コンテンプト・オブ・コート 2-22
アンカレッジ刑務所。
数日前。
面会室。
カーターはアクリル板の向こう側に座っていた。
向かいにはローリーがいる。
ローリーは持ってきた書類を机の上に置いた。
「カーター刑事」
「何だ」
「オースティン弁護士を信頼していないのでは?」
カーターの表情が変わった。
「お前に何が分かる!」
ローリーは動かなかった。
「分かりません」
「なら、首を突っ込むな」
「でも、あなたは裁判で何もしていないオースティン弁護士をかばっている」
「かばってない」
「では、なぜ何も言わないんですか?」
カーターは黙った。
ローリーはカーターを見た。
「証人が出てきても反対尋問をしない。証拠についても何も説明しない。それなのに、あなたはオースティン弁護士に任せている」
「裁判はまだ終わってない」
「それは分かっています」
「なら、黙って見てろ」
「見ているだけでは、あなたは有罪になります」
カーターの目がローリーに向いた。
「俺が殺したと思っているのか?」
「思っていません」
ローリーは即答した。
「証拠だけを見れば、かなり厳しい。でも、あなたは自分がやっていないことを知っている」
カーターは黙っていた。
「だから、何か隠しているんじゃないですか?」
「お前には関係ない」
「あります」
ローリーは書類を一枚取り出した。
「これを見ました」
カーターの目が書類に向く。
「何だ」
「退職願です」
カーターは黙った。
「州警察に提出したんですね」
「……」
「奥さんの介護のために」
カーターは椅子の背もたれに体を預けた。
「誰から聞いた?」
「調べれば分かります」
「余計なことをするな」
「奥さん、今は入院しているんですよね?」
カーターは答えなかった。
ローリーは声を落とした。
「だから、刑務所から出たいんじゃないですか?」
「違う」
「じゃあ、なぜです?」
「俺は刑事だ」
「今は被告人です」
カーターの目が鋭くなる。
「……今は違う、か」
「何か?」
カーターは首を横に振った。
「何でもない」
ローリーはしばらく黙っていた。
それから、カーターの顔を見た。
「奥さんのことが心配なんですね」
「関係ない」
「関係あります」
「何がだ」
「あなたがオースティン弁護士を信用していない理由です」
カーターは答えなかった。
「弁護士を変えればいい」
「簡単に言うな」
「なぜです?」
「そんな簡単な話じゃない」
「では、何があるんですか?」
カーターはアクリル板の向こうを見た。
ローリーから視線を外す。
「……俺には、やらなきゃいけないことがある」
「刑事として?」
カーターは答えない。
「それとも、奥さんのために?」
カーターの手が動いた。
机の上で拳を握る。
「ブルックス弁護士」
「はい」
「この事件には、お前が知らないことがある」
「何ですか?」
「知らないほうがいい」
「それでは何も分かりません」
「分からなくていい」
「でも、あなたは一人で抱え込んでいる」
「俺は一人でやってきた」
「だから、今こうなっているんじゃないですか?」
カーターはローリーを見る。
しばらく二人の視線がぶつかった。
やがて、カーターが立ち上がった。
面会終了の時間だった。
ローリーも立ち上がる。
「カーター刑事」
カーターが足を止める。
「私はあなたが無実だと思っています」
カーターは振り返らなかった。
「……そうか」
「オースティン弁護士を信用できない理由は、何ですか?」
カーターはしばらく黙っていた。
「いつか分かる」
「いつですか?」
「お前が知る必要ができたときだ」
それだけ言って、カーターは面会室を出ていった。
ローリーはアクリル板の向こうを見た。
カーターの姿が廊下の角に消える。
机の上には、退職願のコピーが残っていた。
ローリーはそれを手に取った。
提出日は、カーターが逮捕される少し前だった。
ローリーは書類を見つめた。
奥さんの介護。
退職願。
そして、オースティン弁護士への不信感。
いくつもの疑問が頭に浮かんだ。
しかし、その答えをカーターは何も話さなかった。
