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オマーンの死刑制度:人権保障と「生きる権利」の侵害

オマーンの死刑制度は、国内法上、国家の刑罰権の一部として存置されている。
オマーンの石油採掘場(Getty Images)
現状(2026年10月時点)

オマーンは2026年10月時点において、死刑を法律上存置している国である。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは同国を死刑存置国に分類しており、死刑は歴史的な刑罰として条文に残されているだけではなく、現実に執行される可能性のある刑罰として位置づけられている。

オマーンの死刑制度を理解するためには、死刑を規定する法律の存在と、裁判所が死刑判決を下す頻度、政府が実際に刑を執行する頻度を分けて考える必要がある。法令に死刑が規定されていても、すべての対象犯罪について死刑が言い渡されるわけではなく、死刑判決が出ても、恩赦や減刑、司法手続きなどによって執行に至らない場合がある。

この区別は、オマーンの人権状況を評価するうえで特に重要である。執行件数が少ないことだけを理由に制度の人権上の問題が解消されたと判断することはできず、死刑を科し得る犯罪の範囲、被告人の防御権、判決後の救済手段、執行に関する情報公開も同時に検討しなければならない。

近年の執行実態と統計上の注意点

国際的な死刑廃止団体が公表している国別資料では、オマーンでは2020年に4件、2024年に3件の死刑執行が報告されている。一方、2023年には執行が確認されておらず、2025年についても、同団体の国別資料では執行件数は0件とされている。

これらの数値からは、オマーンが死刑を法的に維持しながら、年によって執行状況が変動していることが読み取れる。ただし、執行件数が0件であることは、死刑判決がなかったことや、死刑囚が存在しなかったことを意味しない。また、国際機関や市民団体による集計には、政府の情報公開の程度や報告の検証可能性による制約があるため、統計を利用する際には対象期間と集計方法を確認する必要がある。

さらに、2026年の執行状況については、年間を通じた確定統計と、年の途中で公表された情報を区別しなければならない。本稿では、2026年10月時点の法制度を分析の基準とする一方、年間の確定値が公表されていない場合には、2026年全体の執行件数を確定値として断定しない。

国内法と国際人権上の課題

オマーンの死刑制度に関する中心的な問題は、死刑を存置していることだけではない。より重要なのは、死刑の適用対象が国際人権法上の制限と整合しているか、死刑判決に至る司法手続きが公正か、そして生命を奪う刑罰について十分な透明性と救済措置が確保されているかという点である。

国際的な批判では、死刑の対象犯罪が「最も重大な犯罪」に限定されていない可能性や、薬物犯罪など、故意の殺人とは性質の異なる犯罪に死刑が規定されている点が問題視されてきた。2025年に国連の普遍的定期審査に向けて提出された市民社会側の報告書も、オマーンの刑法が死刑の適用範囲を十分に限定していないと指摘している。

他方、オマーン政府側は、死刑が重大な犯罪に対して法律に基づき適用され、最終判決に至るまで司法上の保障が設けられているとの立場を示してきた。したがって、制度を学術的に評価するには、政府が主張する法的保障の存在を確認するとともに、それらが実際の裁判や執行手続きにおいて十分に機能しているかを検証する必要がある。

オマーンにおける死刑制度の現状と法的位置づけ

オマーンの死刑制度の主要な法的根拠は、2018年1月11日に公布された勅令第7号に基づく刑法である。同法は従来の刑法を置き換え、国家の安全、生命に対する犯罪、薬物関連犯罪など、複数の犯罪類型について死刑を含む刑罰を規定している。

同刑法第53条は、主刑として死刑、拘禁刑、罰金を掲げている。また、第1条は、法律上の刑罰について、イスラム法上の定刑や同害報復刑に関する規定を除き、裁量刑としての性格を定めている。このため、オマーンの死刑制度は単一の犯罪類型に適用されるものではなく、一般刑法上の規定と宗教法に関連する法的枠組みが交差する制度として理解する必要がある。

刑法第79条および第80条には、一定の減軽事由や情状に基づいて、死刑を終身拘禁刑などに減刑できる仕組みが設けられている。これは、死刑があらゆる場合に機械的に適用されるわけではないことを示す一方、減刑の判断がどのような基準で行われるか、被告人がその判断を受ける機会をどの程度保障されているかという問題も提起する。

また、同刑法には、被害者側による赦免や金銭的補償の受諾が、特定の殺人事件において死刑を回避する要因となる規定もある。こうした制度は、刑事司法における被害者遺族の意思を反映する一方、同種の犯罪であっても遺族の判断や経済的条件などによって結果が異なる可能性を生み出すため、刑罰の平等性という観点からも検討を要する。

死刑制度とオマーンの法秩序

オマーンの法制度では、国家の安全や社会秩序の維持が刑事法制の重要な目的となっている。国家に対する重大な犯罪や計画的な殺人などに死刑を規定する考え方は、国家の保護と犯罪抑止を重視する刑事政策の一環として位置づけられる。

しかし、国家が刑罰権を行使できることと、その行使が国際人権基準に適合していることは別の問題である。国内法に死刑の根拠が存在していても、犯罪の定義や刑罰の適用範囲、裁判の公正性、救済手続きなどが国際的な義務に反していれば、制度の適法性や正当性には重大な疑義が生じる。

この点で重要なのは、死刑をめぐる議論を国内の法令解釈だけで完結させないことである。オマーンが締結している国際条約や地域的人権文書、国連の人権機関が示す基準との関係を整理することによって、国内法上は許容される行為であっても、国際人権法上は問題となり得る領域を明確にできる。

適用対象となる主な犯罪

オマーン刑法第301条は、故意に人を殺害した場合の刑罰として、原則的に終身拘禁刑を定めている。一方、第302条は、計画性や事前の準備、被害者が加害者の直系尊属であること、拷問や毒物・爆発物の使用、他の犯罪との関連、公務員に対する職務関連の殺人、複数人の殺害など、一定の加重事情がある場合に死刑を規定している。

