コンテンプト・オブ・コート 5-16
アンカレッジ連邦地方裁判所。
正面玄関には、報道関係者が集まっていた。
警備員が出入りする人々を確認している。
そのとき、一台の車が正面玄関の近くに止まった。
ドアが開く。
エイダンの部下が二人、車から降りた。
続いて、後部座席から年配の女性がゆっくりと降りてくる。
ブローカーの母親だった。
女性は裁判所を見上げた。
「……本当に、ここで息子が証言するんですか?」
部下の一人が頷いた。
「その予定です」
女性は手に持った鞄を握り直した。
「私は、あの子が何をしているのか、よく知りません」
声には不安がにじんでいた。
「昔から、聞いても話してくれない子でした。仕事のことも、お金のことも……」
部下たちは黙って聞いていた。
女性は目を伏せた。
「それでも、私の息子なんです」
「分かっています」
部下の一人が静かに答えた。
「だからこそ、今日、来ていただきたかったんです。息子さんが何を話すのか、あなたにも聞いてほしいと思いまして」
女性は顔を上げた。
「息子は、私が来たことを知っているんですか?」
「知りません」
「そう……」
女性は裁判所の入口を見つめた。
「私が行けば、あの子は本当のことを話してくれるでしょうか」
部下は答えに迷った。
「それは、本人次第です」
女性は小さく頷いた。
エイダンが早足で近づいてくる。
部下と女性を確認すると、腕時計に目を落とした。
「間に合ったか」
部下の一人が答える。
「いろいろありまして」
エイダンは女性に向き直った。
「来ていただいてありがとうございます」
女性は不安そうにエイダンを見た。
「私は、ただ息子の証言を聞きたいだけです」
「それで十分です」
エイダンは裁判所の入口を見た。
「尋問が始まっています」
女性の顔がこわばった。
「もう始まっているんですか?」
「はい」
エイダンは部下たちに視線を向けた。
「行くぞ」
エイダンたちが入り口に向かう。
女性も後に続こうとしたが、玄関の前で足を止めた。
今、息子が証人席に座っている。
何を聞かれ、何を答えているのか。
女性には分からなかった。
ただ、これから、息子の知らなかった一面を知ることになるかもしれない。
女性は胸元に手を当て、深く息を吸った。
