コンテンプト・オブ・コート 3-11
アンカレッジ連邦地方裁判所。
午前。
ローリーは廊下を歩いていた。
手には市長殺害事件の資料が入ったファイル。
何度も中身を確認した。
カーターとマイクは弁護人の委任契約を結んでいる。
だが、マイクは刑務所にいる。
このままでは、公判を続けることができない。
ローリーはマリベル裁判官の執務室の前で足を止めた。
ドアをノックする。
「どうぞ」
ローリーはドアを開けた。
「失礼します」
マリベルがデスクから顔を上げる。
「ローリー。どうしたの?」
ローリーは執務室に入り、マリベルの前に立った。
「お願いがあります」
「何?」
ローリーはファイルを机の上に置いた。
「市長殺害事件の公判を延期してください」
マリベルの表情が変わる。
「理由は?」
「弁護人が逮捕されたので」
「マイク・ハンターね」
「はい」
「カーターと委任契約を結んでいることは知っているわ」
ローリーは頷いた。
「それなら話は早いです」
「何が?」
「マイクが拘束されている以上、弁護活動ができません」
マリベルはローリーを見る。
「できないわ」
ローリーの表情が固まる。
「どうしてですか?」
「公判を延期する理由にはならないからよ」
「でも、弁護人が拘束されているんですよ」
「それは分かっているわ」
マリベルは机の上の書類に目を向けた。
「それに、マイクがいなくても、あなたが弁護すればいい」
ローリーは顔を上げた。
「私が?」
「そうよ」
「無理です」
「なぜ?」
ローリーは一瞬黙った。
「私は業務停止処分中です」
マリベルは頷いた。
「知っているわ」
「だったら――」
「だから、あなた自身がどうするかを考えなさい」
ローリーは言葉を止めた。
マリベルは椅子から立ち上がった。
「あなたは弁護士でしょう」
「そうです」
「なら、自分が何をできるのか分かっているはずよ」
「でも、処分中なんです」
「ええ」
マリベルはローリーを見る。
「それでも、事件から逃げる理由にはならないでしょう」
ローリーは黙った。
「あなたならもっとうまくやれるはず」
「……私に、どうしろと言うんですか?」
「考えなさい」
マリベルは机へ戻った。
「マイク・ハンターは拘束されている。公判は予定どおり。カーターには弁護が必要」
ローリーは何も言わない。
「それだけ分かっていれば、考えることはできるでしょう」
「……はい」
ローリーはファイルを握った。
「公判の延期は?」
「しないわ」
即答だった。
「予定どおり進めます」
ローリーはしばらくマリベルを見ていた。
「分かりました」
小さな声だった。
ファイルを抱え直す。
「失礼します」
「ローリー」
ドアの前で呼び止められる。
ローリーが振り返る。
マリベルはローリーを見ていた。
「あなたならできるわ」
ローリーは返事をしなかった。
ただ、小さく頭を下げた。
ドアを開け、執務室を出た。
ローリーはその場に立ち尽くした。
手元のファイルを見る。
カーター。
市長殺害事件。
大量の証拠。
証人。
そして、拘束されたマイク。
何から手をつければいいのか分からない。
ローリーは深く息を吐いた。
廊下を歩き始める。
裁判所の出口へ向かう。
外へ出ると、冷たい風が吹いていた。
ローリーは足を止めた。
振り返る。
アンカレッジ連邦地方裁判所の建物が見える。
「……どうすればいいのよ」
誰にも聞こえない声だった。
ローリーは前を向き、裁判所を後にした。
