コンテンプト・オブ・コート 2-24
アンカレッジ刑務所。
面会室。
カーターは椅子に座っていた。
向かいにマイクがいる。
机の上には、弁護人選任に関する書類が置かれている。
カーターの首には襲撃でできた赤い跡が残っていた。
シャツの襟では隠しきれない。
マイクはそこを見た。
「危なかったな」
カーターが顔を上げる。
「なんで知ってる?」
「刑務所で襲われたんだろ」
「誰から聞いた?」
「それはどうでもいい」
カーターはマイクを睨んだ。
刑務所内で自分が襲われたことを、まだ外部には詳しく話していない。
それをマイクが知っている。
偶然とは思えなかった。
「男に見覚えは?」
「ない」
「本当に?」
「顔を見てない」
「何か特徴は?」
カーターは少し考えた。
「分からない」
「背格好は?」
「俺より少し小さい」
「他には?」
「知らん」
カーターは目をそらした。
マイクはそれ以上聞かなかった。
机の上の書類を指で叩く。
「早くサインしろ」
「まだ頼むとは言ってない」
「刑務所を出たいだろ」
カーターは答えなかった。
「入院中の奥さんに会いたいんだろ」
カーターの表情が変わった。
「……何を知ってる?」
「奥さんのことか?」
「俺の家族に手を出すな」
「そんなつもりはない」
「なら、なぜ知ってる?」
「調べた」
カーターが立ち上がった。
「お前……」
マイクも立つ。
カーターは机を回った。
二人の距離が近くなる。
カーターがマイクの胸ぐらをつかんだ。
「誰の差し金だ。この野郎」
マイクは動かなかった。
カーターの手を見る。
それから、カーターの顔を見る。
「……お前の左腕に歯形をつけた男の子を覚えてるか?」
カーターの動きが止まった。
「何だと?」
「二十年前だ」
カーターはマイクを見る。
「アンカレッジで、お前に噛みついた男の子だ」
「……」
カーターの目が細くなる。
記憶を探している。
だが、すぐには出てこない。
マイクは黙って待った。
「刑事のくせに覚えてないのか」
その言葉に、カーターの表情が変わった。
二十年前。
アンカレッジ。
弁護士。
少年。
カーターの頭の中で、古い光景が浮かんだ。
雨の夜。
逃げる少年。
その腕をつかんだ自分。
運転中、少年が抵抗し、左腕に噛みついた。
カーターは左腕を見た。
今も薄く残っている傷。
「……まさか」
マイクは答えなかった。
カーターがマイクの顔を見る。
「お前……」
マイクは低い声で言った。
「お前らが殺した弁護士は、俺の母親だ」
カーターの手がマイクの胸ぐらから離れた。
「……何を言ってる」
「リサ・グリーン」
その名前を聞いた瞬間、カーターの顔が固まった。
「……あの女の息子か」
「やっと思い出したか」
カーターは何も言わない。
マイクはカーターから目を離さなかった。
「二十年前、お前は俺を捕まえた」
カーターは黙っている。
「俺は逃げた」
「……」
「お前に噛みついた」
カーターは左腕を見る。
「母は殺された」
「俺は殺してない」
「知ってる」
カーターが顔を上げる。
「だから、お前を弁護する」
「何?」
「俺がお前を弁護する理由を教えてやる」
マイクは一歩近づいた。
「刑務所から出して、お前を殺すためだ」
カーターの表情が変わった。
「……俺を?」
「ああ」
マイクはカーターの首をつかんだ。
カーターがマイクの腕をつかむ。
マイクは力を緩めない。
「ここでは殺さない」
カーターが低い声で言う。
「なら、どこで殺す?」
「それは、お前が無罪になってからだ」
マイクは手を離した。
カーターは首を押さえた。
「俺を無罪にする?」
「ああ」
「なぜだ」
「お前を殺すために、まずここから出す」
カーターは机の上の書類を見る。
「ふざけるな」
「ふざけてない」
マイクは椅子に座った。
「お前が無罪になれば、刑務所から出られる」
「そして、俺を殺す」
「ああ」
「俺を助ける理由は、それだけか」
「それだけだ」
カーターは書類を見つめた。
「俺がサインしたら、本当に弁護するのか?」
「する」
「俺を殺すために?」
「そうだ」
カーターは黙った。
マイクも何も言わない。
面会室に沈黙が落ちた。
カーターは書類に手を伸ばさなかった。
ただ、そこに書かれたマイク・ハンターの名前を見つめていた。
その名前と、二十年前の少年の顔が重なる。
カーターは顔を上げた。
マイクは何も言わず、カーターを見ていた。
