コンテンプト・オブ・コート 6-8
ローリーは車を降り、埠頭の手すりまで歩いた。
海面には低い波が立っていた。係留された船が風に揺れ、岸壁にロープが擦れている。ローリーは携帯電話を取り出し、マイクに電話をかけた。
数回の呼び出し音のあと、マイクが出た。
「何だ?」
「埠頭まで来てくれない?」
「何かあったのか?」
「話したいことがあるの」
「分かった」
電話が切れた。
ローリーは携帯電話をしまい、海を見た。
マイクから聞いた話が頭に残っていた。リサ・グリーンを殺したのはコール。命じたのはマリベル。そして、母親の失踪にもマリベルが関わっているという。
数分後、マイクが手すりのそばまで来た。ローリーの顔を見て、足を止める。
「どこに行ってたんだ?」
「気分転換に散歩を」
「それだけか?」
「ええ」
マイクはそれ以上聞かなかった。
「……俺の話を信じると?」
ローリーは少し考えてから答えた。
「信じるしかない」
「そうか」
マイクの表情は変わらなかった。信じると言われても、二人の間にある疑問が消えたわけではない。
ローリーはマイクに向き直った。
「あなたの目的は復讐?」
「そうだ」
ローリーが続ける。
「なぜ弁護士に?母親のため?ほかに理由は?」
マイクは海へ視線を向けた。
「なかった。今までは」
ローリーはその言葉を聞き、マイクの横顔を見た。復讐だけを目的に生きてきた男が、今になって別の理由を口にした。それが何なのか、マイク自身もまだ分かっていないように見えた。
「……リサ・グリーン弁護士は、どうして母のことを?」
マイクはすぐには答えなかった。
「……二人がどういう関係だったのか、俺にも分からない。ただ、二十年前、カーターに連れ去られた俺を助けたのは、お前の母親だった」
ローリーの顔から血の気が引いた。
「母が……あなたを?」
「そうだ」
マイクは手すりに片手を置いた。
「その後、彼女がどうなったのかも分からない。カーターが何をしたのか、どこへ連れていったのかも」
ローリーは唇を結んだ。
母親が二十年前、マイクを救っていた。その事実は、母親の失踪とマイクの過去がつながっていることを示していた。
「それで、裁判官が母の失踪に関わっていると?」
ローリーは海を見た。風が吹き、髪が頬にかかった。彼女はそれを払うこともなく、しばらく黙っていた。
「その後、お母さんは?」
マイクは答えなかった。
分からない。それが答えだった。
ローリーは目を伏せた。母親が生きているのか、死んでいるのか。それすら分からない。マイクも同じだった。自分を救った女性の行方を知らずに、二十年を過ごしてきた。
自分を救った女性の娘。マイクはそのことを知って以来、ローリーを気にかけてきた。彼女を事件に巻き込みたくはなかった。だが、母親の失踪が事件の核心につながっている以上、遠ざけるだけでは何も解決しない。
ローリーは携帯電話を取り出し、時間を確認した。
「行くわ」
ローリーは埠頭の出口へ歩き出した。
マイクはその背中を黙って見送った。
二十年前、ローリーの母親は自分を救った。その後、彼女がどうなったのか、マイクは知らない。
復讐のために戻ってきたアンカレッジで、追うべき過去は一つではなくなっていた。