この構造は、すべての故意の殺人に死刑を科す制度とは異なり、犯罪の態様や加重事情に応じて刑罰を区別する仕組みである。ただし、国際人権法上の問題は、故意の殺人に死刑が規定されているかどうかだけでなく、死刑を適用する加重事情の定義が明確で、重大性に見合ったものとなっているかという点にもある。

第302条には、被害者の遺族が赦免するか、一定の金銭的補償を受け入れた場合に、死刑を終身拘禁刑または一定期間の拘禁刑に置き換える仕組みも設けられている。これは被害者側の意思を考慮する制度であるが、国家が生命を奪う刑罰を科す基準と、遺族が処罰を望むかどうかという問題をどのように調整するかが、制度上の論点となる。

国家の安全に対する犯罪

オマーン刑法第94条から第101条などには、国家の統治体制や安全に関する重大な犯罪に対する死刑または終身拘禁刑の規定が置かれている。具体的には、スルタンの生命に対する重大な侵害、武力による統治体制の転覆、一定の条件下における武装集団への関与、オマーン領内での外国元首の生命に対する侵害などが含まれる。

国家の安全に対する犯罪を処罰すること自体は、各国の刑事法制に広く認められている。しかし、国家安全保障を理由とする犯罪規定では、暴力を伴う行為と、政府への批判、政治的な反対活動、表現行為などを明確に区別することが不可欠である。

とりわけ、犯罪の構成要件が広範または曖昧である場合、重大な暴力犯罪と非暴力的な行為が同じ枠組みで扱われる危険がある。死刑のように不可逆的な刑罰が適用される場合には、犯罪の定義の明確性と、司法による厳格な審査が一層重要となる。

薬物関連犯罪その他の犯罪

オマーンでは、刑法に加え、薬物や向精神性物質などを規制する特別法も刑事責任の根拠となる。薬物関連犯罪について死刑が適用され得ることは、国際人権団体や国連の人権審査に向けた市民社会の報告で問題として取り上げられている。

この問題の核心は、薬物犯罪が社会に深刻な被害を与え得るかどうかという一般論だけではない。国際人権法上、死刑を維持する国であっても、その適用は「最も重大な犯罪」に限定されるべきだという基準があり、一般に、薬物犯罪のような故意の殺人を伴わない犯罪への死刑適用は、この基準に適合しないと解釈されている。

さらに、薬物犯罪には、組織的な密売、運搬、所持など、行為の態様や関与の程度が大きく異なる類型が含まれる。個々の被告人の役割、故意、強制や搾取の有無、証拠の信頼性などを十分に審査せずに極刑を適用すれば、刑罰の均衡性と公正性を損なうおそれがある。

したがって、オマーンの死刑制度を評価する際には、死刑が規定されている犯罪を単純に列挙するだけでは不十分である。それぞれの犯罪について、生命の侵害との関係、暴力の有無、法定刑の幅、減刑の可能性、国際基準との整合性を個別に検討することが求められる。

執行の傾向

オマーンの死刑制度は、法的には存置されている一方、実際の執行は毎年一定の頻度で行われているわけではない。アムネスティ・インターナショナルの年次報告によると、オマーンでは2024年に3件の死刑執行が確認され、2021年以来となる執行が記録されたが、2025年には同団体が確認できた執行はなかった。

この推移は、死刑制度の存置と執行の頻度が必ずしも比例しないことを示している。ただし、執行が確認されなかった年を、政府が公式に執行停止を宣言した年と同一視してはならず、死刑判決の有無や死刑囚の人数とも区別する必要がある。

2025年末時点の国際的な集計では、オマーンについて新たな死刑判決は確認されず、死刑執行も0件と報告されている。しかし、死刑囚の人数や個々の事件の進捗については、公表資料によって確認可能な範囲に限界があり、統計上の空白を制度運用の不存在と解釈することはできない。

執行情報の公開と検証可能性

死刑制度の実態を評価するには、執行件数だけでなく、死刑判決が確定した時期、上訴の結果、恩赦や減刑の申請状況、執行に至った法的理由などを把握することが重要である。これらの情報が十分に公開されなければ、制度が適正に運用されているか、誤判を防ぐ仕組みが機能しているか、刑罰の適用に不均衡が生じていないかを外部から検証することが難しくなる。

とりわけ、死刑は執行後に誤判を回復できない刑罰であるため、情報公開の不足は単なる行政上の問題にとどまらない。司法手続きの公正性を社会が検証する機会を制限し、被告人の権利保護に対する信頼を損なう可能性がある。

もっとも、公開情報が限られていることだけから、個別事件で不公正な裁判が行われたと断定することも適切ではない。学術的な検証では、確認された事実、政府が公表した説明、国際機関や市民社会による指摘、未確認の事項を明確に区別する必要がある。

執行の少なさは人権保障を意味するか

死刑執行が少ないことは、生命に対する国家権力の行使が限定的であるという意味では一定の重要性を持つ。しかし、法令上、死刑の対象となる犯罪が広範に設定されている場合、執行件数が少なくても、将来的に極刑が適用される危険性は残る。

この点で、死刑の実態を評価する指標は、執行数だけでは不十分である。死刑の法定対象、死刑判決数、確定判決数、減刑・恩赦の実績、弁護へのアクセス、上訴の実効性などを組み合わせて評価することが、制度の人権適合性を判断するうえで不可欠となる。

国際人権基準と「生きる権利」の侵害に関する主な論点

死刑をめぐる国際人権法の中心には、生命に対する権利と、国家が生命を奪う刑罰をどこまで許容されるかという問題がある。世界的な人権保障の枠組みでは、生命に対する権利は基本的人権の中核に位置づけられ、国家による恣意的な生命の剝奪は禁止されている。

