コンテンプト・オブ・コート 5-6
アンカレッジ。
ローリーの自宅。
居間のテーブルには、飲みかけのコーヒーが二つ置かれていた。
トーマスは椅子に座り、向かいにいるローリーを見ていた。
「ローリー、今の事務所を辞めなさい」
ローリーは顔を上げた。
「……どうして?」
「借金は店を売って返す」
トーマスはテーブルの上で両手を組んだ。
「マイク・ハンターと一緒に働くのはやめなさい」
ローリーは父親を見つめた。
「お父さん……」
トーマスの声は静かだった。
「ヴァレンタイン裁判官にとって、あの除幕式は何より大切なものだった」
「除幕式のこと?」
トーマスは窓の外へ目を向けた。
「市の関係者も集まっていた。あの人が長い時間をかけて準備してきた式典だ。それをマイク・ハンターは台無しにした」
ローリーは口を開きかけたが、何も言わなかった。
「お前は、裁判官がどれだけお前を助けてくれたか、忘れていないだろう」
「忘れてないわ」
ローリーは小さく答えた。
「お母さんがいなくなってから、お前はずっと探していた。警察にも相談して、あちこちを回って……それでも何も分からなかった」
トーマスはローリーを見る。
「そんなお前を支えてくれたのが、裁判官だった」
ローリーは視線を落とした。
母親の姿を最後に見たのは、二十年前の雨の降る日だった。
あの日から、どれだけ探しても手がかりは見つからなかった。
マリベルは、そんなローリーの話を聞き、何度も相談に乗ってくれた。必要なときには人を紹介し、ローリーが弁護士になるまで支えてくれた。
「……分かってる」
「なら、恩を忘れるな」
トーマスの声に力がこもった。
「裁判官がいなければ、お前はもっとひどいことになっていたかもしれない」
ローリーは父親を見た。
「だからって、マイクが悪いと決まったわけじゃないわ」
トーマスは首を振った。
「あの人の顔に泥を塗るようなことをした人間と、親しくする必要はない」
「お父さん……」
「頼むから、あの男から離れてくれ」
トーマスはローリーの手を取った。
「借金のことは心配するな。店を売れば何とかなる。お前まで巻き込みたくないんだ」
ローリーはトーマスの手を見つめた。
父は店を守ろうとしている。
それでも、事務所を辞めるとは言えなかった。
マイクは何かを隠している。
だが、市長殺害事件に向き合う姿勢まで嘘だとは思えなかった。
ローリーは答えず、ただ、父親の手を握り返した。
トーマスはそれ以上、何も言わなかった。
窓の外では、夕暮れの光がゆっくりと消えていく。
ローリーは父親の手を握ったまま、黙って座っていた。
