コンテンプト・オブ・コート 6-37
アンカレッジ市内の病院。
車が正面玄関に止まると、カーターは後部座席のドアを開け、急いで降りた。マイクが駐車スペースに車を入れるより早く、カーターは自動ドアの向こうへ消えていた。
病院の廊下には消毒液の匂いが漂っていた。受付で妻の病室を確認し、エレベーターに乗る。扉が開くと、カーターは廊下を進んだ。
病室の前に看護師が立っていた。
カーターは足を止めた。
「妻はどこです?」
看護師はカーターの顔を見てから、病室の扉に目を向けた。
「ご主人ですか?」
「そうです。今、戻ってきたんです。妻に会わせてください」
看護師はすぐには答えなかった。
「申し訳ありません。処置を行っている最中です」
「処置?」
カーターは扉を見た。閉じられた扉の向こうから、人の動く気配がした。何をしているのか、誰がいるのか、ここからは分からない。
「何があったんです。容体が悪くなったんですか?」
「今はお待ちください」
看護師は言葉を選ぶように、一度口を閉じた。
「ご主人が来られる前から、すでに処置が必要な状態でした」
カーターの顔が強張った。
「俺は……裁判に出ていたんです」
説明する必要などないと分かっていた。それでも、口にせずにはいられなかった。
「ずっと、ここに来られなかった。やっと出られたんです。頼むから……」
声が途切れた。
看護師はカーターを見つめた。慰めるような言葉は口にしなかった。
「医師が対応しています。ここでお待ちください」
カーターは扉の前から動かなかった。
廊下の向こうからマイクとローリーがやってきた。二人はカーターの様子を見て、歩調を緩めた。
「どうした?」
マイクが尋ねた。
カーターは看護師から目を離さなかった。
「処置中だそうだ」
「奥さんの容体は?」
「教えてくれない」
カーターの声はかすれていた。
ローリーが看護師に近づいた。
「ご家族です。何か分かっていることはありませんか?」
「医師から説明があるまで、お待ちください」
看護師の返答は変わらなかった。彼女は病室の扉に目をやり、再び三人に向き直った。
カーターは壁に手をついた。裁判所を出るまでは、妻に会えることだけを考えていた。無罪が認められた。もう、誰にも殺人犯として扱わせない。そう伝えるつもりだった。
だが、病室の扉は閉じたままだった。
「……頼む」
カーターは看護師に向き直った。
「頼むから大丈夫だと言ってくれ」
看護師は答えなかった。
マイクは何も言わず、隣に立った。ローリーも口を開かなかった。今のカーターに、かける言葉は見つからなかった。
病室の向こうで、機器の電子音がかすかに聞こえた。
カーターは壁についた手に力を込めた。
二十年近く、自分の判断で人を動かし、時には脅し、時には法を利用してきた。だが、この扉の向こうで何が起きているのか、カーターには知る術がなかった。
「お願いです……」
声は、先ほどより小さかった。
看護師はカーターを見て、静かに言った。
「医師が出てきたら、すぐにお伝えします」
