コンテンプト・オブ・コート 3-15
アンカレッジ。
マイクの事務所。
事務所にはローリー一人しかいなかった。
机の上には、市長殺害事件の資料が広げられている。
ローリーはそれを一枚ずつ確認していた。
捜査報告書。
証拠一覧。
証人の供述。
現場写真。
カーターの身辺調査。
ローリーは資料をめくった。
「……多すぎる」
机の上には、同じ事件について大量の資料が積み上がっていた。
凶器。
血液。
指紋。
靴跡。
証人。
どれもカーターに不利なものだった。
ローリーはペンを持った。
紙の中央に書く。
「証拠」
その下に、一つずつ書き出した。
凶器。
血液。
指紋。
靴跡。
証言。
捜査記録。
ローリーはペンを止めた。
「これだけ揃ってるのに……」
椅子の背にもたれる。
普通なら、ここまで証拠が揃っていれば疑う余地は少ない。
だが、ローリーには引っかかるものがあった。
ファイルを一冊取り出す。
市長の経歴。
政治活動。
企業との関係。
市政に関する資料。
ローリーはページをめくった。
「動機……」
その言葉を書いた。
そして、その下に何も書けなかった。
カーターが市長を殺す理由。
恨み。
金。
政治的な対立。
個人的な問題。
どれを調べても、決定的なものがない。
「どうして殺したの?」
ローリーは小さく呟いた。
資料をめくる。
カーターの勤務記録。
過去の捜査記録。
表彰歴。
懲戒記録。
どこにも、市長を殺す理由は見当たらなかった。
ローリーは紙に書いた。
「動機がない」
その横に線を引く。
「証拠が多すぎる」
二つの言葉を見つめる。
そのとき、別の資料が目に入った。
裁判所で起きた騒動についての報告書。
エイダンの部下たちが法廷で騒ぎを起こした。
警備員への抵抗。
裁判所内での暴行。
マイク自身も拘束された。
ローリーは眉をひそめた。
「これも……」
報告書を読み直す。
騒ぎが起きた時間。
マイクが法廷へ入った時間。
その後の拘束。
ローリーは時計を見る。
「わざと……?」
ローリーは椅子から立ち上がった。
窓の外を見る。
マイクは、最初から市長殺害事件を調べていた。
それだけではない。
法廷を止めるために、仲間まで動かしている。
ローリーは机へ戻った。
紙に三つ目を書く。
「チンピラが裁判を妨害する理由」
その下に、しばらくペンを止めた。
「何のため?」
答えは出ない。
ただ、偶然ではない。
ローリーは資料を閉じた。
そして、最初の二つの言葉を見る。
「証拠が多すぎる」
「動機がない」
その下に、三つ目。
「チンピラが裁判を妨害する理由」
ローリーは腕を組んだ。
三つとも、別々の問題に見える。
だが、同じ事件に関係している。
「……何かがおかしい」
ローリーは椅子に座り直した。
マイクは何かを知っている。
それは間違いない。
だからこそ、自分を事件に引き込んだ。
ローリーはマイクの机を見る。
そこには、カーターの資料が残されている。
「カーター本人にも聞かないと」
ローリーはそう呟いた。
しかし、すぐに首を振った。
「いや……」
カーターは何かを隠している。
それなら、本人だけを見ても答えは出ない。
ローリーはカーターの家族に目を向ける。
身辺資料の中に、家族に関する記録があった。
妻の名前。
住所。
勤務先。
ローリーはそのページを開いた。
そして、しばらく黙って見つめた。
「一度、会ってみよう」
ローリーは資料を閉じた。
コートを手に取る。
机の上には、三つの疑問だけが残った。
証拠が多すぎる。
動機がない。
チンピラが裁判を妨害する理由。
ローリーは事務所を出た。