国際人権法上、死刑を存置する国についても、その適用は無制限に認められていない。特に、自由権規約第6条に関する国連自由権規約委員会の一般的意見第36号は、死刑を廃止していない国であっても、その適用を「最も重大な犯罪」に限定し、生命に対する権利を最大限に保護するよう求めている。

ただし、オマーンは自由権規約の締約国ではないため、同規約第6条が同国に対して締約国として直接適用されると説明するのは正確ではない。他方、オマーンは2023年にアラブ人権憲章への加入を承認しており、同憲章第5条は生命に対する権利と恣意的な生命剝奪の禁止を、第6条は死刑を「最も重大な犯罪」に限定する原則などを定めているため、同憲章に基づく義務の検討が重要となる。

このように、オマーンの死刑制度を国際人権法の観点から分析する場合には、国際的な基準の内容を確認するだけでなく、各条約の締約状況、条文上の義務、国際機関による解釈の法的性質を区別しなければならない。国際人権基準を参照することと、すべての国際条約上の義務がオマーンにそのまま適用されることは同義ではない。

① 「生きる権利」の不可侵性

「生きる権利」とは、人間が生命を有すること自体を保護対象とし、国家が恣意的にその生命を奪うことを許さないという基本原則である。この権利は、国家が刑罰を定める権限を全面的に否定するものではないが、刑罰権の行使に厳格な制約を課し、生命の剝奪を正当化するために高い法的基準を要求する。

死刑制度をめぐる議論では、重大な犯罪に対する応報や社会防衛の必要性が主張されることがある。しかし、被害者や遺族の権利を尊重することと、国家が被告人の生命を奪うことを正当化することは別の問題であり、刑罰の目的や社会的効果についても独立した検証が必要となる。

生命に対する権利の観点からは、死刑の適用に際して、犯罪の重大性、被告人の個別事情、証拠の確実性、裁判の公正性、上訴や恩赦の機会などが厳格に検討されなければならない。国家がこれらの条件を満たさずに生命を剝奪する場合、刑罰の根拠が国内法に存在していたとしても、人権保障上の深刻な問題が生じ得る。

また、死刑には誤判が判明した後に被害を完全に回復できないという固有の性質がある。自由刑であれば再審や釈放によって一定の回復が可能であるのに対し、死刑の執行後には、無罪が判明しても失われた生命を取り戻すことはできない。

したがって、死刑制度の人権適合性は、個々の判決が国内法に形式的に従っているかどうかだけで評価できない。誤判を防止するための制度的保障が十分か、被告人が実効的に防御できるか、国家による生命の剝奪を外部から検証できるかという観点を含めて総合的に判断する必要がある。

② 「最も重大な犯罪」への制限に関する不一致

国際人権法における重要な論点は、死刑の適用を「最も重大な犯罪」に限定する原則と、国内法が定める死刑対象犯罪の範囲との整合性である。国連自由権規約委員会の一般的意見第36号では、この概念を厳格に解釈し、故意による殺人を伴う極めて重大な犯罪に限るべきだとの見解が示されている。

この解釈によれば、薬物犯罪、経済犯罪、政治犯罪、殺人未遂など、行為そのものが直接かつ故意に人の死を引き起こしていない犯罪は、原則として死刑の対象となる「最も重大な犯罪」には該当しない。国連の人権機関は、この基準を死刑存置国における刑事法制の評価に用いており、犯罪の社会的な深刻さだけを理由に死刑の適用範囲を拡張することには慎重な立場を取っている。

オマーンについては、2025年の普遍的定期審査に関連して提出された市民社会の報告書が、同国の刑法は死刑を「最も重大な犯罪」に十分限定しておらず、故意による殺人を伴わない犯罪を含む広範な行為に極刑を認めていると批判した。特に、過失による死亡を伴う犯罪などへの死刑適用の可能性が問題として挙げられている。

この指摘を評価する際には、死刑を規定する個々の条文と、実際に死刑が言い渡された事件とを区別する必要がある。法律に死刑が規定されていることは、その犯罪について実際に執行が行われたことを意味しないが、適用可能性そのものが国際基準との不一致を生じさせる場合もある。

また、国際的な基準と国内法の間に緊張関係があるからといって、直ちにすべての死刑判決が違法になると一般化することも適切ではない。犯罪の構成要件、故意の有無、結果との因果関係、加重事情などを条文ごとに確認したうえで、国際基準との適合性を評価する必要がある。

オマーンにとって重要な改革課題は、死刑の対象となる犯罪を明確に限定し、故意による殺人を伴わない犯罪について死刑を排除する方向で法令を見直すことである。さらに、刑罰の個別化を徹底し、犯罪の重大性と被告人の関与の程度を考慮したうえで、極刑を適用しない選択肢を司法制度の中に確実に設けることが求められる。

③ 司法手続きの透明性と公正性への懸念

死刑制度の人権適合性を左右するもう1つの重要な要素は、死刑判決に至る司法手続きの公正性である。死刑を適用する場合、国家には、被告人が十分に防御できること、証拠が適切に検証されること、判決に対する実効的な不服申立てが可能であることなど、生命を奪う刑罰にふさわしい厳格な保障が求められる。

オマーン政府が国際的な人権審査において説明している制度上の保障には、刑事訴訟法に基づく複数の手続きが含まれる。政府報告によれば、死刑判決には裁判官全員の一致した意見が必要であり、判決に先立ってスルタンの命令により設置される委員会に事件記録を送付し、イスラム法の観点から意見を求める手続きも定められている。

これらの仕組みは、死刑判決が単独の裁判官の判断だけで確定しないようにする制度的保障として理解できる。ただし、裁判官の全員一致や宗教法上の審査が存在することだけで、証拠の信頼性、弁護活動の実効性、捜査段階における権利保障など、司法手続き全体の公正性が自動的に保証されるわけではない。

