コンテンプト・オブ・コート 5-17
アンカレッジ連邦地方裁判所。
証人席には、ブローカーが座っている。
マイクがブローカーに尋ねる。
「証人はアンカレッジで有名なブローカーですね?」
「……そうです」
「これまで何度も仕事をしてきた。それなのに、前科はない。間違いありませんね?」
ブローカーは一瞬、言葉に詰まった。
「はい。間違いありません」
マイクは小さく頷いた。
「それは、証人が仕事のできる人間だという証拠ですね」
「異議あり」
エルマが立ち上がった。
「その質問に答える必要はありません。裁判長」
マリベルはマイクを見た。
「弁護人。質問がないのなら着席してください」
マイクはその場に立ったまま、傍聴席へ視線を向けた。
ちょうどそのとき、法廷の扉が開いた。
エイダンが入ってくる。その隣には年配の女性、ブローカーの母親がいた。
二人は後方の傍聴席へ進み、静かに腰を下ろした。
ブローカーは母親の姿に気づいた。
一瞬、顔がこわばる。
マイクはその反応を見逃さなかった。
「……裁判長」
マイクが口を開く。
「裁判の本質に関わる質問があります」
マリベルが眉をひそめた。
「簡潔にしなさい」
「証人。四年前、麻薬犯罪の取り調べを受けましたね?」
ブローカーの顔から血の気が引いた。
「……何の話ですか?」
「そのとき、どうやって罪を逃れたんです?」
エルマが立ち上がる。
「異議あり!本件とは無関係な質問で、審理の本質をぼかしています」
マイクはエルマを見ずに続けた。
「では、七年前の事件はどうですか?あのときも捜査対象になりながら、起訴を免れていますね」
「異議を認めます」
マリベルが告げた。
「弁護人、警告します。着席してください」
マイクは動かなかった。
ブローカーをまっすぐ見つめている。
「もう一度聞きます。あなたは誰に殺し屋を紹介したんですか?」
ブローカーは唇を引き結んだ。
「答えられません」
マイクは証人席に近づき、顔を寄せた。
そして、周囲には聞こえない声で囁いた。
「よく聞け。次に座るのは被告人席だ。お前は母親の前で裁かれることになる」
ブローカーの目が傍聴席へ動く。
母親は不安そうに息子を見つめていた。
「母親は心臓を患っているらしいな。お前の本当の姿を見たら、どれほどショックを受けるか」
「……やめろ」
「なら、早く名前を言え」
マリベルが机を強く叩いた。
「マイク・ハンター弁護士!着席しなさい。これ以上続けるなら、法廷侮辱罪で処罰します」
マイクはゆっくり顔を上げた。
「分かりました」
そう言って、一歩下がる。
その瞬間、ブローカーが椅子を鳴らして立ち上がった。
「待ってください!」
法廷中の視線が集まった。
ブローカーは震える手で机をつかんだ。
「私は……報酬を受け取り、殺し屋を紹介しました」
エルマが目を見開く。
「何ですって?」
ブローカーは顔を伏せた。
「依頼人は……秘書でした」
マイクがすぐに尋ねる。
「誰の秘書ですか?」
ブローカーは傍聴席の母親を一度だけ見た。
それから、観念したように答えた。
「ケンドリック・コールCEOです」
法廷が騒然となった。
記者たちが一斉に立ち上がり、ペンを走らせる。
カーターはブローカーを見つめていた。
エルマは言葉を失い、マリベルは険しい表情で証人を見ている。
ブローカーは声を震わせながら続けた。
「まさか、市長を殺すとは思いませんでした。私はただ、依頼された男を紹介しただけなんです」
マイクはブローカーを見た。
「あなたが紹介した男が、市長を殺害したと?」
「はい……」
「その依頼を受けたのは、いつですか?」
「市長が殺される少し前です」
「報酬は?」
「現金で受け取りました」
マイクは一度、マリベルへ視線を向けた。
「質問は以上です」
マリベルはしばらく沈黙していた。
やがて、木槌を手に取る。
「本日の審理はここまでとします。次回、判決を言い渡します」
木槌が鳴った。
傍聴席が一斉にざわめく。
後方に座っていたラングドン検事がゆっくり立ち上がった。
ラングドンはマリベルを見たあと、ブローカーへ視線を戻した。
そして、何かを決意したように、法廷の出口へ向かって歩き始めた。
