コンテンプト・オブ・コート 2-11
アンカレッジ。
マイクの事務所。
昼前。
マイクとローリーは、机を挟んで向かい合っていた。
机の上には、市長殺害事件の資料が広げられている。
ローリーは資料を見た。
「本当にやるの?」
「何が?」
「市長殺害事件よ」
「やる」
マイクは即答した。
ローリーは資料を閉じた。
「カーターは殺人容疑で拘束されてる。証拠も山ほどある。しかも、あなたはまだ正式に弁護人として認められていない」
「これからなる」
「どうやって?」
「法廷で名乗ればいい」
「そんな簡単な話じゃないでしょう」
「簡単じゃないから面白い」
ローリーはマイクを睨んだ。
「昨日まで、あなたはカーターの事件について調べてるだけだったじゃない」
「予定が変わった」
「何があったの?」
「いろいろだ」
「その説明で納得すると思う?」
「思わない」
マイクは椅子から立ち上がった。
市長殺害事件の資料を一枚ずつ確認する。
「証拠品、証言、現場写真。全部見る」
「それだけ?」
「足りない」
「何が?」
「現場だ」
ローリーが立ち上がる。
「現場に行って何をするの?」
「調べる」
「警察が調べてるでしょう」
「だから信用できない」
ローリーは黙った。
マイクは資料の中から一枚の写真を取り出した。
市長が殺害された倉庫の内部写真だった。
床。
壁。
倒れた机。
その奥に、血痕の残った場所が写っている。
「写真だけじゃ分からないことがある」
「例えば?」
「匂い。音。出入口の位置。照明。周囲の道路。隣の建物」
「そんなものを調べて何になるの?」
「分からない」
「分からないのに行くの?」
「分からないから行く」
ローリーは呆れたように息を吐いた。
「あなた、最初から勝つつもりなんでしょう」
「当然だ」
「証拠はカーターに不利なのよ」
「知ってる」
「証人もいる」
「知ってる」
「アリバイまで崩れてる」
「それも知ってる」
「じゃあ、どうしてそんなに平然としていられるの?」
マイクは写真を机に戻した。
「市長殺害の裁判で大儲けする」
ローリーは一瞬、言葉を失った。
「……本気でやるつもり?」
「本気だ」
「あなた、本当に金のことしか考えてないの?」
「金は重要だ」
「最低」
「褒め言葉として受け取っておく」
「褒めてない」
ローリーは資料を抱えたまま、椅子に座った。
「私には無理」
「何が?」
「あなたの考えについていくこと」
「なら帰ればいい」
ローリーがマイクを見る。
マイクは表情を変えなかった。
「……本当に帰っていいの?」
「止めない」
「そう」
ローリーは立ち上がらなかった。
マイクはその様子を見ていた。
「俺たちが手を組めば向かうところ敵なしだ」
「正気じゃない」
「そうかもな」
「否定しないのね」
「正気だったら、こんな事件に首を突っ込まない」
ローリーは少し黙った。
「それでも行くの?」
「行く」
「分かった。行くわ」
「素直だな」
「勘違いしないで。あなたが信用できるからじゃない」
「分かってる」
ローリーは資料を鞄に入れた。
「それで、現場に行って何を調べるの?」
「全部だ」
マイクはコートを手に取った。
「行くぞ。ついてこい!」
ローリーも立ち上がる。
「はいはい」
マイクはドアへ向かった。
そこで足を止めた。
「ジム」
廊下からジムが顔を出した。
「頼みたいことがある……」
ジムがマイクを見る。
「何だ?」
マイクは少し間を置いた。
「裁判所の周辺を調べてくれ」
ジムの表情が変わる。
「分かった」
「エイダンにも伝えてくれ」
「ああ」
マイクはドアを開けた。
「急げ」
ジムは頷いた。
ローリーがマイクの後を追う。
二人が事務所を出る。
残ったジムは、すぐに携帯電話を取り出した。
「エイダン、出番だ」
電話の向こうから短い返事が返ってきた。
ジムは窓の外を見た。
アンカレッジ連邦地方裁判所の方向だった。
