コンテンプト・オブ・コート 6-6
ローリーは車を走らせていた。
助手席には古い写真。信号で停止するたび、視線を向けた。写真には道路脇の空き地と、その奥に続く低い斜面が写っていた。端には建物の一部が入り、地面には雑草がまばらに生えている。
風景だけなら、アンカレッジでは珍しくない。
写真の裏には何も書かれていなかった。日付も場所も、撮影した理由も分からない。
ローリーは自宅で母親の遺品を整理していたとき、この写真を見つけた。ほかの写真とは違い、人物は一人も写っていない。
昨夜、マイクの事務所で見た写真が、その記憶を呼び戻した。
同じ場所だった。
マイクは写真について詳しく説明しなかった。ただ、そこに写っている景色を見せた。ローリーはすぐに気づいた。自宅に残されていた写真と、構図が一致していた。
なぜマイクが同じ写真を持っているのか。
なぜ母親は、この場所を撮影したのか。
その答えを探すため、ローリーは写真に写った建物や道路を手掛かりに車を走らせていた。
市街地を抜けると、建物の間隔が広がった。道路脇には低い倉庫や資材置き場が続き、その先に空き地が見えた。ローリーは速度を落とし、写真と周囲の景色を見比べた。
道路の曲がり方。斜面の形。奥に見える建物の屋根。
間違いなかった。
ローリーは車を路肩に寄せ、エンジンを切った。
風が吹き、枯れた草が地面をこすった。遠くでトラックのエンジン音が響いている。人影はなかった。
ローリーは写真を手に取り、車を降りた。
道路脇から空き地へ歩く。足元には小石が散らばり、土の一部が露出していた。写真が撮影されたのは二十年前だ。周囲の建物や道路は多少変わっている。それでも、斜面の輪郭と奥の建物は当時のままだった。
ローリーは立ち止まり、写真を目の高さまで持ち上げた。
風景が重なった。
写真の中の空き地と、目の前の場所。道路の端から見た角度まで一致している。
母親は、ここに来たことがある。
それだけは確かだった。
ローリーは写真を裏返した。白い面には何もない。母親が何を考えてシャッターを切ったのか、手掛かりは見つからなかった。
二十年前、母親は突然いなくなった。
警察に届け出ても、目立った進展はなかった。知人を訪ね、記録を調べ、心当たりのある場所を探した。それでも、母親がどこへ行ったのかは分からなかった。
この場所が失踪と関係しているのか。
それとも、別の理由で訪れただけなのか。
今のローリーには判断できなかった。
彼女は周囲を見回した。地面には古いタイヤの跡らしき窪みが残っていたが、それがいつできたものなのかは分からない。建物の壁にも、目立ったものはなかった。
ここで何があったのか。母親は何を見たのか。
写真だけでは、何一つ確かめられない。
ローリーは携帯電話を取り出し、空き地と斜面を数枚撮影した。続いて、写真と同じ角度からもう一枚撮る。
撮影した画像を確認すると、二十年前の写真とほぼ同じ構図になっていた。
ローリーは携帯電話をしまった。
マイクは、この場所について何を知っているのだろう。
彼が持っていた写真と、母親が残した写真。二人の手元に同じ風景が残されていたことは、偶然では片づけられなかった。
ローリーはもう一度、空き地を見渡した。
母親がここを訪れた理由を突き止めなければならない。
彼女は写真を鞄にしまい、車へ戻った。ドアを閉め、エンジンをかける。
車が道路へ出る。
空き地はバックミラーの中で小さくなり、やがて見えなくなった。
ローリーは前を向いた。
次は、マイクに聞く必要がある。なぜ同じ写真を持っていたのか。そして、母親がこの場所で何をしていたのか。
答えが得られる保証はなかった。
それでも、引き返すつもりはなかった。
