コンテンプト・オブ・コート 6-35
アンカレッジ連邦地方裁判所。
閉廷を告げる声が消えても、法廷のざわめきは収まらなかった。記者たちは席を立ち、警備員に連行されるラングドンを追って出口へ向かった。傍聴席では、カーターの無罪をめぐって声が飛び交っている。
カーターはその場に立ったまま、しばらく動かなかった。
マイクが言う。
「カーター。もう行ける」
カーターはマイクを見た。何か言おうとしたが、口を閉じた。やがて小さくうなずき、法廷の出口へ歩き出した。
ローリーが二人の後に続いた。廊下には記者や裁判所職員が集まり始めていた。質問を浴びせようとする記者が近づいてきたが、マイクは足を止めなかった。
「カーター刑事、市長殺害事件について何かコメントを!」
「ラングドン検事の捏造を、いつから知っていたんですか?」
カーターは答えなかった。マイクも振り返らず、ローリーとともに進んだ。警備員が間に入り、記者たちを制止する。
裁判所の正面玄関を出ると、冷たい風が吹きつけた。カーターは階段の途中で立ち止まり、建物を振り返った。
「これで終わりか」
誰に向けた言葉でもなかった。
「市長殺害事件についてはな」
マイクが答えた。
「だが、お前の過去まで消えたわけじゃない」
カーターは視線を落とした。
「分かっている」
「行くぞ」
マイクは駐車場へ向かった。ローリーも続く。カーターは一度だけ裁判所を見上げてから、二人の後を追った。
車に乗り込むと、マイクはエンジンをかけた。ローリーが助手席でシートベルトを締め、カーターは後部座席に腰を下ろした。彼は窓の外を見たまま、両手を膝の上に置いていた。
「病院へ行くんだな」
マイクがミラー越しに尋ねた。
「ああ」
カーターの返事は短かった。
「妻の容体は?」
「変わっていなければ、まだ入院している」
言い終えると、カーターは口を閉じた。裁判の間も、妻のことが頭から離れなかった。自分が法廷に立っているあいだ、彼女は病室にいた。今日、釈放されたからといって、すべてが元に戻るわけではない。
ローリーが後部座席を振り返った。
「奥さんに裁判の経緯を説明しましょう」
カーターはローリーを見た。
「……ありがとう」
ローリーは返事をしなかった。彼が過去に何をしたのか、まだ分からないことが山ほどあった。市長殺害事件で無実だったことと、それ以外の罪は別だった。
マイクは車を発進させた。裁判所の建物がバックミラーの中で遠ざかっていく。
「ラングドンは逮捕された。映像も公になった。少なくとも、今回の事件でお前が犯人にされることはない」
カーターは窓の外に目を向けた。
「俺がやったことは、なくならない」
「そうだ」
マイクはそれ以上、何も言わなかった。
車は市街地へ入った。交差点を抜け、病院へ続く道路を進む。カーターは膝の上で手を組み直した。裁判の結果を喜ぶ余裕はなかった。
彼が今、確かめたいことは一つだけだった。
妻が、まだ自分を待っているかどうか。
マイクは前方を見据えたまま、アクセルを踏んだ。
