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ガンビアの死刑制度:政治情勢や世論による揺り戻しのリスク

ガンビアの死刑制度は、独立後の限定的な執行、ジャメ政権下の強権的な利用、2017年以降のモラトリアム、そして2025年の一般刑法上の死刑廃止という大きな変化を経験してきた。
2021年12月5日/ガンビア、首都バンジュール、バロウ大統領の再選を祝う人々(Getty Images/AFP通信)
現状(2026年9月時点)

西アフリカの小国ガンビアでは、死刑制度をめぐる状況が大きな転換点にある。2025年3月に成立した刑法関連の新法によって、殺人、反逆罪など従来死刑の対象となり得た主要犯罪について死刑を廃止する方向の改革が実現した一方、軍法やテロ対策法など一部の法律には依然として死刑規定が残されているため、2026年9月現在、ガンビアを「完全な死刑廃止国」と分類することはできない。アムネスティ・インターナショナルも、2025年の制度状況についてガンビアを死刑存置国として扱いながら、刑法上の廃止に向けた重要な進展があったと評価している。

この状況を理解するうえで重要なのは、ガンビアの死刑制度が単純な「存置か廃止か」という二択では説明できない点にある。一般刑法上の死刑適用範囲は大きく縮小されたものの、1997年憲法そのものには死刑を完全に排除する規定がなく、さらに一部の特別法に死刑が残るという法体系上の二重構造が存在しているため、制度としては「廃止へ向かう過渡期」と位置づけるのが妥当である。

特に2025年7月に国会が新憲法案を否決したことは、この問題を複雑にした。新憲法案は死刑を認める規定を含まない内容だったが、国会で35対21となり、必要な3分の4の賛成を得られなかったため、1997年憲法が引き続き効力を持つことになった。国際民主主義・選挙支援機関であるInternational IDEA(国際民主主義・選挙支援国際機関)も、この否決によって憲法改革が停滞し、旧憲法下に残る制度上の問題が維持されることになったと分析している。

さらに2026年に入ると、死刑をめぐる政治的・社会的議論は再び活発化している。2026年7月には国会議員のギビ・ムバロウが、殺人事件の増加を背景として死刑執行停止措置をめぐる国民的議論を呼びかけており、死刑制度が単なる法律論ではなく、治安問題と結び付いた政治争点として再浮上していることが確認できる。

この動きは、ガンビアが死刑廃止へ一直線に進んでいるわけではないことを示している。むしろ現在のガンビアでは、国際人権規範に沿って死刑を縮小・廃止しようとする政治勢力と、犯罪や治安への不安を背景に死刑の復活・執行を求める世論との間で、制度の方向性が揺れ動く可能性がある。

したがって、「政治情勢や世論による揺り戻し」という観点から見ると、2026年9月時点のガンビアは非常に興味深い位置にある。法律上の死刑適用範囲は大幅に縮小されたにもかかわらず、憲法上・特別法上の死刑規定が残り、さらに国会では死刑をめぐる再検討を求める声が現れているため、完全廃止が不可逆的に確定した段階とは言い難いのである。

ガンビアの死刑制度を巡る歴史的背景と政治情勢の変遷

ガンビアの死刑制度を分析するには、同国の政治史、とりわけ独立後の民主政治、軍事クーデター、ヤヒヤ・ジャメ政権による長期独裁、そして2017年以降の民主化過程を一体として見る必要がある。死刑は犯罪に対する刑罰という法的制度であると同時に、国家が個人の生命を奪う権限をどこまで認めるかという政治制度上の問題でもあるからである。

ガンビアは1965年にイギリスから独立し、初代大統領ダウダ・ジャワラのもとで長期間にわたる文民統治を経験した。ジャワラ政権は周辺の西アフリカ諸国で軍事クーデターが相次ぐ中でも比較的安定した政治体制を維持したが、1981年にはクーデター未遂事件が発生し、国家の治安と政治秩序をめぐる緊張が高まった。

