コンテンプト・オブ・コート 1-52
マイクの事務所が入る古い四階建ての建物。その前に、一台の黒いセダンが止まった。
エンジンはかかったままだった。
運転席に座っているのはジョニーだった。
ニューヨークでマイク・ハンターに恥をかかされた男だ。
あの時、ジョニーは部下を何人も連れていた。それでもマイク・ハンターを追い詰めることができなかった。
さらにマイク・ハンターは、ジョニー側の会社が抱えていた税務上の問題を利用した。
最後には、ヒューイ・フリーマンまで現れた。
ジョニーはハンドルに置いた手を握った。
「ここか」
助手席の男が建物を見上げた。
「四階に事務所があるそうです」
「マイク・ハンターは?」
「まだ出入りは確認できていません」
「一人か?」
「そこまでは分かりません」
ジョニーは建物から目を離さなかった。
マイク・ハンターがなぜアンカレッジに来たのか。
何のために事務所を開いたのか。
ジョニーは知らなかった。
ニューヨークで揉めた相手が、いつの間にかこの街に現れ、弁護士事務所を開いている。
それだけが今分かっていることだった。
ジョニーはポケットから携帯電話を取り出した。
画面に登録された番号を表示する。
相手はケンドリック・コール。
総合建設企業テラ・インフラテックのCEOだった。
ジョニーは発信ボタンを押した。
数回の呼び出し音のあと、電話がつながった。
「はい」
コールの声だった。
ジョニーは声を整えた。
「久しぶりです。アンカレッジに来たので連絡しました」
「何しに来た?」
「弁護士を探しに」
「弁護士?」
「はい」
「何の弁護士だ?」
「アンカレッジで探しているところです」
コールは黙った。
ジョニーは窓の外を見た。
四階の窓に明かりが見える。
「それで、何か分かったのか?」
ジョニーは少し間を置いた。
「ニューヨークで会った男が、ここにいます」
「誰だ?」
「マイク・ハンターです」
電話の向こうが一瞬静かになった。
「マイク・ハンター?」
「そうです」
「何者だ?」
「ニューヨークで少し揉めた弁護士です」
「アンカレッジで何を?」
「分かりません」
ジョニーは建物を見上げた。
「ここで事務所を開いています」
「そうか」
コールの声に、それ以上の反応はなかった。
ジョニーは続けた。
「俺も詳しいことはまだ調べていません」
「なるほど」
「何か知っているかと思って、連絡しました」
コールは少し黙った。
「いや。聞いたことはない」
「そうですか」
「アンカレッジで会う予定でも?」
「ありません」
「そうか」
それだけだった。
ジョニーは窓の外を見た。
四階の明かりは消えない。
「では、これで」
「分かった」
「失礼します」
通話が切れた。
ジョニーは携帯電話を下ろした。
助手席の男が尋ねた。
「コールは何か知っていましたか?」
「何も知らないようだ」
「マイク・ハンターのことも?」
「知らない」
「それなら?」
「しばらく見ておく」
ジョニーは建物を見上げた。
マイク・ハンターが何を始めようとしているのか。
なぜアンカレッジなのか。
何を目的に事務所を開いたのか。
まだ何も分からない。
「張りますか?」
「ああ」
「どのくらい?」
「動きが分かるまでだ」
助手席の男がうなずいた。
ジョニーは背もたれに体を預けた。
建物の入口を見つめる。
人が一人、通り過ぎた。
だが、四階から誰かが出てくる気配はない。
ジョニーは携帯電話をポケットに戻した。
「動きがあったら知らせろ」
「分かりました」
黒いセダンは、その場から動かなかった。
アンカレッジの冷たい風が車体の横を抜けていく。
ジョニーは四階の窓を見上げた。
ニューヨークで受けた屈辱は、まだ消えていなかった。
