コンテンプト・オブ・コート 6-12
埠頭には冷たい風が吹いていた。岸壁に係留された船が波に揺れ、ロープが金属の輪に擦れて音を立てている。倉庫の前を作業員が通り過ぎた。遠くでエンジン音が響いている。
マイクは手すりのそばに立ち、海を見ていた。
ローリーが歩いてきた。コートの襟を立て、鞄を肩にかけている。昨夜と同じように、顔には疲れが残っていた。
「待たせた?」
「いや」
マイクはローリーに目を向けた。
「少し話がある」
ローリーは隣に立った。海面を見下ろし、風に乱れた髪を耳にかける。
マイクはすぐには口を開かなかった。ローリーの様子を確かめるように、横顔を見ていた。
「……カーターと話したな」
ローリーの手が止まった。
「どうしてそう思うの?」
「昨夜から様子が違う。何かを聞き出そうとして、答えを得られなかった顔だ」
「顔だけで分かるの?」
「長い付き合いじゃないが、隠し事をしている時の顔くらいは分かる」
ローリーは答えなかった。
マイクは視線を海へ戻した。
「奴が無罪になっても大丈夫か?」
ローリーは彼を見た。
「市長を殺害していない。それは分かっているわ」
「それだけで割り切れるか?」
「割り切れるとは言ってない」
ローリーの声は落ち着いていた。
「カーターは警察官の立場を利用していた。コールのために動き、あなたを誘拐した。母のことも……」
「本人が話したのか?」
「謝ったわ。でも、何について謝ったのかは言わなかった。母がどこにいるのか、生きているのか、答えなかった」
マイクは黙って聞いていた。
「だから、今は何も決めつけられない。母に何をしたのかも分からない。あの男が母を殺したと決まったわけじゃない」
ローリーは鞄の肩紐を握り直した。
「でも、市長殺害事件とは別の話よ。カーターが殺していないのなら、その罪を着せたままにするわけにはいかない」
「カーターの無実を証明するんだな」
「ええ。絶対に勝たないと」
ローリーは迷いなく答えた。
「その代わり、犯した罪は必ず償ってもらう」
マイクはローリーを見た。
「弁護士として、被告を無罪にする。そのあとで、過去の罪を追及すると」
「市長殺害事件で真実を曲げるつもりはないわ。カーターが犯人でないなら、それを証明する。それと、彼が過去に犯した罪は別よ」
「簡単じゃないぞ」
「分かってる」
ローリーは海を見た。波が岸壁に当たり、白い泡が一瞬だけ広がって消えた。
「母のことは諦めない。カーターが知っているなら、必ず話させる。あなたを誘拐したことも、コールのために動いていたことも、なかったことにはさせない」
マイクはしばらく黙っていた。
「分かった」
「あなたは、カーターが無罪になれば満足なの?」
「市長殺害の真犯人を明らかにする。それが先だ」
「その後は?」
「奴が犯した罪まで消えるとは思っていない」
ローリーはマイクの顔を見た。彼の目は海ではなく、埠頭の先に向けられていた。
「なら、私たちの考えは同じね」
「そうだな」
二人の間に沈黙が落ちた。
ローリーは時計を確認した。
「戻りましょう。公判の資料を確認しないと」
ローリーは歩き出した。マイクも隣に並ぶ。
カーターは何も明らかにしなかった。母親の行方も、二十年前に何が起きたのかも分からない。
だが、ローリーは裁判から逃げるつもりはなかった。
まずは、市長殺害事件の真相を法廷で明らかにする。その先に何が待っていようと、母親の行方を追うことも、カーターに罪を償わせることも諦めない。
