コンテンプト・オブ・コート 5-20
アンカレッジ刑務所。
面会室。
ローリーは机の向こう側に座っていた。
扉が開き、看守に付き添われてカーターが入ってくる。
カーターはローリーを見ると、少し眉をひそめた。
「……一人か?」
「ええ」
ローリーは頷いた。
カーターは向かいの椅子に座った。
「マイク・ハンターはどうした?」
「別の調査をしています」
カーターは机の上に両手を置いた。
「それで、今日は何の用だ?」
ローリーは一度、息を整えた。
「聞きたいことがあります」
「裁判以外に話すことが?」
「マリベル・ヴァレンタイン裁判官についてです」
カーターの表情が変わった。
ローリーはカーターを見つめた。
「あなたが知っていることを話してください」
カーターはすぐには答えなかった。
しばらく机の表面を見つめていたが、やがて顔を上げる。
「……俺がコールと組んでいたことは知ってるな」
「はい」
「当時、俺は警察の仕事とは別に、コールの周辺で動いていた。奴の仕事を手伝い、必要な情報を集めていた」
ローリーは黙って聞いていた。
「だが、コールは自分の判断だけで動いていたわけじゃない」
「どういう意味ですか?」
カーターは声を落とした。
「いつも、コールに指示を出す人間がいた」
ローリーの目が細くなる。
「誰ですか?」
「分からない」
「一度も名前を聞かなかったんですか?」
「ああ。コールは、その人物について決して口にしなかった」
カーターは椅子の背にもたれた。
「電話で話していることもあった。誰かと会ったあと、急に方針を変えることもあった。俺が理由を尋ねても、答えなかった」
「その人物は、コールより上の立場と?」
「そう考えるのが自然だろうな」
ローリーはしばらく考え、尋ねる。
「……それが、マリベル裁判官だと?」
カーターはローリーを見つめ、数秒後、ゆっくり口を開いた。
「そうかもしれない」
ローリーは息をのんだ。
「なぜ、そう思うんですか?」
カーターは少し考えてから答えた。
「アンカレッジで、コールの上に立ち、奴に指示を出せる人間は一人しかいない」
ローリーは首を横に振った。
「でも、裁判官は……」
言いかけて、口を閉じた。
ローリーの脳裏に、これまでの記憶がよみがえる。
弁護士として失敗したとき、支えてくれた。
何度も助言をくれた。
自分が目標にしてきた人。
その人物が、コールの背後にいるというのか。
カーターはローリーの表情を見ていた。
「信じられないか?」
「……はい」
ローリーは正直に答えた。
「私にとって、あの人は恩人です。そんなことをする人だとは思えません」
「俺も、以前はそう思っていた」
カーターは自分の左腕に目を落とした。
古い傷跡が、薄く残っている。
「俺は、あの女が何をしているのか知らなかった。いや、知ろうとしなかったのかもしれない」
カーターは顔を上げた。
「お前は違う。疑問を持ったなら、最後まで調べろ」
「……分かってます」
ローリーはファイルを握りしめた。
マリベルが黒幕だという証拠は、まだない。
しかし、マイクとカーターの話を聞いた以上、もう何も知らなかった頃には戻れなかった。
「カーター刑事」
「何だ?」
「マイクは何を知っているんですか?」
カーターは笑みを浮かべた。
「あいつは、俺より多くのことを知っている」
「何も教えてくれません」
「あいつには、あいつの理由があるんだろう」
カーターは立ち上がった。
面会終了の時間だった。
ローリーも立ち上がる。
「また来ます」
カーターは看守に付き添われ、面会室を出ていく。
扉が閉まった。
ローリーは一人、机の前に立っていた。
マリベル・ヴァレンタイン。
自分が信頼してきた裁判官。
マイクが黒幕として挙げた人物。
ローリーはゆっくりとファイルを閉じた。
マイクの過去を調べる必要がある。今度こそ、彼が知っていることを聞き出すために。
ローリーは面会室を出た。
廊下を歩きながら、心の中で何度も問いかける。
――本当に、あの人なの?
答えは出なかった。
