コンテンプト・オブ・コート 3-17
アンカレッジ刑務所。
食堂。
受刑者たちが並んで食事を受け取っていた。
金属製のトレー。
薄いスープ。
冷めた肉。
マイクはトレーを持ったまま、食堂の奥を見た。
一人の男が隅の席に座っている。
市の財務担当者。
マイクは男の前まで歩いた。
「ここ、いいですか?」
男は顔を上げた。
「好きにしろ」
マイクは向かいに座った。
スープを一口飲む。
顔をしかめる。
「ここのメシはまずいでしょう?」
男は何も答えない。
マイクは続けた。
「知ってることを話せば、ここから出る手助けをしますよ」
男はマイクを見る。
「俺は何も知らない」
「知ってますよね?」
「何をだ」
「誰かが、あなたが市の予算を着服していると通報した」
男の手が止まった。
「その結果、あなたは捕まった」
「……」
「今は裁判中で、罪を認めている」
マイクは男のトレーを見る。
「ここで臭いメシを食べてる」
「だから何だ」
「ただ、あなたが着服した額はごくわずかだ」
男は黙った。
「あまりに少なすぎる」
「何が言いたい?」
マイクは男を見た。
「普通なら、そんな額で人生を捨てるような真似はしない」
「俺には事情があった」
「でしょうね」
マイクはスープをもう一口飲んだ。
「しかも、あなたは捕まったあと、争っていない」
男は答えなかった。
「罪を認めた」
「……そうだ」
「そして、ここに入った」
「それがどうした」
マイクはトレーを置いた。
男の顔を見つめる。
「刑務所に避難するために、わざと少額を着服した」
男の表情が固まった。
「自分で通報したんでしょう?」
「面白い冗談だ」
「そうですか?」
「ああ」
男は視線をそらした。
マイクは追及しなかった。
しばらく黙って食事を続ける。
やがて、男が口を開いた。
「仮にそうだったとして、何だ?」
マイクは男を見る。
「あなたは生きるために刑務所に入った」
男は答えない。
「外にいるより、ここにいたほうが安全だと思った」
「……」
「でも、ここは本当に安全ですか?」
男の手が止まる。
マイクは声を落とした。
「あなたが刑務所に逃げ込んだ理由は分かります。相手は、ここまで手を伸ばせる」
男はマイクを見た。
「お前、何者だ?」
「弁護士です」
「ただの弁護士じゃないだろ」
マイクは笑わなかった。
「あなたと同じです」
「俺と?」
「生き残るために、ここにいる」
男は黙っていた。
二人の周りでは、受刑者たちが食事を続けている。
誰も二人を気にしていない。
男は小さな声で言った。
「俺が何を知ってると思ってる?」
「市の金の流れ」
マイクは即答した。
「誰に金が渡っていたのか。どの事業に予算が流れていたのか」
男は目を伏せた。
「……それを知って、どうする?」
「市長が何をしていたのか調べる」
「市長?」
男の表情がわずかに変わった。
マイクはその変化を見逃さなかった。
「知ってるんですね」
「知らない」
「そうですか」
マイクは立ち上がった。
「今日はここまでにします」
男が顔を上げる。
「待て」
マイクは振り返った。
男はしばらく黙っていた。
「お前、本当に弁護士か?」
「はい」
マイクはトレーを持ったまま歩き出した。
背後から男の声が聞こえた。
「おい」
マイクが振り返る。
「ここにいるほうが安全だと思っているなら、考え直したほうがいい」
マイクは男を見た。
「あなたも、そう思ってる?」
男は答えなかった。
マイクはそのまま食堂を出ていった。
男は一人、席に残った。
目の前の冷めた食事を見つめる。
そして、周囲を見回した。
誰も自分を見ていない。
男は視線を落とした。
