コンテンプト・オブ・コート 6-10
夜。
事務所の窓には、向かいの建物の明かりが映っていた。机の上には裁判資料が積まれ、マイクは椅子に座って書類を読んでいた。
廊下から足音が近づいてくる。
ドアが開き、ローリーが入ってきた。
「戻ったか」
マイクは顔を上げた。
「ええ」
ローリーは鞄を机の脇に置き、コートを脱いだ。
マイクは時計に目をやった。
「遅くなる時は連絡しろ」
「用があって」
「……大丈夫か?」
カーターの顔が浮かんだ。母親のことを問い詰めた時、あの男は明らかに動揺した。謝罪の言葉を口にしたが、何について謝ったのかは説明しなかった。
「個人的な用事よ」
ローリーはそれだけ答え、自分の机に向かった。
マイクはローリーを見たが、それ以上聞かなかった。
ローリーは椅子を引き、机の上に置かれた書類に目を通した。市長殺害事件の公判資料。証拠の一覧、証人の供述、これまでの審理で明らかになった事実。どれも、事件の真相を明らかにするために必要なものだった
だが、カーターが無罪になれば、それで終わりなのか。
彼は市長を殺していない。それは、これまでの調査によって明らかになりつつある。だが、警察官としての権限を悪用し、コールの手先として動いていた過去まで消えるわけではない。
ローリーは書類をめくる手を止めた。
母親を誘拐した男。その男を弁護士として救おうとしている自分。
二つの事実が、頭の中でぶつかっていた。
「何かあったのか?」
マイクの声に、ローリーは顔を上げた。
「何?」
「さっきから同じページを見てる」
ローリーは書類に目を落とした。確かに、同じ箇所を開いたままだった。
「少し疲れただけよ」
「なら、帰って休め」
「大丈夫」
ローリーは書類を閉じた。
「やることが残ってるから」
「無理はするな」
「あなたに言われたくないわ」
マイクは小さく息を吐いた。
「それもそうだな」
ローリーは小さく笑った。だが、すぐに表情を戻し、机の上の資料を揃えた。
マイクは再び自分の書類に目を落とした。
静まり返った部屋に、ただ紙をめくる音だけが響いている。
ローリーは仕事に集中しようとした。裁判のことを考えなければならない。カーターを救うために何ができるのか。彼に罪を償わせるには、どうすればいいのか。
そして、母親の行方を知るために、何をすべきか。
答えは出なかった。
ローリーはペンを置き、窓の外を見た。街の明かりは変わらず、夜のアンカレッジを照らしていた。
マイクに話すべきなのか。カーターと会ったことも、母親について聞いたことも。
今は、まだ言えなかった。
ローリーは再び書類を開いた。
公判は続く。自分が迷っている間にも、事件は動いていく。
彼女は資料に目を戻した。今は、目の前の仕事を進めるしかなかった。
