コンテンプト・オブ・コート 2-10
アンカレッジ。
マイクの事務所。
昼前の静かな時間だった。
窓の外を車が走っている。
ローリーはデスクで書類を整理していた。
マイクはソファに座り、テレビを見ている。
画面には、先ほどマリベル裁判官が訪れた児童養護施設が映っていた。
「ヴァレンタイン判事は本日、アンカレッジ近郊の児童養護施設を訪問しました」
画面が切り替わる。
施設の前で、子供たちに囲まれるマリベルの姿が映る。
少女と話す。
子供から絵を受け取る。
笑顔で頭を撫でる。
その後、記者の質問に答えている。
「子供たちが安心して暮らせる場所を守ること。それだけです」
画面の下には、マリベル・ヴァレンタイン判事の名前が表示されている。
マイクは黙って見ていた。
レポーターの声が続く。
「ヴァレンタイン判事は以前から児童福祉に関心を示しており、今回も施設への支援を約束しました」
映像が変わる。
施設を出るマリベル。
記者に囲まれながら、穏やかな表情で車へ向かっている。
マイクがリモコンを置いた。
「メディア対応も完璧だ」
ローリーが書類から顔を上げた。
「そうね」
「子供たちへの接し方も自然だ。質問への答えも短い。余計なことを言わない」
「あなたとは大違いね」
マイクがローリーを見る。
「俺と?」
「そう。あなたなら記者に質問されたら、余計なことを十倍くらい話すでしょう」
「俺は質問されたことには答える」
「それが余計なのよ」
マイクは鼻で笑った。
「裁判官には向いてないな」
「誰もあなたを裁判官にしようとは思ってないわ」
ローリーは書類をまとめた。
「でも、ヴァレンタイン判事は本当に立派な人よ」
「そうなのか?」
「そうよ」
ローリーはテレビを見る。
画面では、マリベルが子供たちと握手している映像が流れていた。
「私が弁護士を続けられたのも、あの人のおかげだから」
「ずいぶん信頼してるんだな」
「当然でしょう」
ローリーは少し笑った。
「私にとっては先生みたいな人よ」
マイクは何も言わない。
テレビの画面が切り替わり、別のニュースが始まった。
市長殺害事件についての短い報道だった。
「アンカレッジ市長殺害事件では、州検察が捜査を続けています。裁判は――」
マイクがリモコンを押した。
画面が消える。
ローリーが振り返る。
「どうして消したの?」
「ヴァレンタイン判事の話をしていた」
「そう」
ローリーは再び書類に目を落とした。
「それにしても、あの人が市長殺害事件を担当するのよね」
「そうだ」
「大変な事件になりそう」
「もうなってる」
「あなたも関わるつもり?」
マイクは答えなかった。
ローリーが顔を上げる。
「マイク?」
マイクはソファから立ち上がった。
「ローリー」
「何?」
「仕事の話がある」
ローリーは手にしていた書類を机に置いた。
「また何か企んでるの?」
「そんなところだ」
「嫌な予感しかしないわ」
マイクは自分のデスクへ向かった。
机の上には、市長殺害事件の資料が積まれている。
マイクはその一番上に手を置いた。
「座れ」
ローリーはマイクを見る。
「分かった」
ローリーが椅子に座る。
マイクも向かい側に座った。
事務所の空気が変わった。
