コンテンプト・オブ・コート 3-24
アンカレッジ市内。
カーター刑事の裁判で証言した男の店。
ローリーはカーターの妻と一緒に店の中へ入った。
店の奥では、証人が棚の商品を整理していた。
二人を見ると、手を止める。
「また来たのか」
ローリーは答えなかった。
カーターの妻が一歩前へ出る。
「……すみません」
証人は顔をそらした。
妻はゆっくり頭を下げる。
「夫を助けてください」
証人は黙っている。
「本当のことを言ってください。お願いします」
「勘弁してくれ」
証人は苛立ったように言った。
「病人を連れて来るなんて卑怯だぞ」
妻は顔を上げた。
「卑怯でも何でもありません」
「帰ってくれ」
「夫は人を殺していません」
「俺には関係ない」
「あります」
ローリーが口を挟んだ。
証人がローリーを見る。
「あなたの証言で、夫は犯人にされているんです」
「俺は何もしてない」
「だからこそ聞いているんです」
ローリーは一歩近づいた。
「あなたは第2回公判を傍聴していましたね」
証人の表情が変わった。
「……」
「裁判が気になっているのでは?」
「違う」
「では、なぜ傍聴席にいたんですか?」
証人は答えない。
ローリーは続ける。
「カーター刑事がやっていないことを知っているから、気になっているんでしょう」
「……」
「あなたは、犯行時刻にカーター刑事と一緒にいた」
証人がローリーを見る。
「最初は、そう供述した」
「知らない」
「警察の記録にも残っています」
ローリーは書類を取り出した。
「あなたは最初の事情聴取で、午後十一時ごろまでカーター刑事と店にいたと話している」
証人は黙っていた。
「その後、証言を変えた」
「……」
「誰かに頼まれたんですか?」
証人は答えない。
カーターの妻が前へ出た。
「お願いです」
証人が妻を見る。
「あなたが本当のことを話してくれれば、夫は助かるかもしれない」
「俺だって助けたい」
「だったら――」
「でも、できないんだ」
証人の声が震えた。
ローリーはその言葉を聞いた。
「できない理由を教えてください」
「言えない」
「誰かに脅されている?」
証人は黙った。
ローリーはさらに続けた。
「あなたが怖いのは、カーター刑事じゃない」
証人が顔を上げる。
「別の誰かでしょう」
「……」
「だから証言を変えた」
証人は拳を握った。
「俺には家族がいる」
その一言で、ローリーは黙った。
証人は棚に手を置いた。
「妻も子供もいる。俺が何か話したら、あいつらがどうなるか分からない」
カーターの妻が言った。
「私もです」
証人が顔を上げる。
「夫を失えば、私も一人になります」
証人は何も言わなかった。
妻は続ける。
「でも、それでも本当のことを言ってほしい」
「……」
「あなたが怖い人たちが、私たちのような家族を傷つける人たちなら、なおさらです」
ローリーは証人を見た。
「あなたが証言すれば、カーター刑事のアリバイを証明できます」
証人の目が動く。
「あなたの証言が必要なんです」
「でも、俺が証言したら……」
「証人保護を申請します」
証人がローリーを見る。
「証人保護?」
「弁護士として手続きをします」
ローリーははっきり言った。
「あなたと家族を守るために、できることは全部します」
証人はしばらく黙っていた。
店内には、時計の音だけが響いている。
やがて、証人が小さく息を吐いた。
「……分かった」
カーターの妻が顔を上げる。
「本当に?」
「ああ」
証人はローリーを見る。
「俺は、あの夜カーター刑事と一緒にいた」
ローリーは黙って聞いていた。
「午後十一時ごろまで、この店にいた」
「間違いありませんね?」
「ああ」
「それを法廷で証言してくれますか?」
証人はしばらく考えた。
そして、うなずいた。
「証言する」
カーターの妻の目に涙が浮かぶ。
「ありがとうございます」
証人は首を振った。
「礼なんかいい」
「でも――」
「俺も、もう逃げるのは嫌なんだ」
ローリーは書類を閉じた。
「分かりました」
証人はローリーを見る。
「ただし、家族を守ってくれ」
「約束します」
ローリーは立ち上がった。
カーターの妻も立ち上がる。
二人は店の出口へ向かった。
ドアの前で、ローリーが振り返る。
「次の公判で、証言をお願いします」
「分かった」
ドアが閉まる。
店の外へ出たカーターの妻が、ローリーを見る。
「本当に、夫を助けられるんでしょうか」
ローリーは答えた。
「はい」
「どうして?」
ローリーは前を向いた。
「今度は、カーター刑事に味方する証人がいます」
二人は並んで歩き出した。
