コンテンプト・オブ・コート 2-4
アンカレッジ市内。
マイクの車は、古い建物が並ぶ通りを抜け、繁華街の一角にある飲食店の前で止まった。
昼を少し過ぎた時間だった。
店の中には仕事途中らしい客や、買い物帰りの客がいた。窓際の席には数人の学生が座り、カウンターでは店員が注文を受けている。
マイクが先に車を降りた。
ローリーも続く。
二人は店に入り、空いているテーブル席に座った。
店員がメニューを持ってくる。
「ご注文は?」
マイクはメニューを見る。
「ハンバーガー二つ。フライドポテトも」
「飲み物はいかがですか?」
「コーヒー」
「私はいりません」
ローリーが答えた。
店員が注文を確認して離れていく。
ローリーは腕を組んだ。
「さっきの話、まだ納得してないから」
「何の話だ?」
「カーター刑事」
「そうか」
「そうかじゃないでしょう」
マイクはテーブルの上に置かれた紙ナプキンを指で弄んでいる。
ローリーはじっとマイクを見た。
「有罪になる可能性が高い。証拠も多い。それなのに、あなたは弁護を引き受ける」
「そうだ」
「理由を聞いても答えない」
「聞かれたから答えただろ」
「何を?」
「依頼があるからだ」
「それだけじゃない」
マイクは黙った。
ローリーが身を乗り出す。
「本当の理由を言って」
マイクはローリーを見た。
数秒間、何も言わない。
そして、あっさり口を開いた。
「カーターは最高の依頼人だ」
ローリーの表情が変わった。
「……は?」
「無罪を勝ち取れば事務所の宣伝になる」
「宣伝?」
「そうだ」
マイクは淡々と話した。
「市長殺害事件だ。注目度は高い。そこで無罪判決を取れば、俺たちの名前が売れる」
ローリーは呆れた顔をした。
「宣伝のために弁護する?」
「弁護士だって商売だ」
「あなた、さっきまで証拠が多すぎるとか言ってたじゃない」
「だから面白い」
「面白い?」
「難しい事件ほど、勝ったときの価値が高い」
ローリーは黙った。
マイクはコーヒーを一口飲む。
「勝てば大儲け、負けても報酬はもらえるだろう」
ローリーの目が細くなる。
「……本気で言ってる?」
「もちろん」
「カーター刑事が終身刑になるかもしれないのよ」
「裁判で決まる」
「あなたは依頼人の人生を金でしか見てないの?」
「報酬を払ってもらう。それが仕事だ」
ローリーは椅子の背にもたれた。
「最低」
マイクは何も言わない。
「私、あなたが何を考えているのか少し分かった気がする」
「そうか?」
「ええ」
ローリーはテーブルの上のハンバーガーを見た。
ちょうど店員が料理を運んできたところだった。
皿が二つ置かれる。
「お待たせしました」
店員が離れる。
マイクはハンバーガーを手に取った。
「食べろ」
ローリーは答えない。
マイクが一口食べる。
ローリーは自分のハンバーガーを見た。
それからマイクを見る。
「思っていた以上にひどい弁護士ね」
マイクは咀嚼しながらローリーを見る。
「褒め言葉として受け取っておく」
ローリーの眉が動いた。
次の瞬間、ローリーは自分のハンバーガーを掴んだ。
マイクが何か言うより早く、それを投げつける。
ハンバーガーがマイクの胸に当たった。
包み紙が外れ、肉と野菜がテーブルの上に落ちる。
店内の客が一斉に振り向いた。
マイクは胸元を見た。
それからローリーを見る。
「……何するんだ」
ローリーは立ち上がった。
「知らない」
「食べ物を投げるな」
「あなたが勝手に食べればいいでしょう」
ローリーはバッグを肩に掛けた。
「待て」
「待たない」
ローリーはそのまま店の出口へ向かう。
マイクは追わなかった。
ローリーが店を出る。
ドアが閉まった。
店内に気まずい沈黙が残る。
マイクは胸についたソースを指で拭った。
テーブルの上には、崩れたハンバーガーが残っている。
マイクはそれを見て、何事もなかったようにコーヒーを飲んだ。
