コンテンプト・オブ・コート 2-3
アンカレッジ刑務所。
マイクは駐車場に止めていた車へ向かい、運転席に乗り込んだ。
ローリーも助手席に座る。
ドアが閉まり、マイクがエンジンをかける。
車はゆっくりと駐車場を出た。
刑務所の門を抜ける。
道路の両側には、まだ雪が残っていた。日中の気温が上がっても、建物の陰や道路脇に積もった雪は簡単には消えない。
ローリーは窓の外を見ていた。
マイクは前を向いたまま運転している。
数分間、二人の間に会話はなかった。
やがてローリーが口を開く。
「有罪が確実な裁判を担当するの?」
「そうだ」
「正気じゃない」
マイクは前方を見たまま答えた。
「そうか?」
「そうよ」
ローリーはマイクを見る。
「カーター刑事が市長を殺したことを示す証拠が揃ってる。凶器がある。市長の血液も付いている。カーター刑事の指紋もある。現場に残された靴跡まで一致してる」
「聞いた」
「だったら分かるでしょう」
「何が?」
「勝てないってこと」
マイクは何も言わない。
ローリーは続けた。
「裁判で争うなら、証拠を一つずつ崩さなきゃいけない。でも今のところ、カーター刑事の潔白を証明するものはない」
「その通りだ」
「それなのに、弁護を引き受けるの?」
「引き受ける」
「なぜ?」
マイクは答えない。
車が交差点で止まる。
赤信号だった。
ローリーは腕を組んだ。
「カーター刑事にはアリバイもない。本人が無実だと言ってるだけ。普通なら、そんな依頼は受けないでしょう」
「普通ならな」
「あなたは普通じゃないって言いたいの?」
「そういう意味じゃない」
信号が青に変わる。
車が動き出した。
ローリーは前を向いた。
「じゃあ、何なの?」
「証拠が多すぎる」
「さっきからそればかりね」
「おかしいと思わないか?」
「何が?」
「市長殺害事件だ。凶器、血液、指紋、靴跡。全部が一人の刑事に集中している」
「犯人がカーター刑事なら、当然でしょう」
「そうだな」
マイクは淡々と答えた。
「カーター刑事の潔白を証明するものはない」
「でしょう?」
「その通りだ」
マイクはハンドルを握り直した。
「誰が見ても殺人犯だ」
ローリーは黙った。
マイクの言葉には、カーターを擁護する弁護士らしさがなかった。
むしろ、自分でカーターが犯人にしか見えないことを認めている。
「だったら、どうしてこの事件を担当するの?」
「依頼があるからだ」
「それだけ?」
「それだけで十分だろう」
「嘘」
マイクは反応しない。
「あなたは何か知ってる」
「知らない」
「じゃあ、何か気づいてる?」
「さあな」
ローリーはため息をついた。
「本当に腹が立つ」
「そうか」
「そうよ」
車は市街地へ入っていく。
交差点を曲がる。
ローリーは窓の外を見た。
しばらくして、再びマイクを見る。
「本当の理由はなに?」
マイクは答えない。
「なんでこの事件に固執するの?」
沈黙。
「カーター刑事に何か特別な意味があるの?」
マイクは前方を見たままだった。
「ない」
「じゃあ、なぜ?」
マイクは答えなかった。
ローリーはそれ以上聞かなかった。
だが、納得したわけではない。
刑務所でカーターと話していたときもそうだった。
マイクは、ただ勝てる裁判を探している弁護士には見えなかった。
証拠が多すぎることを問題にし、カーターが誰の目から見ても犯人に見えることも認めている。
それでも弁護を引き受けようとしている。
ローリーには理解できなかった。
「……あなた、本当に弁護士なの?」
マイクが横目で見る。
「資格はある」
「そういう意味じゃない」
「なら、どういう意味だ?」
「分からないから聞いてるの」
マイクは少しだけ口元を動かした。
笑ったのかどうか、ローリーには分からなかった。
「そのうち分かる」
「何が?」
マイクは答えなかった。
車はアンカレッジの街を進んでいく。
ローリーは窓の外へ視線を戻した。
マイクが何かを隠している。
それだけは分かった。
だが、それが何なのかは分からない。
車内に再び沈黙が戻った。
