コンテンプト・オブ・コート 5-7
アンカレッジ連邦地方裁判所。
ローリーがマリベル裁判官の執務室を訪ねる。
「失礼します」
マリベルは机から顔を上げた。
「ローリー。どうしたの?」
「少し、お話ししたくて」
マリベルはローリーの顔を見た。
「何かあったのね」
「……はい」
マリベルは書類を閉じた。
「外へ出ましょう」
二人は裁判所を出て、近くの公園へ向かう。昼前の公園には人影が少なかった。歩道の脇にはベンチが並び、木々の間を冷たい風が通り抜けていく。
マリベルはベンチの前で足を止めた。
「……聞きたいことがあるんでしょう?」
ローリーは少し迷った。
「マイク・ハンターの話は本当ですか?」
マリベルはすぐには答えなかった。
「気になるのね」
「彼は、市長殺害事件の黒幕がいると言っています。それに、裁判所の中にも事件に関わっている人間がいると」
マリベルはローリーを見た。
「それで、彼を信じるの?」
「分かりません。ただ、彼は何かを知っているように見えます」
マリベルは公園の奥へ目を向けた。
「ローリー。あなたは、誰かを法律で罰するということが特権だと思う?」
突然の質問に、ローリーは戸惑った。
「……特権?」
「ええ。裁判官は判決を下す。検察は罪を追及する。弁護士は依頼人を守る。それぞれに役割があるわ」
マリベルは歩き出した。
ローリーも隣を歩く。
「でも、誰かを罰するということは、簡単な仕事ではないの。判決一つで、その人の人生が変わる。家族の人生まで変わることもある」
「分かっています」
「本当に?」
マリベルは足を止めた。
「皆、自分のことは棚に上げて、何かあれば裁判官のせいにする。私の周りは敵だらけよ」
ローリーは黙って聞いていた。
「人を罰するということは、特権ではなく、刑罰のように感じることもある」
マリベルは再び歩き始めた。
やがて、二人はベンチに座った。
「マイク・ハンターも敵の一人ね」
ローリーが顔を上げる。
「彼も?」
「ええ。彼も同じよ。大昔の判決で私を恨み、敵になった」
「どんな判決ですか?」
マリベルはローリーを見た。
「ずいぶん昔のことよ。説明しても、あなたには分からないでしょう」
ローリーは口を閉じた。
「彼が何を言っているのか、私には分からない。でも、彼が私を敵だと思っていることは確かね」
「……マイクは、そんなことは言っていません」
「直接は言わないでしょうね」
マリベルは静かに笑った。
「人は、自分の目的を隠すものよ」
ローリーは膝の上で手を組んだ。
マイクは何かを隠している。
それは感じていた。
だが、マリベルの言葉も無視できなかった。
「ローリー」
マリベルが呼んだ。
「彼のことを、どこまで知っているの?」
ローリーは答えに詰まった。
マイクがなぜアンカレッジに戻ってきたのか。なぜ市長殺害事件に固執するのか。ヒューイ・フリーマンとどんな関係なのか。
知らないことばかりだった。
「……よく知っているとは言えません」
マリベルは頷いた。
「そうでしょうね」
声に責める響きはなかった。
「だから、急いで信用しないこと。彼が何を望んでいるのか、よく見極めなさい」
ローリーはマリベルを見た。
「裁判官は、マイクが嘘をついていると思うんですか?」
マリベルは少し考えた。
「私は、彼が何を隠しているのか知らないわ」
ローリーは黙った。
「ただ、知らない人間に自分の判断を預けてはいけない。それだけは覚えておきなさい」
「……はい」
「あなたは弁護士よ。自分で考えて、自分で判断するの」
マリベルはローリーの肩に手を置いた。
「私はあなたを信じているわ」
ローリーは小さく頷いた。