死刑制度との関係で重要なのは、ジャワラ政権期にも死刑が実際に執行されていたことである。2026年に報じられたガンビア国内の議論によれば、独立後に死刑が実際に執行された事例は極めて少なく、ジャワラ政権下では1980年代にムスタファ・ダンソに対する死刑執行が行われたとされる。つまり、ジャワラ期のガンビアは死刑制度を法律上維持していたものの、それを常態的な政治手段として運用する国家ではなかったと評価できる。

しかし、この時期の経験は後のジャメ政権と比較するうえで重要である。死刑制度そのものが直ちに独裁政治を意味するわけではない一方、司法制度が政治権力から独立していない場合、死刑という不可逆的な刑罰は国家による人権侵害を極めて深刻なものにする危険性を持つためである。

ジャワラ政権期から民主化の模索(1960〜1990年代初頭)

独立後のガンビアでは、ジャワラ率いる人民進歩党(PPP)が長期間政権を維持した。政治体制は一党優位的な側面を持ちながらも、後のジャメ政権と比較すれば、選挙、政党政治、司法制度などの国家制度が一定程度機能しており、死刑の執行も限定的であった。

1981年のクーデター未遂は、こうした比較的安定した政治秩序に対する大きな衝撃となった。反乱を鎮圧する過程で治安機関の権限が強化され、国家安全保障と政治的安定を優先する考え方が強まったことは、その後の政治史を理解するうえで重要である。

もっとも、ジャワラ政権下では死刑が政治的粛清の主要な手段となることはなかった。2026年のガンビア国内報道でも、独立後の死刑執行例は1980年代の1件と2012年の大量執行が主要な事例として対比されており、この差はガンビアの死刑制度が政権交代によって大きく性格を変えたことを示している。

1990年代に入ると、ガンビア政治は大きな転換点を迎える。1994年7月、ヤヒヤ・ジャメ中尉らによる軍事クーデターによってジャワラ政権が倒され、ガンビアは22年に及ぶジャメ体制へと移行した。

この政変は、死刑制度の歴史を考えるうえでも決定的な意味を持つ。なぜなら、ジャメ政権期には死刑制度が単なる刑事司法上の制度ではなく、国家の強権的統治、人権侵害、政治的抑圧という問題と結び付いていったからである。

ジャメ独裁政権による恐怖政治と死刑の復活(1994〜2016年)

ヤヒヤ・ジャメは1994年のクーデター後、軍事政権を率いて国家を統治し、その後大統領として長期政権を維持した。ジャメ政権では政治的反対派、ジャーナリスト、市民社会活動家などに対する弾圧が問題となり、国家機関や治安機関が大統領の権力維持に利用されたとされる。

ガンビアの真実・和解・賠償委員会(TRRC)がまとめた資料は、ジャメ政権下での殺害、拷問、強制失踪などについて詳細な調査を行っている。その報告資料には、死刑判決を受けた囚人の扱いや、1991年にジャワラによって終身刑へ減刑された人物の死刑判決がジャメによって1995年に復活させられ、最終的に2012年の処刑対象となった事例も記録されている。

この事例が示すのは、死刑制度そのもの以上に、処罰権限を持つ政治権力がどのように刑罰制度へ介入するかという問題である。死刑は一度執行されれば回復不能であり、司法手続きに重大な瑕疵があった場合、後から誤りを修正することができないため、政治権力と司法の関係が不安定な国家では特に大きな人権上のリスクとなる。

ジャメ政権による死刑政策を象徴する出来事が2012年8月の大量処刑である。複数の死刑囚が一斉に処刑され、この出来事はガンビアの人権状況に対する国際的な批判を強める契機となった。

2012年の処刑は、ガンビアにおける死刑制度の性格を大きく変えた。ジャワラ期に極めて限定的に運用されていた死刑が、ジャメ体制の強権的統治を象徴する制度として国際社会から認識されるようになったのである。

その後、ジャメ政権の政治的圧力は国内外で強く批判されるようになった。特に2016年の大統領選挙でジャメが敗北し、アダマ・バロウが勝利したことは、ガンビアの政治史だけでなく、死刑制度の方向性にも重大な変化をもたらすことになる。

