コンテンプト・オブ・コート 6-26
マリベルはハンドルを強く握り、前方の車を見た。
父を罵った男の車が、道路の先を走っている。ナンバーは覚えている。黒いセダンだった。
マリベルはセダンとの距離を保ち、後を追う。運転手の男は、追跡に気づいていないようだった。
マリベルはハンドルを握り直した。
父の顔が浮かんだ。耳に残っているのは、あの男の言葉だった。
信号が変わった。セダンが交差点を抜ける。マリベルも続いた。
やがて、前方の道から車が減った。セダンが速度を落とし、道路脇へ寄ろうとした。
マリベルはアクセルを踏んだ。
次の瞬間、車体が激しく揺れた。
衝突音が響き、セダンが前へ押し出された。マリベルの車も跳ね返される。シートベルトが胸に食い込み、フロントガラスの向こうでセダンが斜めに止まった。
男が運転席のドアを乱暴に開けた。
「何だこの野郎!」
男は車から降り、マリベルの車へ歩いてきた。顔を赤くし、片手を振り上げている。
「どこ見て運転してやがる!」
マリベルは男を見た。
父の葬儀で、死を喜んでいた男。父をクズと呼び、地獄へ落ちろと吐き捨てた男。
男が近づいてくる。
マリベルはアクセルを踏み込んだ。
エンジンがうなり、車が前へ飛び出した。
男の表情が変わった。逃げる間もなかった。衝撃が車体を通じて伝わり、男の体がボンネットに跳ね上がる。鈍い音がした。男は車の前方から転がり落ち、路面に倒れた。
マリベルはブレーキを踏んだ。
男は動かなかった。片腕が不自然な角度で伸び、上着の裾が路面に広がっていた。
しばらくして、マリベルはシフトレバーに手を伸ばした。
ギアをバックに入れる。
後方を確認する。道路に車影はなかった。
