コンテンプト・オブ・コート 3-22
アンカレッジ市内。
昼。
市街地から少し離れた場所に、二階建ての小さな建物があった。
以前は事務所として使われていたらしく、外壁は古く、窓には汚れが残っている。
建物の前に黒い車が止まった。
ドアが開く。
ケンドリック・コールが降りた。
その後ろからジョニーが続く。
コールは建物を見上げた。
「ここか」
「はい」
ジョニーが鍵を開ける。
二人は中へ入った。
一階には古い机と椅子が残っていた。
壁には何もない。
床には段ボールが積まれている。
コールは室内を見回した。
「ここを俺の選挙事務所にする」
ジョニーが顔を上げた。
「選挙事務所?」
「そうだ」
コールは奥へ歩いた。
窓を開ける。
外にはアンカレッジの街が見える。
「市長になれば、できることが増える」
ジョニーはコールを見る。
「会社だけじゃ足りないんですか?」
「限界がある」
コールは窓を閉めた。
「市の予算を動かすには、市長の立場が必要だ」
ジョニーは黙った。
コールは振り返る。
「ノース・ホライズン・シティを完成させる」
ジョニーの表情が変わった。
「二十年前に止まった計画ですよね」
「そうだ」
コールは机の上に置かれていた古い書類をどかした。
「今度は止めない」
ジョニーは頷いた。
「分かりました」
「まず、この建物を改装しろ」
「はい」
「選挙事務所として使えるようにする」
「いつまでに?」
「すぐだ」
「分かりました」
ジョニーが周囲を見回す。
「人はどうします?」
「使える奴を集めろ」
ジョニーは笑った。
「任せてください。なんでもやります」
コールがジョニーを見る。
「だからお前はダメなんだ」
「え?」
「いつも同じことを言う」
コールはジョニーの前に立った。
「俺は何をすればいいですか、だろう」
ジョニーは黙った。
「仕事を与えられるのを待つな」
コールの声が低くなる。
「自分で考えろ」
「はい」
「市長選は会社の仕事とは違う」
「分かっています」
「表では市民に支持されなきゃならない」
コールは窓の外を見る。
「裏では、邪魔する奴を消す」
ジョニーは黙って聞いている。
「選挙には金がいる」
「用意します」
「人もいる」
「集めます」
「情報も必要だ」
「調べます」
コールはジョニーを見る。
「お前は選対本部長をやれ」
ジョニーが少し驚く。
「俺が?」
「重要な仕事だ」
コールは続けた。
「できるな?」
ジョニーは拳を握った。
「任せてください」
コールの目が細くなる。
「その言い方だ」
「……」
「もう一度言う」
コールはジョニーを見据えた。
「俺は何をすればいいですか、だ」
ジョニーは黙った。
数秒後、姿勢を正す。
「俺は何をすればいいですか?」
コールは頷いた。
「ようやく分かったな」
ジョニーはコールを見る。
「何でも言ってください」
「腹をくくれ」
コールは低い声で言った。
「俺が死んでこいと言ったら、死ぬつもりでやれ」
ジョニーの顔から笑みが消えた。
「……分かりました」
「市長選は遊びじゃない」
「はい」
ジョニーはしばらく黙っていた。
そして、右手を握る。
「この手を血で汚しても、CEOを市長にしてみせます」
コールは何も言わなかった。
建物の奥へ歩いていく。
二階へ続く階段を上がる。
ジョニーも後に続く。
二階には部屋がいくつかあった。
コールはその一つに入る。
「ここを俺の部屋にする」
「分かりました」
コールは窓の外を見る。
アンカレッジの街が広がっていた。
その先には、ノース・ホライズン・シティの再開発予定地がある。
二十年前に止まった計画。
それを動かす。