特に検証が必要なのは、被告人が捜査段階から弁護士に実効的にアクセスできるか、供述が強制や不当な圧力によって得られたものでないか、証拠開示や反対尋問が十分に行われるか、そして判決の理由が適切に示されるかという点である。死刑事件では、これらの保障に欠陥があれば、その影響が取り返しのつかない結果につながる可能性がある。

女性被告人に対する個別事情の考慮も、重要な検討対象となる。2025年の普遍的定期審査に向けた市民社会報告書は、オマーンの死刑事件において、長期的な虐待、強制的な支配、性別に関連する背景事情などを適切に考慮するための明確な仕組みが不十分であると指摘した。

この問題は、女性に対して一律に異なる刑罰を科すべきだという主張ではない。犯罪に至るまでの事情や、強制、脅迫、虐待、搾取などが被告人の行為に与えた影響を適切に評価し、責任の程度や減軽事由を判断できる制度が必要だということである。

さらに、恩赦や減刑の制度についても、申請の方法、審査の基準、判断までの期間、結果の通知などが明確でなければ、被告人が救済を求める権利を実効的に行使できないおそれがある。死刑判決後の救済手段は、司法手続きの欠陥を補う最後の重要な保障であるため、その利用可能性と透明性を確保することが不可欠となる。

総じて、オマーンの死刑制度に関する人権上の論点は、死刑を法律に規定しているという事実だけでは説明しきれない。対象犯罪の範囲、裁判の公正性、個別事情の考慮、判決後の救済、情報公開という複数の要素が相互に関係しており、制度全体を通じた検証が必要である。

改革に向けた課題と国際的な動向

オマーンの死刑制度を人権保障の観点から改革するには、死刑の全面廃止を長期的な目標として掲げるだけでなく、現行制度の下で生命の剝奪につながる危険を段階的に減らすことが重要である。具体的には、死刑の対象犯罪の縮小、執行停止措置の導入、司法手続きの改善、死刑事件に関する情報公開、国際的な人権保障制度への参加という複数の課題を並行して進める必要がある。

第一の課題は、死刑を適用できる犯罪の範囲を法律上明確に限定することである。故意による殺人を伴わない犯罪に死刑を適用し得る規定については、国際人権基準との整合性を個別に検証し、必要に応じて削除または修正することが求められる。

第二の課題は、死刑判決が下された場合の手続き的保障を強化することである。捜査段階からの弁護士へのアクセス、被告人に理解できる言語での情報提供、証拠の適切な開示、独立した裁判所による審理、実効的な上訴、恩赦や減刑の申請機会を確保することは、誤判の防止と生命に対する権利の保護に直結する。

第三の課題は、制度運用に関する透明性の向上である。死刑判決数、確定判決数、執行数、減刑・恩赦の件数、犯罪類型別の内訳などを定期的に公表すれば、制度の運用状況を国内外から検証しやすくなる。情報公開は、政府に対する批判を促すためだけの手段ではなく、司法制度の信頼性を高め、誤りを発見して是正するための制度的条件でもある。

執行停止から廃止へ向かう段階的改革

死刑制度の改革には、直ちに全面廃止を実現する方法のほか、一定期間の執行停止を導入し、その間に法制度や刑事司法の改革を進める方法がある。執行停止は死刑を法律上存置したままでも実施できるため、政治的・社会的な合意形成に時間を要する国において、生命の剝奪を減らすための暫定措置となり得る。

ただし、執行停止は死刑廃止と同じではない。法律上の死刑規定が残されていれば、政策の変更によって執行が再開される可能性があり、死刑判決を受けた人々が長期にわたり極度の不安定な状況に置かれる問題も解消されない。

そのため、執行停止を導入する場合には、対象事件や適用期間を明確にし、死刑囚の処遇、再審請求、減刑、恩赦などに関する方針を併せて整備することが望ましい。さらに、執行停止の実施状況を定期的に検証し、死刑を代替する刑罰の制度設計や被害者支援策を検討することで、将来的な廃止に向けた具体的な道筋を構築できる。

死刑の代替刑については、終身拘禁刑や長期拘禁刑などを検討する際にも、刑罰の比例性、人間の尊厳、再審による救済可能性を考慮する必要がある。死刑を廃止することは、重大犯罪への責任追及を放棄することではなく、生命を奪わずに社会を保護し、犯罪に応じた責任を問う制度へと刑事政策を再構成することを意味する。

国際的な人権保障制度への参加

オマーンの改革を考えるうえでは、国際条約への加入状況と、国際機関による審査・勧告への対応が重要となる。国際人権制度への参加は、国内法を外部から一律に置き換えるものではないが、各国の法制度を共通の基準に照らして検証し、改革の課題を具体化する機会を提供する。

オマーンは、自由権規約および死刑廃止を目的とする同規約第2選択議定書の締約国ではない。このため、自由権規約第6条に基づく締約国としての義務を直接負う立場にはないが、生命に対する権利を保護するという国際的な原則や、オマーンが参加する他の人権保障制度に照らして、国内法を検証することは可能である。

特に重要なのが、アラブ人権憲章への加入である。オマーンは2023年に同憲章への加入を承認しており、同憲章第5条は生命に対する権利と恣意的な生命剝奪の禁止を、第6条は死刑を最も重大な犯罪に限定する原則と、死刑判決を受けた者が恩赦または減刑を求める権利を定めている。

この枠組みは、オマーンの国内法を地域的人権基準に照らして評価するための重要な基盤となる。今後は、国内法に定められた死刑の対象犯罪や救済手続きが、同憲章の規定とどの程度整合しているかを具体的に検証し、必要な法改正を進めることが課題となる。

世界的な廃止の流れとのギャップ

世界的には、死刑を全面的に廃止する国、通常犯罪について廃止する国、法律上は存置しながら長期間執行していない国が増えてきた。アムネスティ・インターナショナルの2025年末時点の分類では、法律上または実務上、死刑を廃止した国は全世界の3分の2を超えており、死刑を実際に執行する国は少数に限られている。