2016年の政権交代は単なる大統領の交代ではなかった。それは、22年間続いた強権体制から民主的統治へ移行するという国家体制そのものの転換であり、死刑を含む刑事司法制度を「国家による恐怖の道具」から「法の支配と人権保障に基づく制度」へ再構築する契機となったのである。

バロウ政権への移行と「脱・死刑」への歴史的転換(2017年〜現在)

2016年12月の大統領選挙でアダマ・バロウがヤヒヤ・ジャメを破ったことは、ガンビアの政治史における最大級の転換点となった。ジャメは一度敗北を認めたものの、その後選挙結果を拒否し、最終的には地域機構ECOWASによる圧力と軍事的介入の可能性を背景に国外へ退去したため、2017年1月にバロウが正式に大統領へ就任した。

この政権交代が死刑制度に与えた意味は非常に大きい。バロウ政権はジャメ時代の人権侵害と国家による強権的統治から決別することを主要な政治課題の一つとして掲げ、死刑廃止をその象徴的政策の一つとして位置づけたからである。アムネスティ・インターナショナルも2017年の段階から、新政権に対して死刑制度の廃止を含む包括的な人権改革を求めていた。

2017年9月、バロウ大統領は国連総会の場で、死刑廃止を目的とする「自由権規約第二選択議定書」への加入手続きを進める意思を示した。ガンビアは同年9月20日に同議定書へ署名し、2018年9月28日に正式に加入したため、国際法上も死刑廃止へ向かう国家としての方向性を明確にした。

これは単なる外交上の意思表示ではなかった。ジャメ政権下で国家による生命権侵害が国際的に問題視されたことを踏まえれば、死刑廃止条約への参加は、ガンビアが「国家が生命を奪う権限」を縮小し、人権を基礎とする国家へ移行することを国際社会に示す象徴的意味を持っていた。

2018年の死刑執行モラトリアム

2018年2月18日、バロウ大統領はガンビア独立記念日の演説で死刑執行のモラトリアムを公式に宣言した。さらに当時死刑判決を受けていた囚人については、刑を終身刑へ減刑する措置を取ったと国連人権委員会への政府報告で説明している。

この決定は、2012年8月にジャメ政権が9人の死刑囚を処刑した事件からわずか数年後という歴史的文脈の中で見る必要がある。国連人権機関の資料によれば、2012年の9人の処刑は、長期間続いていた事実上のモラトリアムを破るものだったため、国際的にも重大な人権問題として扱われた。

つまり、2018年のモラトリアムは単なる刑罰政策の変更ではなく、ジャメ時代の国家暴力との断絶を示す政治的メッセージでもあった。特に「死刑を執行しない」という政策を大統領自身が明確に宣言したことは、司法制度だけでなく、警察・軍・治安機関を含めた国家権力全体のあり方を再構築する改革の一部だった。

もっとも、ここで重要な限界が存在した。モラトリアムは死刑の「執行」を停止する措置であって、死刑という刑罰そのものを法体系から消滅させたわけではなかった。

「死刑執行停止」と「死刑廃止」の間に残された問題

ガンビアでは2018年以降、死刑の執行は停止される方向に進んだものの、憲法や刑事法体系には死刑を認める規定が残った。国連自由権規約委員会は、2018年時点でガンビア憲法に死刑の根拠が残っていることを問題視し、法律および憲法から死刑を完全に削除するよう求めていた。

この構造は、死刑制度の「復活リスク」を考えるうえで極めて重要である。大統領がモラトリアムを宣言していても、法律そのものが死刑を認めているなら、将来の政権が政策を変更した場合に、死刑執行再開への法的障壁が比較的小さく残るからである。

したがって、2018年から2024年ごろまでのガンビアは、実態としては「死刑を執行しない国」に近づいていた一方、法制度上は「死刑廃止国」にはなっていなかった。ここに、ガンビアの死刑制度をめぐる最大の構造的矛盾が存在した。

