コンテンプト・オブ・コート 6-30
アンカレッジ市内。
エイダンの車は、幹線道路から外れた一角で止まった。倉庫と小規模な事業所が並ぶ一帯だった。目的の会社は、その奥にある低い建物に看板を掲げていた。
「ここか」
エイダンが車を降りた。
ローリーは看板を確認してから、彼の後に続いた。
事務所の中には机が三つと、書類棚が並んでいた。壁際にはキッチンカーの写真が何枚も貼られている。従業員らしい男が顔を上げた。
「何かご用ですか?」
ローリーは弁護士の身分証を見せた。
「ローリー・ブルックスです。こちらはエイダン・フォックス。少しお話を伺いたいのですが」
男は二人を警戒するように見た。
「何の話でしょう」
「御社が所有しているキッチンカーについてです。市長殺害事件の捜査に関係しています」
男の表情が変わった。
「うちは事件とは関係ありませんよ」
「確認したいことがあるんです」
ローリーは声を落ち着かせた。
「事件現場に、御社のキッチンカーが止まっていた可能性があります。当時の車両を特定したいのですが、運行記録は残っていますか?」
男は首を振った。
「運行記録なんてありませんよ。運転手が自分の判断で目的地に向かう。それだけです」
「車両の台数は?」
「同じ型のキッチンカーなら、何十台もあります。外装も似ていますし、遠目に見ただけじゃ区別はつきません」
エイダンが壁の写真に目を向けた。似た形の車が何台も並んでいる。車体の色や看板には違いがあったが、遠くから見れば見分けにくい。
「事件当日の車を、記録で特定するのは無理か」
「無理です。毎日何台も動いていますよ」
「ドラレコはどうですか?」
ローリーが尋ねた。
男は一瞬、考えるように黙った。
「車によっては付いています。全部じゃありませんが」
「映像は残っていますか?」
「さあ。確認してみないと分かりません」
ローリーはエイダンと視線を交わした。
「それを確認させてもらえませんか」
「警察からの正式な依頼ではないんですか?」
「私たちは弁護士と調査協力者です。映像が見つかれば、必要な手続きを取ります。勝手に持ち出したり、無断で公開したりするつもりはありません」
男は椅子から立ち上がり、奥の棚を確認した。しばらくして、管理台帳と数枚の車両一覧を持って戻ってきた。
「今ある資料はこれだけです。車両番号と、分かる範囲の整備記録が載っています」
ローリーは一覧を受け取った。記載された番号を目で追う。同じ型の車両が何台も並び、手書きの記録には空欄も多かった。
「この中から一台を絞り込むのは難しいですね」
「そうでしょうね」
男は申し訳なさそうに言った。
「でも、ドラレコが残っている車なら調べられます。全部確認するには時間がかかりますが」
「私たちが直接確認してもいいですか?」
エイダンが付け加えた。
「どうぞ。現場に出ている車もありますが」
ローリーは一覧の写しを頼み、連絡先を交換した。
事務所を出る。二人は駐車場を見た。
「一台ずつ当たるしかないな」
「ええ。運行記録がない以上、自分の目で確認するしかない」
ローリーは手元の一覧を見た。車両番号は並んでいるが、どれが事件現場にいたのかは分からない。今の段階では、候補を絞る手掛かりさえ足りなかった。
「見つかると思うか?」
エイダンが尋ねた。
「見つけるしかない。カーターの裁判は待ってくれない」
ローリーは一覧をしまい、最初のキッチンカーに向かった。