一方、死刑廃止の潮流が世界全体で一方向に進んでいると単純化することもできない。2025年には、アムネスティ・インターナショナルが世界17か国で少なくとも2,707件の執行を記録し、確認された執行数は2024年の1,518件から78%増加した。中国など、実際の執行数を正確に確認できない国の推計値は、この集計に含まれていない。

この増加は、死刑をめぐる国際的な潮流が、制度の廃止に向かう動きと、国家が死刑を強化または継続する動きの両方を含んでいることを示す。したがって、オマーンの制度を世界の動向と比較する際には、死刑存置国か廃止国かという区分だけでなく、執行の頻度、適用対象、司法手続き、国際条約への参加状況などを組み合わせて分析する必要がある。

中東・北アフリカ地域における位置づけ

中東・北アフリカ地域では、死刑が刑事司法制度の一部として維持され、薬物犯罪や国家安全保障に関わる犯罪などに適用される国がある。2025年のアムネスティ・インターナショナルの集計では、同地域の確認された執行数は少なくとも2,611件に達し、2024年の少なくとも1,442件から大幅に増加した。

この地域全体の数値には、イランやサウジアラビアなど、執行数が非常に多い国の状況が大きく影響している。そのため、地域の合計値をそのままオマーンの実態に当てはめることはできないが、死刑をめぐる国際的な人権上の課題を理解するうえでは重要な背景となる。

オマーンでは2024年に3件の執行が報告され、2025年には執行が確認されていない。これは近年の地域的な動向と異なる側面を示すが、単年度の執行数だけで制度の方向性が変わったと結論づけることはできない。

オマーンの特徴は、死刑を存置しながら、国際的な人権審査を受け、国内法の保障措置を説明している点にある。今後の焦点は、こうした制度上の説明が、死刑対象犯罪の縮小や執行停止、情報公開の改善といった具体的な政策変更に結びつくかどうかである。

普遍的定期審査(UPR)等での勧告

普遍的定期審査は、国連人権理事会がすべての国の人権状況を定期的に審査する制度である。各国は自国の人権保障に関する説明を行い、他の国連加盟国から勧告を受けるほか、国連機関や市民社会が提出する情報も審査の参考資料となる。

オマーンの死刑制度については、過去の審査で、死刑廃止に向けた措置、執行停止の導入、死刑廃止を目的とする自由権規約第2選択議定書への加入などが勧告されてきた。これらの勧告は、オマーンが直面する制度改革上の課題を具体化するものであり、国際社会が死刑の存置そのものだけでなく、適用範囲や執行手続きにも関心を寄せていることを示す。

ただし、普遍的定期審査で示される勧告は、それ自体が国内法を直接改正する命令ではない。勧告を受けた国が支持したか、留意にとどめたか、その後にどのような政策を実施したかを区別して確認することが重要である。

2025年の審査に向けた市民社会の指摘

2025年7月に提出されたオマーンに関する市民社会側の共同報告書は、死刑制度について、刑法に複数の死刑規定が残されていること、2015年の審査以降も死刑が執行されていること、そして死刑の適用範囲を国際基準に沿って縮小する必要があることを指摘した。同報告書は、死刑執行の一時停止や、死刑の対象を最も重大な犯罪に限定するための法改正を勧告している。

同報告書が示す重要な問題は、死刑制度が単に法律上存置されているだけではなく、実際に執行される可能性を持ち続けている点である。2020年に4件、2024年に3件の執行が報告されたことは、長期間の執行停止が継続的な制度保障として確立されていないことを示す材料となる。

また、国連女性差別撤廃委員会は2024年、オマーンに対して死刑執行の一時停止を設け、死刑廃止を進めるよう勧告した。この勧告は、死刑制度を生命に対する権利の問題として扱うだけでなく、女性被告人の状況や、ジェンダーに関連する事情を刑事司法がどのように考慮するかという課題にも関係している。

勧告を実効的な改革につなげるために

国際的な勧告を実効的な改革に結びつけるには、政府が勧告を受け入れるか否かという形式的な判断にとどまらず、法令の改正、行政措置、司法手続きの改善など、具体的な実施状況を追跡することが必要である。例えば、死刑の対象犯罪を縮小する法改正案の提出、執行停止の公式発表、死刑判決に関する統計の定期公表などは、改革の進展を評価するための明確な指標となる。

さらに、死刑廃止を目的とする国際条約への加入を検討することは、国内政策の継続性を高めるうえで重要な選択肢となる。オマーンが自由権規約第2選択議定書への加入を検討する場合には、国内刑法との整合性、死刑判決を受けた者の処遇、代替刑の設計、被害者支援などを包括的に議論する必要がある。

普遍的定期審査は、各国に特定の刑事政策を一律に強制する制度ではないが、国際的な評価と国内改革を結びつける機会を提供する。オマーンに求められるのは、国際基準との不一致を抽象的な政治論争にとどめず、具体的な条文、運用、救済手続きに即して検証し、改善の成果を継続的に説明することである。

今後の展望

2026年10月時点でオマーンの死刑制度を評価するうえで、最も重要な課題は、死刑を存置する国内法と、生命に対する権利を保護する国際的な基準との関係を明確にすることである。オマーン刑法第53条は死刑を主刑の1つとして定め、第301条および第302条は故意の殺人と加重事情のある殺人について異なる刑罰を設けているため、制度改革では、死刑の対象犯罪を限定する法改正と、裁判手続きの保障を強化する措置を組み合わせる必要がある。

第一に、死刑を適用できる犯罪の範囲を再検討し、故意による殺人を伴わない犯罪に極刑を科し得る規定を国際人権基準に照らして見直すことが重要である。犯罪の社会的な危険性が高いという理由だけで生命を奪う刑罰を正当化するのではなく、犯罪の性質、故意の有無、結果の重大性、被告人の責任の程度を区別する必要がある。

