コンテンプト・オブ・コート 2-14
アンカレッジ連邦地方裁判所。
午後。
裁判所の廊下を、マイクとローリーが歩いていた。
ローリーは手にした書類を確認する。
「オースティン弁護士は、この先の部屋ね」
「ああ」
「本当に担当を譲ってもらうつもり?」
「そのために来た」
「昨日、現場で捜査官に追い出されたばかりなのに、今日は弁護士に喧嘩を売るのね」
「喧嘩じゃない」
「同じようなものよ」
マイクは答えなかった。
廊下の奥に、一人の男が立っていた。
五十代前半。
濃紺のスーツ。
片手に書類の入ったファイルを持っている。
カーターの現在の弁護士、オースティンだった。
オースティンは書類を確認しながら歩いている。
マイクが前に出た。
「初めまして」
オースティンが顔を上げる。
マイクを見る。
それからローリーを見る。
「見たことのない顔だな」
「マイク・ハンターです」
マイクが名刺を差し出す。
オースティンは受け取った。
名前を確認する。
「弁護士か」
「そうです」
オースティンは名刺から目を離した。
「何の用だ?」
マイクは単刀直入に言った。
「カーター刑事の担当を譲ってください。私が弁護します」
オースティンの表情が変わった。
「カーターの?」
「ああ」
「君が?」
「そうです」
オースティンはマイクを見た。
「なぜだ?」
「弁護したいからです」
「理由になってないな」
「十分です」
ローリーが横から口を挟む。
「私もこの事件を調べています」
オースティンはローリーを見る。
「君は?」
「ローリー・ブルックスです」
「同じ事務所か」
「そうです」
オースティンは二人を交互に見た。
そして、鼻で笑った。
「面白い冗談だな」
マイクは動かない。
「冗談ではありません」
「カーターの事件は、もう俺が担当している」
「知っています」
「なら、なぜそんな話をする?」
「あなたより、私の方がうまく弁護できる」
オースティンの目つきが変わった。
「随分、自信があるんだな」
「自信じゃない。事実です」
「会ったばかりで、俺の何が分かる?」
「何も分からない」
「なら、口を出すな」
マイクはオースティンの手元を見る。
裁判資料がファイルに入っている。
「あなたはカーターを有罪にするつもりですか?」
オースティンの動きが止まった。
ローリーがマイクを見る。
「マイク……」
オースティンはゆっくり顔を上げた。
「何を言ってる?」
「質問しただけです」
「俺が依頼人を裏切るとでも?」
「そうは言ってない」
「同じことだ」
オースティンが一歩近づく。
声が低くなる。
「この事件から手を引け」
「断ります」
「カーターの弁護は俺がする」
「譲ってください」
「しつこい男だな」
オースティンはマイクの胸元を見る。
「この事件に首を突っ込むと、痛い目を見るぞ」
マイクは表情を変えない。
「脅しですか?」
「忠告だ」
オースティンはマイクの横を通り過ぎようとした。
その瞬間、マイクが言った。
「カーターはあなたを信用していません」
オースティンの足が止まった。
数秒、沈黙する。
オースティンが振り返った。
「何を根拠に?」
「本人に聞けば分かります」
「この事件に関わるな」
「それは無理です」
オースティンがマイクを睨む。
「痛い目に遭いたくなければ消えろ」
「それはできません」
オースティンはしばらくマイクを見た。
「……後悔するぞ」
オースティンは歩き出した。
マイクとローリーはその背中を見る。
ローリーが小声で言った。
「本当に嫌われたわね」
「最初から嫌われるつもりだった」
「どうして?」
「反応を見たかった」
ローリーはオースティンの背中を見る。
「何か分かった?」
マイクは答えなかった。
ただ、オースティンが角を曲がるまで、その姿を見ていた。
やがて、マイクが歩き出す。
「行くぞ」
「どこへ?」
「事務所だ」
「何をするの?」
「待つ」
「何を?」
マイクは答えなかった。
二人は廊下を歩いていった。
