コンテンプト・オブ・コート 6-32
アンカレッジ市内。
通り沿いの広場では、コールの選挙運動が続いていた。演説台の背後にはテラ・インフラテックのロゴをあしらった看板が立ち、スタッフが候補者の名前を印刷したチラシを配っていた。
コールは集まった市民に握手を求め、カメラを向ける記者には笑顔を見せた。
「皆さんの声を聞き、アンカレッジの未来をつくります。ノース・ホライズン・シティ計画は、そのための第一歩です」
拍手が起きた。コールは軽く頭を下げ、次の支援者へ手を差し出した。
ジャケットの内ポケットで携帯電話が震えた。
コールは画面を確認した。オースティンだった。
「少し失礼します」
スタッフにそう告げ、演説台の脇を離れた。人の声が遠のく建物の側面まで歩き、電話に出た。
「何だ?」
『今、話せますか』
「手短にな。選挙運動中だ」
オースティンの声はいつもより硬かった。
『カーターの公判で動きがありました』
コールは壁に背を預けた。
「カーターが何か話したのか?」
『マイク・ハンターが、あなたを証人として呼ぶよう求めました。マリベル裁判官も認めました』
コールは黙った。
通りの向こうでは、スタッフがチラシを配り続けていた。誰かが自分の名を呼んでいる。コールはそちらを見ず、電話を耳に当てたまま尋ねた。
「ヤツが俺を法廷に立たせようとしていると?」
『そうです。二十分間の休廷に入りました。再開後の対応は、まだ分かりません』
コールは鼻から短く息を吐いた。
カーターが自分の名前を出したことは、想定の範囲内だった。あの男は追い詰められている。無罪を勝ち取るためなら、何を話してもおかしくない。
問題はマイクだった。
あの弁護士はカーターの過去を知りながら、市長殺害の罪だけは覆そうとしている。その先に何を狙っているのか、コールにはまだ読み切れなかった。
「裁判官は何と言っている?」
『証人として認めただけです。今のところ、それ以上の連絡はありません』
「分かった」
コールは電話を切らず、数秒間、画面を見つめた。
法廷に呼ばれたからといって、すぐに応じる必要はない。出廷要請を受けていないふりをする。正式な連絡が来るまでは、何も知らないという立場を崩さなければいい。
選挙の最中に自分から裁判へ出向く理由はなかった。まして、カーターの証言を聞くために時間を割く必要もない。
「また連絡する」
コールはそれだけ告げ、通話を終えた。
携帯電話を内ポケットに戻し、ジャケットの襟を整える。顔から緊張を消し、口元にいつもの笑みを浮かべた。
広場へ戻ると、スタッフの一人が駆け寄ってきた。
「CEO、次の演説まであと五分です」
「分かった」
コールは何事もなかったように答えた。
「予定どおり進めてくれ」
コールは再び人々の前へ歩き出した。握手を求める手が伸び、カメラのシャッターが切られる。
市長殺害事件の公判で、自分の名が呼ばれた。
それでも、コールの表情に変化はなかった。今は選挙運動を続ける。それが最善だった。