第二に、死刑判決を受けた者に対する司法上の保障を実効的なものにすることが求められる。弁護士へのアクセス、証拠の開示、適切な通訳、独立した裁判所による審理、実効的な上訴、再審や恩赦を求める機会を確保し、捜査段階から判決確定後まで一貫した権利保障を整備する必要がある。

第三に、執行停止を政策上の選択肢として検討することが考えられる。執行停止は死刑の法定規定を直ちに削除する措置ではないものの、制度改革が進む間に生命の剝奪を防ぐ暫定的な手段となり、死刑事件の再検証や代替刑の検討を進める時間を確保できる。

ただし、執行停止だけでは死刑制度が生み出す問題をすべて解消できない。死刑判決を受けた者の処遇、長期間にわたる不確実な状態、減刑や恩赦の基準、将来的な執行再開の可能性などが残るため、停止措置を導入する場合には、最終的な制度改革への工程表を併せて策定することが望ましい。

国際条約と国内制度の整合性

オマーンは自由権規約の締約国ではないため、同規約第6条に基づく締約国としての義務を負っていると説明することはできない。一方、オマーンが加入を承認したアラブ人権憲章は、生命に対する権利、恣意的な生命剝奪の禁止、死刑を最も重大な犯罪に限定する原則、恩赦または減刑を求める権利を規定しており、国内法の適合性を検討するうえで重要な基準となる。

今後の改革では、死刑を規定する個々の条文と、アラブ人権憲章の各条項との対応関係を整理し、どの規定について改正が必要なのかを具体化することが重要である。法令上の保障だけでなく、裁判記録へのアクセス、執行に関する情報公開、減刑制度の運用実績なども検証することで、国際的な義務と国内制度の間に存在する問題をより正確に把握できる。

また、死刑廃止を目的とする自由権規約第2選択議定書への加入を検討することは、長期的な政策課題となり得る。加入に向けた議論では、代替刑の設計、被害者と遺族への支援、重大犯罪の防止策、刑事司法への社会的信頼を総合的に扱い、死刑の廃止が犯罪対策の放棄を意味しないことを制度面から示す必要がある。

透明性の向上と継続的な検証

死刑制度の改革を評価するには、政府が公表する情報の量と質を改善することが不可欠である。死刑判決数、確定判決数、執行数、恩赦や減刑の件数、犯罪類型別の内訳、上訴や再審の結果を定期的に公表すれば、制度の運用状況を客観的に検証しやすくなる。

さらに、死刑事件の裁判手続きについて、個人情報や正当な安全保障上の利益を保護しながら、判決理由や適用条文を公開することも有効である。透明性が高まれば、国内の法律家、研究者、市民社会、国際機関が制度の問題点を具体的に分析し、改善策を提案するための基盤が整う。

改革の進捗は、政府の声明だけではなく、法改正の成立、執行停止の実施、司法救済の利用可能性、統計の公開、国際的な勧告への対応など、測定可能な指標によって評価されるべきである。こうした継続的な検証を通じて、死刑制度をめぐる議論を理念的な対立にとどめず、生命に対する権利を実際に保護するための政策へと結びつけることができる。

まとめ

オマーンの死刑制度は、国内法上、国家の刑罰権の一部として存置されている。2018年制定の刑法は死刑を主刑として規定し、加重された殺人や国家の安全に関わる一定の犯罪などを対象としているが、制度の評価には法定刑の存在だけでなく、適用対象の範囲、実際の執行、司法手続き、救済措置を総合的に検討する必要がある。

人権保障の観点から特に重要なのは、生命に対する権利を保護する国際的な原則と、死刑の適用を「最も重大な犯罪」に限定する基準である。オマーンは自由権規約の締約国ではないものの、アラブ人権憲章に定められた生命に対する権利などの規定を踏まえ、国内法と国際的な人権保障の整合性を検討することが求められる。

また、死刑事件における公正な裁判の保障は、制度の正当性を判断するうえで欠かせない。被告人が十分な弁護を受けられること、証拠が厳格に検証されること、判決に対する実効的な不服申立てが可能であること、恩赦や減刑の制度が利用できることは、誤判による不可逆的な被害を防ぐための重要な条件である。

執行件数については、国際的な集計で2024年に3件、2025年には確認された執行が0件とされている。しかし、執行が確認されない年が存在することだけで、死刑制度が事実上廃止された、あるいは人権上の問題が解消されたと判断することはできない。死刑の対象犯罪が残されている限り、将来の執行可能性や死刑判決を受けた者の権利保障を継続的に検証する必要がある。

国際社会による普遍的定期審査や国連機関の勧告は、オマーンの刑事司法制度を見直す重要な機会となる。今後は、死刑の対象犯罪の縮小、執行停止の検討、司法手続きの改善、統計の公開、国際的な人権保障制度への参加を具体的な政策課題として扱うことが望ましい。

最終的に、オマーンの死刑制度をめぐる問題は、死刑を存置するか廃止するかという二者択一にとどまらない。国家の刑罰権をどこまで認めるのか、生命に対する権利をどのように保護するのか、司法の公正性をいかに担保するのかという、法治国家の根幹に関わる問題である。

したがって、今後の改革では、国内法の形式的な適法性だけでなく、刑罰の必要性と均衡性、司法手続きの実効性、誤判を防止する制度的保障、国際人権基準との整合性を総合的に評価することが不可欠である。生命に対する権利を実効的に保護するためには、透明性の高い制度運用と、検証可能な改革の積み重ねが求められる。


参考・引用リスト

オマーンの法令・公的資料

1. オマーン国刑法(勅令第7号、2018年)

  • 法令本文・英訳:世界知的所有権機関・法令データベース

  • オマーン法令データベース:勅令第7号・刑法制定原文

2. アラブ人権憲章への加入を承認する勅令第16号(2023年)

