コンテンプト・オブ・コート 3-9
アンカレッジ刑務所。
食堂。
昼食の時間だった。
収容者たちが長いテーブルに座り、黙々と食事をしている。
金属製の食器がぶつかる音。
看守の足音。
低い話し声。
マイクはトレーを持って、食堂の奥へ進んだ。
視線を動かす。
探していた男は、すぐに見つかった。
五十代の男。
短い髪。
眼鏡。
一人で座っていた。
アンカレッジ市の財務を担当していた男。
市長の金の流れを管理していた人物だった。
市長が動かす金について、誰よりも詳しい。
マイクは男の前まで歩いた。
男が顔を上げる。
マイクは向かいの席に座った。
「初めまして。弁護士のマイク・ハンターです」
男はマイクを見る。
「誰だお前?」
「マイク・ハンター」
「聞いたことないな」
「そうですか」
男は食事を続けた。
マイクは男の動きを見ていた。
「面会を拒否されたので、会いにきました」
男の手が止まった。
「面会?」
「市長殺害事件の裁判を担当しています」
男はマイクを見る。
「お前に話すことはない」
マイクは落ち着いていた。
「市長のことを聞きたいだけです」
男の表情がわずかに変わった。
「市長?」
「はい」
「俺はもう関係ない」
「本当に?」
「市長は死んだ。俺は刑務所にいる。それだけだ」
「あなたは市の財務を担当していた」
男は黙った。
「市長がどこから金を集め、どこへ動かしていたのか」
マイクが続ける。
「あなたは知っている」
男はスプーンを置いた。
「弁護士なら証拠を持ってこい」
「資料ならある」
「なら、それを警察に渡せ」
「警察には渡せない」
男がマイクを見る。
「なぜ?」
「まだ事件の全体が見えていない」
男は笑った。
「若いな」
「そうですか?」
「刑事みたいなことを言う」
「弁護士です」
「なら、余計なことに首を突っ込むな」
マイクは男を見た。
「あなたは市長の金庫番と呼ばれていた」
男の表情が変わった。
「誰に聞いた?」
「調べた」
「そんな呼び方をする奴は、もういない」
「そうですか」
男は周囲を確認した。
近くの収容者がこちらを見ている。
男は声を落とした。
「ここでその話をするな」
「なぜ?」
「聞いている奴がいる」
マイクは周囲を見た。
何人かの収容者が食事をしている。
だが、誰が聞いているのかは分からない。
「それだけ?」
「それだけで十分だ」
男はトレーを持って立ち上がった。
「待ってください」
男は止まった。
マイクが言う。
「市長殺害事件の裁判は、これから大きく動きます」
「俺には関係ない」
「あなたにも関係するかもしれない」
男は振り返った。
「俺は何も知らない」
男はそれだけ言って、食堂の出口へ向かった。
マイクは追わなかった。
財務担当者。
市長の金庫番。
金の流れを知る男。
だが、本人は何も話さない。
マイクはトレーに残った食事を見る。
そして、小さく呟いた。
「まだ早いか」
食堂の扉が閉まる。
マイクは一人、席に残った。
