コンテンプト・オブ・コート 3-34
アンカレッジ連邦地方裁判所。
法廷を出たコールは、廊下を歩いていた。
その後ろに秘書が続く。
二人は人の少ない場所まで来た。
コールが足を止めた。
「……マイク・ハンター」
秘書が顔を上げる。
「はい」
コールは法廷の方向を見る。
「馬鹿な男だ」
「証人の発言を裏付ける証拠映像を持っています」
「聞いた」
「どうしますか?」
コールは少し考えた。
「裁判長が証拠として採用しないだろう」
「ですが、映像が事実なら――」
「ほっておけ」
秘書は黙った。
「裁判長は、ああいう証拠を簡単には認めない」
「分かりました」
コールは歩き出した。
秘書も後ろを追う。
しばらくして、コールが言った。
「それより、市長をやった男を探せ」
秘書が足を止める。
「実行犯ですか?」
「ああ」
「分かりました」
コールの声は低かった。
「見つけたら、どこか遠くに行かせろ」
「国外ですか?」
「どこでもいい」
コールは振り返らず、言った。
「二度とアンカレッジに戻ってこない場所へ」
「分かりました」
コールはエレベーターの前で止まった。
扉が開く。
コールが中へ入る。
秘書も入ろうとしたが、コールが止める。
「お前は実行犯を探せ」
「はい」
コールはエレベーターの中から秘書を見る。
「急げ」
「分かりました」
扉が閉まる。
秘書は一人、廊下に残った。
携帯電話を確認する。
そして、駐車場へ向かって歩き始めた。
裁判所の出口を抜ける。
外は冷たい風が吹いていた。
秘書はコートの襟を直した。
駐車場へ向かう途中、清掃員の制服を着た男が前から歩いてきた。
男は床を見ながら、モップを押している。
秘書は気にせず、その横を通り過ぎようとした。
その瞬間、男が足を滑らせた。
「あっ」
男の肩が秘書にぶつかる。
「ごめんなさい」
秘書は足を止めた。
「大丈夫ですか?」
清掃員の男は顔を上げた。
そして、突然笑った。
「あら、いい男ね」
秘書が眉をひそめる。
「……は?」
清掃員は秘書の腕を軽く叩いた。
「デートしない?」
「結構です」
秘書はそれだけ言って、歩き出した。
清掃員はその場に残った。
「残念」
小さく呟く。
秘書は振り返らなかった。
そのまま駐車場へ向かう。
車に乗り込み、エンジンをかける。
何事もなかったように車を走らせた。
清掃員は、秘書の車が見えなくなるまで立っていた。
やがて、制服のポケットから小さな発信機を取り出した。
小さなランプが点滅している。
男は発信機が作動していることを確認した。
そして、携帯電話を取り出す。
画面には、秘書の現在地が表示されていた。
エイダンの部下だった。
「うまくいった」
エイダンの部下は短いメッセージを送る。
「動いた」
送信を確認し、携帯電話をしまう。
エイダンの部下は何事もなかったように、モップを持ち直した。
秘書の車は裁判所から離れていく。
発信機の位置情報が、静かに動き始めていた。