  • オマーン政府法令資料・勅令第16号

国連・国際人権機関

3. 国連自由権規約委員会、一般的意見第36号「生命に対する権利」(2018年)

  • 文書番号:CCPR/C/GC/36

  • 国連公式文書

4. 国連人権理事会、普遍的定期審査(オマーン)

  • 国連人権高等弁務官事務所・オマーン審査資料

5. 国連女性差別撤廃委員会

  • オマーンに関する審査・総括所見については、国連の条約機関文書データベースで確認できる。

  • 国連条約機関文書データベース

6. アラブ人権憲章

  • 生命に対する権利、死刑の適用制限、恩赦・減刑の権利に関する第5条・第6条などを参照。

  • オマーンによる加入承認資料

死刑の執行状況・国際的な分析

7. アムネスティ・インターナショナル『死刑判決と死刑執行 2025年』

  • 2025年の世界の死刑判決・執行状況を集計した年次報告。

  • 2025年版年次報告書(PDF)

8. 世界死刑廃止連合「オマーン」

  • オマーンの死刑制度の法的分類、近年の執行状況、国際条約への参加状況を掲載。

  • オマーン国別資料

9. 国連薬物・犯罪事務所

  • オマーン刑法の英訳資料。


追記:法令と統計をどこまで正確に評価できるか

国内法の条文を精査する必要性

これまではオマーンの死刑制度を法制度、執行実態、国際人権基準、改革の方向性という観点から検討した。学術的な論文としての信頼性をさらに高めるには、死刑が規定されているという一般的な説明にとどまらず、具体的な条文の文言、適用要件、減刑の条件、法令の改正状況を一次資料に照らして確認する必要がある。

オマーン刑法第301条は、故意の殺人について原則として終身拘禁刑を定め、第302条は、計画性、毒物や爆発物の使用、公務員に対する職務関連の殺人、複数人の殺害など、一定の加重事情がある場合に死刑を規定している。この区別は、オマーンの死刑制度を分析するうえで重要であり、故意の殺人すべてに死刑が適用される制度であるかのような説明は避けなければならない。

また、第302条では、被害者の遺族が赦免するか、一定の金銭的補償を受け入れた場合に、死刑を終身拘禁刑または一定期間の拘禁刑に置き換える仕組みが定められている。この制度については、被害者遺族の意思を尊重する側面と、刑罰の結果が遺族の判断などによって異なり得る側面を区別して評価する必要がある。

さらに、死刑の適用範囲を検討する際には、刑法だけでなく、薬物規制法などの特別法も調査対象となる。特別法の改正状況や現行条文を確認しないまま、特定の犯罪が現在も死刑の対象であると断定することは避けるべきである。

執行件数と死刑判決数を区別する

死刑制度に関する統計を扱う場合、執行数、死刑判決数、死刑囚の人数、減刑・恩赦の件数は、それぞれ異なる指標である。これらを混同すると、死刑制度が実際にどの程度運用されているのか、また、どれほどの人が生命を奪われる危険にさらされているのかを正確に評価できなくなる。

世界死刑廃止連合が2026年10月に更新したオマーンの国別資料では、2025年の死刑執行は0件、2024年は3件、2023年は0件と整理されている。同資料は、死刑判決を受けている人の人数についても情報を掲載しており、執行件数とは別に、死刑制度の運用状況を把握する必要性を示している。

ただし、国際団体の統計は、各国政府が公開する情報や報道などから確認できた事実に基づく場合がある。公表されていない事件や十分に確認できない情報がある場合には、実際の件数と確認済みの件数が一致しない可能性を考慮しなければならない。

したがって、2026年10月時点の分析では、2025年の年間集計と2026年中に公表された情報を分け、2026年の年間執行数が確定しているかどうかも確認する必要がある。年の途中で執行が報告されていないことを根拠に、その年の執行が最終的に0件になると断定することはできない。

学術的評価を深めるための追加論点

死刑制度をめぐる議論では、法律に適正な手続きが定められていることと、その手続きが実際の事件で十分に機能していることを区別する必要がある。例えば、被告人に弁護を受ける権利が認められていても、捜査段階で弁護士に接触できなかったり、証拠を十分に検討する機会がなかったりすれば、制度上の権利が実効的に保障されているとは限らない。

もっとも、個別事件の記録や信頼できる調査資料がない場合、オマーンの裁判所が公正な審理を行っていないと一律に結論づけることもできない。必要なのは、法律上の保障を確認したうえで、事件記録、裁判所の判断、政府の説明、独立した専門機関の調査を照合し、実際の運用を検証することである。

この方法は、オマーンだけでなく、死刑を存置するあらゆる国の刑事司法制度を評価するうえで重要である。特に死刑は執行後に回復できないため、手続き上の欠陥が存在する可能性を一般論として指摘するだけでなく、誤判防止のための具体的な保障がどこまで機能しているかを調査する必要がある。

死刑の抑止効果と代替刑の検討

死刑を支持する立場では、極刑が重大犯罪を抑止し、社会を保護する効果を持つと主張されることがある。しかし、死刑が終身拘禁刑などの代替刑よりも犯罪抑止に優れているかについては、国際的な研究においても確定的な結論が得られているとはいえない。

この問題を検証するには、犯罪発生率の単純な比較だけでは不十分である。捜査能力、逮捕される可能性、裁判の迅速性、社会経済的条件、武器の流通、組織犯罪の状況など、犯罪率に影響を与える複数の要因を考慮しなければならない。

したがって、オマーンの死刑制度を評価する際にも、死刑が重大犯罪を抑止していると前提づけることも、逆に抑止効果がまったくないと断定することも適切ではない。政府が掲げる犯罪抑止の目的について、比較可能な統計と研究に基づく検証を求めることが、実証的な刑事政策の基本となる。

