コンテンプト・オブ・コート 5-9
アンカレッジ市内。
コールの選挙事務所。
一階の広い部屋には、長机と椅子が並んでいた。壁にはコールの顔写真と選挙用のポスターが貼られている。
集まったボランティアたちの前に、ジョニーが立っていた。
「さあ、今日も市内の隅々を回って、有権者にアピールしましょう!」
拍手が起きた。
ジョニーは満足そうに頷いた。
「街頭でのビラ配り、電話での支持依頼、SNSへの投稿。担当を確認して、予定どおり動いてください。いいですね?」
「はい!」
ボランティアたちが声をそろえた。
その様子を、二階の窓からコールが見ていた。
やがてジョニーが階段を上がってくる。
「CEO、準備は順調です」
「うまくやってるな」
「ありがとうございます。サクラのバイトもたくさん雇ってます。良いウワサを大々的に広めて、ネットのアンチコメントは潰す。バイトを使ってライバル候補の悪口も書き込ませます」
コールは窓の外を見たまま答えた。
「頑張ったバイトには、たくさん報酬をやれ」
「もちろんです」
「邪魔する奴は徹底的につぶせ」
ジョニーは笑みを浮かべた。
「任せてください」
そのとき、階下から声がした。
「お客様がお見えです」
ジョニーが階段の方を見る。
「誰だ?」
「マイク・ハンター弁護士です」
ジョニーの顔から笑みが消えた。
「……あいつが?」
コールは振り返った。
「通せ」
しばらくして、マイクが二階へ上がってきた。
ジョニーが前に出る。
「お前、何しに来た!殺されたいのか」
マイクはジョニーを見た。
「お前こそ、何してんだ」
「俺はCEOの選対本部長だ」
マイクは室内を見回し、ジョニーに視線を戻した。
「お前が?すごいな」
ジョニーが顔をしかめる。
「てめえ……」
「ジョニー」
コールが制した。
ジョニーは口を閉じた。
コールはマイクに向き直った。
「これはこれは。最近よく会いますね」
「そうですね」
「それはそうと、ブローカーを連れてくるなら、場所は考えてもらわないと」
マイクは答えず、コートの内側から携帯電話を取り出した。
殺し屋が持っていたものだった。
マイクはそれをコールに差し出した。
「市長を殺害した男の携帯電話です」
コールは受け取らず、端末を見た。
マイクは続けた。
「ブローカーの件が一切報道されていませんね。これもアンカレッジのおもてなしですか?」
コールの表情がわずかに変わった。
「大切な行事を台無しにしておいて、図々しいやつだ」
「携帯の中が気になるなら、どうぞ」
コールはようやく携帯電話を受け取った。
画面を確認する。
「空の携帯を見て何になる?」
コールは端末をジョニーに渡した。
「ジョニー。この遺品をどこかにやれ」
「分かりました」
ジョニーは携帯電話を床に叩きつけた。
硬い音が響く。
画面が割れ、端末が床を滑った。
ジョニーはそれを拾い上げ、窓の外に放り投げた。
コールは何事もなかったように、スーツの袖を整えた。
「ほかに用件は?」
マイクは答えず、コールの目を見つめた。
ジョニーが窓を閉める。
室内には、階下のボランティアたちの声が響いていた。
「コールCEOに一票を!」
