コンテンプト・オブ・コート 3-30
アンカレッジ市内。
小売店。
エイダンの部下二人が、カウンターの前に立っている。
向かいには証人がいた。
部下の一人が言った。
「市長が殺された夜、午後十一時頃の防犯カメラ映像を見せてください」
証人は困った顔をした。
「だから、何度も見たんだよ」
「カーター刑事は?」
「映ってない」
「……マジかよ」
「一応チェックするか?」
証人は奥のモニターを指した。
「店の中も駐車場も全部確認した」
もう一人の部下が腕を組んだ。
「カーター刑事は午後十一時頃にこの店にいた」
「そうだよ」
「でも、防犯カメラには映ってない」
「そういうこと」
二人は顔を見合わせた。
部下が小さく息を吐く。
「まいったな」
「うちの防犯カメラは旧式でガタがきてる。あってないようなもんだ」
そのとき、高校生の集団が入ってきた。
証人が声をかける。
「いつものか?」
「はい」
「今日は遅いな」
「授業が長引いたんです」
高校生たちは笑いながら店内を歩く。
部下の一人が彼らを見る。
「おい」
高校生たちが振り返った。
「何ですか?」
「午後十一時頃、この店に来たことは?」
高校生の一人が答える。
「あるけど」
「何しに?」
「普通に買い物です」
部下は少し考えた。
「店内でSNS用の動画を撮ったことがある奴はいないか?お前ら好きだろ」
高校生たちは顔を見合わせる。
一人が別の少年を指差した。
「お前、いつも店内で変な動画撮ってなかったっけ?」
「変な動画じゃない」
指された少年が反論した。
「SNSにアップする用のイケてる動画だ」
周囲の高校生が笑う。
部下は少年を見た。
「その動画、まだあるか?」
「ありますけど」
「見せてくれ」
少年は携帯電話を取り出した。
画面を操作する。
「いっぱいありますよ」
部下たちは動画をいくつか確認した。
店内を撮影した短い映像。
少年がカメラに向かって話している。
その後ろを、何人かの客が横切っている。
部下の一人が画面を止めた。
「戻せ」
「ここですか?」
「そうだ」
映像の奥。
レジから少し離れた場所に、男が二人立っている。
一人は証人だった。
もう一人はカーター刑事。
部下の顔が変わった。
「……いた」
もう一人の部下が画面を覗き込む。
「間違いない」
「カーターが映ってる!」
少年が首を傾げた。
「誰ですか?」
部下は答えなかった。
「動画の情報を見せてくれ」
少年が携帯電話を操作する。
撮影日時が表示された。
部下が画面を見る。
「事件が起きた日の、午後十時五十七分」
もう一人が時計を見る。
「市長の死亡推定時刻は?」
「午後十一時前後」
「ここから現場までどれくらいかかる?」
「車でも三時間以上だ」
二人は顔を見合わせた。
映像が残っていた。
しかも、撮影日時まで記録されている。
部下は少年の肩をつかんだ。
「少年」
「はい?」
「この動画、消すな」
「はあ。SNSにもアップしてますよ」
「おお!」
少年は少し驚いた顔をした。
「そんな大事な動画なんですか?」
部下は笑った。
「大事なんてもんじゃない」
もう一人の部下が携帯電話を取り出す。
マイクへ連絡するためだった。
「証拠が見つかった」
電話に向かって言う。
「カーター刑事のアリバイを裏付ける映像だよ」
高校生たちは、何が起きているのか分からないまま顔を見合わせていた。
部下は高校生たちを見る。
「君たち」
高校生たちが振り返る。
「君たちは、無実の警察官を救ったんだ」
「え?」
少年は目を丸くした。
別の高校生が笑う。
「だから言っただろ。イケてる動画だって」
部下は苦笑した。
証人も携帯をのぞきこむ。
画面には店内が映っている。
証人とカーター。
二人が同じ場所にいる。
それだけで、裁判の流れを変える可能性があった。
部下はもう一度、映像を確認した。
「これでいい」
二人は店を出た。
