コンテンプト・オブ・コート 6-9
面会室の照明は白く、金属製の机に影を落としていた。
ローリーは指定された席に座っていた。やがて看守に連れられ、カーターが入ってきた。囚人服姿のカーターは、以前より頬がこけていた。
看守が退室を促すと、カーターは椅子を引いた。
「……あんただから接見に応じた。証人の件は感謝してる」
ローリーは小さくうなずいた。ブローカーを探し、証拠を集めたのは仕事としての判断だった。
「聞きたいことがあるの」
「何だ?」
ローリーはカーターの目を見た。
「……二十年前、あなたが誘拐したのね。マイク・ハンターを」
カーターの表情が止まった。
「何だと?」
「マイクを連れ去ったのは、あなたでしょう」
「何の話だ」
「彼は当時十一歳だった。目の前で母親を殺された直後だった」
カーターは椅子の背に体を預けた。視線がローリーから外れる。
「昔の話を持ち出して、何がしたい?」
「私は真実を知りたいだけ」
「真実?」
カーターは鼻で笑った。
「弁護士らしい言い方だな」
ローリーは反応しなかった。
「マイクを殺すつもりだった?」
「何の話だか分からん」
カーターは立ち上がった。椅子の脚が床を擦り、短い音を立てる。
「面会は終わりだ」
ローリーは問いを続けた。
「あなたが一緒に誘拐した女性はどうしたの?」
カーターの動きが止まった。
ローリーはカーターの背中に向けて言った。
「マイクを助けた女性よ。彼をあなたから救い出した。そのあと、彼女をどうしたの?」
カーターは答えなかった。
「殺したの?」
カーターが振り返った。目つきが険しくなる。
「お前には関係ないだろ」
「関係あるわ」
ローリーは一呼吸置き、言った。
「その女性は私の母親よ」
カーターの顔から表情が消えた。
ローリーが立ち上がる。
「二十年前、母は突然いなくなった。警察に届けても、何も分からなかった。どれだけ探しても、手掛かりひとつ見つからなかった」
カーターは黙っていた。
「あなたは母を殺したの?生きているの?今どこにいるの?」
カーターはローリーを見たまま、しばらく動かなかった。やがて、視線を落とした。
「……お前が、あの女の」
言葉が途切れた。
カーターはゆっくりと椅子に戻った。両肘を机につき、手を組む。指先に力が入り、関節が白くなった。
「悪かった」
ローリーは彼を見つめた。
「何が悪かったの?」
カーターは答えなかった。
「母をどうしたの?どこへ連れていったの?」
「……」
「生きているの?」
カーターは顔を上げなかった。
ローリーは机に手をついた。目の前の男は母親のことを知っている。
「答えて」
カーターは首を横に振った。何を否定したのか、ローリーには分からなかった。
「俺は……」
声がかすれた。
それでも、母親の行方を示す言葉は出てこなかった。
面会終了を告げるブザーが鳴る。扉の外で看守が待っていた。
ローリーはカーターから目を離さなかった。
「私は、母を探しているの」
カーターは顔を上げなかった。
看守が近づき、カーターに立つよう命じる。カーターはゆっくりと立ち上がり、ローリーを一度だけ見た。
何かを言いかけたように唇が動いたが、声にはならなかった。
そのまま看守に連れられ、面会室を出ていった。
ローリーは一人、机の前に立っていた。
カーターは謝った。だが、母親をどうしたのかは話さなかった。
生きているのか、死んでいるのか。それすら分からない。
ローリーは鞄を手に取り、面会室を出た。
廊下の先に出口が見えた。彼女は歩きながら携帯電話を取り出した。
マイクに連絡するべきか、一瞬迷った。
まだ、何も分かっていない。カーターの謝罪が何を意味するのかも、母親の行方も。
ローリーは携帯電話をしまい、出口へ向かった。
