コンテンプト・オブ・コート 5-18
アンカレッジ。
テラ・インフラテック本社。
最上階の社長室。
コールはデスクの前に座っていた。
目の前には、市長選に関する資料が広げられている。
支持率の調査結果。
選挙区ごとの情勢。
企業からの支援状況。
どれも、これからの選挙戦に必要なものだった。
だが、コールは資料を読む気になれなかった。
ブローカーの告白。
コールは手にしていたペンを机に置いた。
「……マイク・ハンター」
低く呟く。
そのとき、ドアがノックされた。
「入れ」
秘書が入ってきた。
いつもと変わらないスーツ姿だったが、表情には緊張が浮かんでいた。
コールは顔を上げた。
「裁判のことは聞いたな」
「はい」
秘書は立ったまま答えた。
「法廷で、私の名前が出ました」
コールはしばらく秘書を見つめた。
「あの野郎。調子に乗りやがって」
秘書は何も言わなかった。
コールは椅子から立ち上がり、窓の前まで歩いた。
秘書が口を開く。
「ブローカーは殺し屋を紹介したこと、その依頼人が私だったことを証言しました」
コールが振り返り、言う。
「お前は、しばらく身を隠せ」
「分かりました」
「アンカレッジから離れろ」
コールはデスクに戻り、資料を閉じた。
「遠くに行って、誰にも見つかるな。連絡も必要最低限にしろ」
「分かりました」
秘書は頭を下げた。
「いつまででしょうか?」
「俺がいいと言うまでだ」
コールは即答した。
「余計なことはするな」
「承知しました」
秘書は頭を下げ、執務室を出ていった。
コールはデスクの上の資料を手に取る。
「ブローカーの証言だけで、何が変わる?」
そう呟いたものの、表情は険しいままだった。
そのとき、再びドアがノックされた。
「入れ」
ジョニーが入ってきた。
「CEO、話があると」
コールは資料をデスクに戻した。
ジョニーはコールの顔を見る。
「法廷で秘書の名前が出たそうですね」
「そうだ」
「ブローカーが余計なことを話したようで」
コールは答えなかった。
ジョニーは一歩近づいた。
「……あの野郎、俺が始末しましょうか?」
コールがジョニーを見る。
「誰を?」
「マイク・ハンターです」
ジョニーの声には怒りがこもっていた。
「これ以上、好き勝手に動かせておくわけにはいきません。今度こそ、確実に始末します」
コールはしばらく考えた後、静かに言った。
「お前は市長選に集中しろ」
「だが、あいつはCEOの邪魔をしています」
「分かっている」
コールは窓の外を見た。
アンカレッジの街が広がっている。
市長選。
ノース・ホライズン・シティ。
そして、マイク・ハンター。
コールはゆっくりと振り返った。
「俺が市長になれば、マイク・ハンターは死んだも同然だ」
ジョニーは黙ってコールを見た。
「裁判の途中で何が起きようと、最後に決定を下すのは裁判官だ」
「はい」
「選挙に勝てば、俺の立場は変わる。そうなれば、あいつが何をしようと関係ない」
ジョニーは頷いた。
「分かりました。選挙に全力を尽くします」
コールは窓の外へ目を向けた。
「マイク・ハンターの監視も続けろ」
「承知しました」
ジョニーは一礼し、執務室を出ていった。
市長選まで、時間は限られている。
マイク・ハンターが何を知っていようと、今は選挙に勝つことが最優先だった。
