コンテンプト・オブ・コート 6-34
アンカレッジ連邦地方裁判所。
法廷では、マイクがラングドン検事への質問を続けていた。マリベル裁判長は正面から証人席を見ていた。
「まずは自己紹介をお願いします」
「エルマ・アトキンソン検事の直属の部下です」
「市長殺害事件では、担当検事を補佐し、証拠の収集にも関わりましたね?」
「はい」
マイクは一度、傍聴席を見回した。
「証人は、ずいぶん優秀な捜査官のようですね」
ラングドンは眉を寄せた。
「はい?」
「被告人の足跡と一致する靴、市長の血痕が付着したズボン。そのほか、被告人の有罪を裏付ける証拠を確保した。現場の刑事たちよりも早く」
「そうです。何か問題でも?」
「いえ。仕事が早いと思っただけです」
マイクは声の調子を変えなかった。
そのとき、法廷の扉が開いた。エイダンとローリーが入ってくる。ローリーはバッグを抱えたまま、マイクに目を向けた。エイダンが小さくうなずく。
マイクは二人の合図を確認し、ラングドンに向き直った。
「証人は、いつ犯行現場に行きましたか?」
「刑事から連絡を受けてからです」
「本当ですか?」
「もちろんです」
「分かりました」
マイクは証人席から目を離し、裁判長に向き直った。
「裁判長。たった今、新たな証拠を入手しました。提出と公開の許可を求めます」
エルマが立ち上がった。
「裁判長、事前に協議していません。検察側は証拠の内容を把握していません」
「両者、こちらへ」
マリベルはマイクとエルマを呼び寄せた。二人が近づくと、声を落として尋ねた。
「証拠とは何ですか?」
「アトキンソン検事のためにも、公開を認めていただきたい」
マリベルの目が細くなった。
「検察のため?」
「検察内部で証拠が捏造されていたとすれば、アトキンソン検事まで責任を問われかねません。彼女の潔白を示すためにも、公開が必要です」
エルマが声を押さえ、言う。
「ラングドン検事が証拠を捏造したと?」
「映像を見ていただければ分かります」
マリベルはエルマを見た。
エルマは一瞬、ラングドンのほうに目をやった。何事もないように座っている。エルマは唇を結び、裁判長に向き直った。
「……裁判長。証拠の公開に同意します」
「分かりました。公開してください」
ローリーがマイクに記録媒体を渡す。マイクは法廷の設備を使い、ドラレコの映像をスクリーンに映し出した。
エルマは息を飲んだ。市長が殺害された現場が映っている。周囲の状況も確認できる。やがて、一人の男が画面に現れた。
ラングドンだった。
顔がはっきりと映っている。ラングドンは周囲を確かめると、地面に靴跡を意図的につけていった。被告人の足跡に見せかけるための工作だった。続いて、現場に証拠を残すような動きも記録されていた。
法廷がざわついた。
「これは……」
傍聴席から声が漏れた。ラングドンの顔から血の気が引く。ラングドンは立ち上がり、証人席から離れた。
「待ちなさい!」
警備員が動いた。ラングドンは出口へ向かおうとしたが、警備員二人にその場で取り押さえられた。
「離せ!俺は悪くない!」
叫び声が法廷に響く。
エルマが立ち上がった。顔には動揺が残っていたが、声は明瞭だった。
「裁判長。検察は起訴の誤りを認めます。証拠が捏造された事実を、たった今確認しました。したがって、検察は公訴を取り消します」
マリベルはしばらく沈黙した。スクリーンから目を離し、カーターを見た。
「検察が公訴を取り消したため、被告人に対する公訴を棄却します。閉廷します」
木槌の音が法廷に響いた。
カーターは動かなかった。長いあいだ自分に向けられていた疑いが、たった今、晴れた。
警備員に連行されるラングドンの声が、廊下へ遠ざかっていく。記者たちは一斉に立ち上がり、法廷内は騒然となった。
マイクはローリーから目を離し、カーターに短く告げた。
「出よう。行きたいところがあるだろう」
カーターはうなずいた。
