マリベルは電話を机に戻し、次の書類を開いた。