死刑の代替刑を検討する場合には、終身拘禁刑や長期拘禁刑の犯罪抑止効果だけでなく、誤判が判明した場合の救済可能性、刑務所内での人間の尊厳、被害者や遺族に対する支援、社会復帰の可能性なども評価対象とすべきである。刑罰制度の目的を社会防衛と責任追及に置くのであれば、生命を奪わない手段によってそれらの目的を達成できるかを検討することが重要となる。

被害者・遺族の権利と国家の刑罰権

オマーン刑法第302条における赦免や金銭的補償の仕組みは、被害者遺族の意思を刑事司法に反映させる制度として注目される。この仕組みは、遺族の意向を尊重する可能性を持つ一方、同様の犯罪であっても、遺族の選択や経済的な条件などによって刑罰が異なる可能性を生じさせる。

この点を検討する際には、遺族の意思を尊重することと、国家が公的な刑罰を科す際の平等性を確保することの両立が課題となる。金銭的補償が関係する場合には、経済的に余裕のある被告人とそうでない被告人の間で結果が異なる可能性がないか、遺族が外部からの圧力を受けずに意思決定できるかという観点も重要である。

また、死刑の廃止を検討する場合であっても、被害者と遺族の権利を軽視することはできない。犯罪被害に対する公的な支援、適切な損害賠償、心理的支援、裁判情報へのアクセス、被害者参加の機会などを整備することは、刑罰のあり方に関する議論とは独立して進めるべき課題である。

政策提言:改革の優先順位と評価指標 短期的な課題

短期的には、死刑の対象となる犯罪と適用条件を網羅的に調査し、現行法の条文と国際人権基準の間に存在する不一致を明確にすることが優先される。あわせて、死刑事件における弁護人へのアクセス、証拠開示、通訳、上訴、再審、恩赦などの手続きについて、制度上の保障と実際の運用を比較検証する必要がある。

また、死刑執行に関する情報を定期的に公表し、死刑判決数、執行数、減刑数などを区別して集計することが望ましい。こうした統計の整備は、国際社会に対する説明責任だけでなく、国内の刑事司法制度を改善するための基礎資料にもなる。

中期的な課題

中期的には、死刑の対象犯罪を「最も重大な犯罪」に限定するための法改正、死刑事件に対する独立した審査の強化、減刑・恩赦制度の透明化などが検討課題となる。さらに、執行停止を導入する場合には、対象範囲、期間、既存の死刑判決の取扱い、再審や減刑の手続きを明確にし、暫定措置が恒久的な改革につながるように設計することが重要である。

国際的な勧告への対応についても、政府の回答だけではなく、法改正の成立状況や実施結果を定期的に公表することが求められる。これにより、改革が声明にとどまっているのか、それとも実際の制度変更に結びついているのかを客観的に評価できる。

長期的な課題

長期的には、死刑の全面廃止を含む刑事政策の再検討が重要となる。その際には、重大犯罪に対する適切な代替刑、犯罪被害者への支援、再犯防止策、捜査能力の強化、司法の独立性などを一体的に整備し、生命を奪わずに社会を保護する制度の実現可能性を検証する必要がある。

改革の成果は、単に死刑執行が減少したかどうかだけで測るべきではない。死刑の対象犯罪が縮小したか、誤判防止の手続きが強化されたか、裁判情報の公開が改善したか、国際的な勧告が実施されたかという複数の指標を用いて評価することが望ましい。

以上の提言は、オマーンの国内事情を無視して外部の制度をそのまま導入することを意味しない。国内法、社会的背景、司法制度の実態を踏まえつつ、生命に対する権利の保護と公正な刑事司法の実現という目標に向けて、検証可能な改革を積み重ねることが重要である。

最後に

オマーンの死刑制度をより厳密に評価するためには、法令上の規定、実際の運用、国際人権基準、刑事政策の効果をそれぞれ独立して検証し、その結果を総合的に判断する必要がある。特に、死刑の対象犯罪がどこまで限定されているか、被告人の権利が実際に保障されているか、誤判を防止する仕組みが機能しているかという問題は、制度の正当性を評価するうえで中心的な位置を占める。

また、死刑の廃止や執行停止をめぐる議論では、国家の刑罰権だけでなく、被害者と遺族の権利、犯罪抑止の実証的な評価、代替刑のあり方、司法制度への社会的信頼を併せて検討することが求められる。制度改革の成果を継続的に評価するためには、信頼できる統計の公開と、国際的な勧告への対応状況の検証が不可欠である。

本稿全体を研究論文として完成させる場合には、各法令の現行条文、国連機関の正式文書、死刑執行に関する年次報告を相互に照合し、事実認定と評価・提言を明確に区別することが望ましい。これによって、オマーンの死刑制度をめぐる議論を、理念的な賛否の対立から、法的根拠と実証的な証拠に基づく制度分析へと発展させることができる。


参考・引用リスト(追記)

国内法・法令資料

1. オマーン刑法(2018年、勅令第7号)。特に第1条、第4条、第53条、第301条、第302条を参照。

  • オマーン法令データベース:刑法原文

  • 世界知的所有権機関:刑法の英訳・法令情報

国際人権基準・死刑に関する資料

2. 国連自由権規約委員会『一般的意見第36号:生命に対する権利』(2018年)、文書番号CCPR/C/GC/36。

- 国連公式文書

3. 世界死刑廃止連合「オマーン国別資料」。死刑の法的分類、確認された執行件数、死刑囚の人数、国際条約への参加状況。

- オマーンの死刑制度・国別資料

4. アムネスティ・インターナショナル『死刑判決と死刑執行 2025年』。世界各国の死刑判決と執行状況に関する年次集計。

- 2025年版年次報告書(PDF)

5. 国連人権高等弁務官事務所「普遍的定期審査:オマーン」。審査資料、各国の勧告、政府回答など。

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