コンテンプト・オブ・コート 3-28
アンカレッジ連邦地方裁判所。
マリベル・ヴァレンタイン裁判官の執務室。
マリベルは机に向かい、書類を確認していた。
窓の外には、アンカレッジの街が見える。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアが開く。
ローリーが入ってきた。
「失礼します」
「ローリー」
マリベルが顔を上げる。
「どうしたの?」
「少し、お話があります」
「座りなさい」
ローリーが向かいの椅子に座る。
マリベルは書類を閉じた。
「マイク・ハンターが保釈されたわね」
「はい」
「全然反省してないでしょう」
ローリーは少し笑った。
「そうでもないですよ」
「そう?」
「拘置所で頭を冷やして、真剣に裁判に臨むそうです」
マリベルはローリーを見た。
「本当に?」
「はい」
「あなたは、彼を信用しているのね」
「まだ分かりません」
ローリーは答えた。
「でも、少なくとも裁判を投げ出す人ではないと思います」
マリベルは小さく笑った。
「あなたも変わったわね」
「そうですか?」
「以前なら、あんな男とは仕事をしなかったでしょう」
ローリーは黙った。
「……仕事ですから」
「そうね」
マリベルは机の上の書類に目を落とした。
「本当に彼はカーターを弁護するつもり?」
「はい」
マリベルは何も言わなかった。
そのとき、机の上に置かれていた携帯電話が鳴った。
マリベルが画面を見る。
表示された名前を確認する。
「失礼」
ローリーに断ってから、電話に出る。
「もしもし」
コールの声が聞こえた。
「裁判官、次の公判で証人がカーター刑事のアリバイを証言するそうです」
マリベルは表情を変えなかった。
「そう」
「このまま証言されると、カーターに有利になります」
「そうね」
「生かしておくと危険です。手を打ちます」
マリベルは窓の外を見た。
「そこまでする必要が?」
電話の向こうで、コールが少し黙った。
そして、低い声で言った。
「それは裁判官が“法律”で殺してくれるという意味ですね。安心しました」
マリベルは何も答えなかった。
電話を切る。
ローリーがマリベルを見る。
「誰だったんですか?」
「仕事の電話よ」
「市長殺害事件ですか?」
「そうね」
マリベルは携帯電話を机の上へ戻した。
ローリーは少し考えた。
「証人に何かあるんですか?」
「分からないわ」
マリベルは淡々と答えた。
「検察と弁護側が、それぞれ必要な証拠を出す。それだけでしょう」
「……そうですね」
ローリーは立ち上がった。
「そろそろ戻ります」
「ええ」
ローリーがドアへ向かう。
「ローリー」
「はい?」
「裁判では、余計なことを考えないことね」
ローリーは振り返った。
「分かっています」
「それならいいわ」
ローリーが執務室を出る。
ドアが閉まった。
マリベルは一人になった。
先ほどまでの穏やかな表情が消える。
机の上の市長殺害事件の資料を見る。
カーター。
マイク・ハンター。
証人。
マリベルは資料を閉じた。
