コンテンプト・オブ・コート 5-10
アンカレッジ連邦地方裁判所近くの公園。
ベンチのそばに落ち葉がたまり、冷たい風が木々の間を抜けていく。
ローリーはベンチに座っていた。
隣にはマリベルがいる。
マリベルは前を向いたまま言った。
「マイク・ハンターが前科者だったことを知っていた?」
ローリーの表情が止まった。
「……初耳です」
「そうでしょうね」
マリベルは静かに続けた。
「あなたは彼のことを知らない。経歴も、過去に何をしていたのかも。そんな相手と一緒に仕事をしているのよ」
ローリーは膝の上で手を組んだ。
「前科があるからといって、今の仕事まで否定されるわけではありません」
「もちろんよ」
マリベルはすぐに答えた。
「過去を理由に人を決めつけるつもりはないわ。ただ、あなたが何も知らないまま、彼に利用されているのではないかと心配なの」
ローリーはマリベルを見た。
「マイクは私を利用しているんでしょうか?」
「それは、あなた自身が判断することよ」
マリベルは足を組みなおした。
「でも、彼があなたにすべてを話しているとは思えない」
ローリーは答えなかった。
市長殺害事件のこと。
ヒューイ・フリーマンのこと。
マイクが何を知り、何を隠しているのか。
知らないことばかりだった。
マリベルはローリーの様子を見ていた。
「ローリー。あなたは優秀な弁護士よ」
「ありがとうございます」
「だからこそ、もっと自分に合った環境で働いてほしいの」
ローリーが顔を上げる。
「自分に合った環境?」
「ええ。あなたに相応しい法律事務所を紹介するわ。経験豊富な弁護士もいるし、安心して仕事に集中できるはず」
ローリーはしばらく黙っていた。
「……マイクの事務所を辞めて、そちらへ移れということですか?」
「決めるのはあなたよ」
マリベルはローリーを見た。
「ただ、私はあなたに、私を敵視しているあの男と一緒に働いてほしくない」
ローリーの表情が変わった。
「マイクは裁判官を敵視していますか?」
「彼の行動を見ていれば分かるでしょう」
マリベルは立ち上がった。
「裁判官を疑い、裁判所に問題を持ち込み、事件をかき回す。彼が何を目的にしているのか、あなたは本当に分かっているの?」
ローリーは答えられなかった。
マリベルはコートを整えた。
「よく考えてみなさい。あなたが守るべきなのは、彼の目的ではなく、あなた自身の弁護士としての道よ」
ローリーは顔を上げた。
「……考えてみます」
マリベルは穏やかに微笑んだ。
「あなたの将来を心配しているの」
そう言って、公園の出口へ歩き出した。
ローリーはベンチに座ったまま、その背中を見送った。
マイクは前科者だった。
自分は彼の過去を何も知らない。
ローリーは携帯電話を取り出した。
マイクに電話をかけようとして、指を止める。
何を聞けばいいのか分からなかった。
しばらく画面を見つめたあと、携帯電話をしまった。
ローリーは立ち上がった。
マイクに直接、確かめるべきなのか。
それとも、マリベルの言うとおり、別の事務所へ移るべきなのか。
答えは出なかった。
