コンテンプト・オブ・コート 1-53
アンカレッジ刑務所の面会室。
マイクとローリーは、テーブルを挟んで一人の男と向かい合っていた。
男の両手には手錠がかけられている。
四十代半ば。
短く刈った髪に、無精ひげ。
刑務所の服を着ているが、姿勢は崩れていなかった。
州警察の刑事、カーター。
アンカレッジ市長殺害事件の被告だった。
ローリーは男の顔を見た。
ニュースで報道されていた写真と同じ顔だった。
マイクは何も言わず、カーターを見ていた。
看守が男の後ろに立つ。
「時間は限られています」
「分かった」
看守が離れた。
カーターは二人を見た。
「誰だ?」
マイクが答える。
「マイク・ハンター。弁護士だ」
カーターは黙っていた。
「私があなたの弁護を担当する」
カーターの眉がわずかに動いた。
「優秀な弁護士を雇ってる」
「そうか」
「だから、あんたに頼む必要はない」
ローリーがマイクを見る。
「マイク」
「分かってる」
マイクはカーターから目を離さなかった。
「その弁護士より、俺がいい」
カーターが鼻で笑った。
「根拠は?」
「ない」
「ない?」
「まだな」
カーターはしばらくマイクを見た。
「変わった奴だな」
「よく言われる」
ローリーが口を挟む。
「私たちは本気で言っています」
カーターはローリーを見る。
「君は?」
「ローリー・ブルックス。弁護士です」
「そうか」
カーターは椅子の背にもたれた。
「俺は弁護士を変えるつもりはない」
「そうか」
マイクは短く答えた。
だが、帰ろうとはしなかった。
カーターの左腕がテーブルの上に置かれた。
袖口から皮膚が見える。
そこに傷があった。
歯形のような傷。
マイクの視線が一瞬だけ止まる。
カーターは気づいていない。
ローリーも気づいていない。
マイクは何も言わず、視線を戻した。
「市長殺害事件だ」
カーターが言った。
「そうだ」
「本当に俺を弁護するつもりか?」
「ああ」
「なぜだ?」
マイクは答えなかった。
カーターは少し待った。
「理由もなく?」
「理由ならある」
「何だ?」
「俺には関係がある」
カーターが眉を寄せる。
「どういう意味だ?」
「そのうち分かる」
ローリーがマイクを見る。
「何を考えてるの?」
「仕事だ」
「それだけ?」
「ああ」
マイクは椅子から立ち上がった。
カーターを見下ろす。
「俺が出してやる」
カーターの表情が変わった。
「俺を?」
「そうだ」
「今の弁護士がいるのに?」
「関係ない」
「俺が頼んだわけでもない」
「それも関係ない」
カーターは黙った。
マイクはそれ以上説明しなかった。
看守が扉の外から声をかける。
「時間です」
マイクが振り返る。
ローリーも立ち上がった。
カーターは椅子に座ったまま、二人を見ていた。
マイクが扉へ向かう。
「おい」
呼び止められた。
マイクが振り返る。
「本当に俺を出せると思ってるのか?」
「出す」
「どうやって?」
マイクは少しだけ笑った。
「弁護士だからな」
扉が開く。
マイクとローリーが面会室を出る。
扉が閉まった。
ローリーが廊下を歩きながら、マイクを見る。
「本当に担当するの?」
「ああ」
「どうして?」
マイクは答えなかった。
ただ歩き続けた。
その背後では、カーターが一人、面会室に残っていた。
テーブルの上には左腕が置かれたままだった。
そこには、古い噛み傷が残っていた。
