コンテンプト・オブ・コート 6-13
アンカレッジ市内。コールの選挙事務所では、スタッフが電話対応や資料の整理に追われていた。壁には市長選のポスターが貼られ、会議用のテーブルには支持率調査の結果と選挙活動の予定表が並んでいる。
コールは奥の個室で、選挙対策の資料に目を通していた。
携帯電話が鳴った。
画面に表示された番号を確認する。刑務所からだった。
コールは通話ボタンを押した。
「……元気にしてるか?」
電話の向こうから、カーターの声が返ってきた。
『お前の提案を考えてみた』
コールは椅子の背にもたれた。口元にかすかな笑みが浮かぶ。
「そうか。お前は決断が早くて好きだ」
『まだ何も決めていない』
「考える気になった。それだけでも進歩だろう」
カーターは答えなかった。
コールは机の上の資料を閉じ、窓の外へ目を向けた。事務所の前では、選挙スタッフが街頭活動に使う機材を車に積み込んでいる。選挙戦は予定どおり進んでいた。残る問題の一つが、刑務所にいるカーターだった。
市長殺害現場の映像を見せたとき、カーターはすぐには答えなかった。あの沈黙が何を意味するのか、コールにも分からなかった。
コールは返事を急かさず、相手の出方を待った。
やがて、カーターが口を開いた。
『今すぐ来い』
コールの笑みがわずかに止まった。
「……今すぐ?」
『聞こえなかったのか』
コールは腕時計を確認した。このあと選挙対策の打ち合わせが入っていたが、予定を変える価値はある。
「分かった」
『オースティンも連れてこい』
「最初からそのつもりだ」
通話が切れた。
コールは携帯電話を手にしたまま、しばらく画面を見つめていた。
カーターが取引に応じるつもりなのか。それとも、まだ何かを確かめようとしているのか。電話の短いやり取りだけでは判断できなかった。
ただ、少なくとも面会を拒んではいない。
コールは内線電話を取った。
「オースティンに連絡しろ」
スタッフが返事をする。
コールは受話器を置き、デスクの上の資料を脇へ寄せた。上着を手に取り、袖を通す。
扉を開けると、廊下にいたスタッフが振り返った。
「CEO、次の打ち合わせは?」
「延期だ」
コールはそれ以上答えず、事務所を出た。
カーターは警察官としての立場を利用し、これまでコールのために動いてきた男だ。刑務所から出るためなら、再び取引に応じる可能性はある。市長殺害事件の証拠をめぐる問題も、カーターをこちら側に引き込めば処理しやすくなる。
だが、映像を見せたときのカーターの目が、コールの脳裏に残っていた。
あの男が何を考えているのか、まだ分からない。
コールは車に乗り込み、運転手に告げた。
「アンカレッジ刑務所へ行け」