さらに、死刑廃止をめぐる憲法改革そのものが、ガンビアの民主化プロセスの難しさと結び付いていた。ジャメ政権時代に制定された1997年憲法を抜本的に改め、新しい民主的統治の枠組みを構築することが求められていたが、憲法改正は政治勢力間の利害対立によって容易には進まなかった。

ジャメ政権の人権侵害と死刑廃止論

バロウ政権の死刑廃止政策を理解するためには、ジャメ政権下での人権侵害を検証する必要がある。ガンビア政府自身が国連に提出した資料でも、2017年以前のジャメ政権期について、殺害、強制失踪、拷問などを含む重大な人権問題が存在したことが記録されている。

その象徴的な事件が2012年の死刑執行だった。27年間にわたる死刑執行停止の後、9人の死刑囚が処刑されたことは、死刑制度が単なる刑事政策ではなく、政治権力の強さを象徴する制度になり得ることを示した。

さらに問題なのは、ジャメ政権下で司法・治安機関に対する政治的影響力が強かったとされる点である。死刑のような不可逆的刑罰は、公正な裁判や適正手続きが十分に保障されなければ、政治的迫害や誤判の被害を永久に回復できなくする。

このため、ジャメ政権の崩壊後に進められた死刑廃止論は、単純な刑罰論ではなく、「国家が再び強権化した場合に生命刑を政治的に利用できないようにする」という制度的安全装置としての意味を持つようになった。

真実・和解・賠償委員会と死刑制度の位置づけ

バロウ政権下では、ジャメ時代の人権侵害を検証するため、真実・和解・賠償委員会(TRRC)が設置された。このプロセスは、過去の国家暴力を明らかにし、被害者への救済と加害者の責任を問うという「移行期正義」の一環だった。

ここでも死刑制度は重要な意味を持つ。過去の人権侵害を検証する一方で、国家が刑罰として生命を奪うことを維持するならば、ジャメ政権との制度的断絶が不完全になるという考え方が生まれたからである。

もっとも、死刑廃止には別の側面もあった。ジャメ政権下で重大な犯罪を行った人物に対して、被害者や遺族から厳罰を求める声が出る場合、死刑廃止は「犯罪者に対する十分な責任追及が行われない」と受け止められる可能性もある。

ここに、死刑廃止政策が抱える政治的ジレンマがある。国家による過去の人権侵害を防止するためには死刑廃止が合理的である一方、深刻な犯罪の被害者側から見ると、死刑を廃止することが正義の後退と感じられる場合があるためである。

国際人権体制への接近

2017年以降のガンビアでは、死刑問題だけでなく、人権条約や国際司法制度との関係も大きく変化した。バロウ政権はジャメ時代に悪化した国際人権機関との関係を修復し、国際刑事裁判所(ICC)との関係を再構築するなど、国際的な人権規範へ復帰する姿勢を示した。アムネスティも2017年時点で、ICCへの関与を含むこうした政策転換を重要な前進として評価していた。

死刑廃止は、この国際的な方向転換の中核に位置した。ガンビアは自由権規約第二選択議定書への加入によって、死刑廃止という国際的コミットメントを明確化したため、国内政治上の単なる政策変更よりも強い拘束力を持つ枠組みに入ったのである。

その結果、将来の政権が死刑執行を再開しようとすれば、単に国内世論だけを考慮すればよいわけではなく、国際条約上の義務との整合性も問われることになる。この点は、後述する「国際公約と国内政治の板挟み」を考えるうえで非常に重要である。

2025年の刑法改革――「部分的廃止」への大きな前進

ガンビアの死刑制度は2025年にさらに大きな転換を迎えた。2025年3月28日に成立した「Criminal Offences Act, 2025(2025年犯罪法)」と「Criminal Procedure Act, 2025(2025年刑事訴訟法)」によって、殺人、反逆罪などについて死刑を科す仕組みが廃止され、これらの犯罪については拘禁刑を中心とする刑罰体系へ移行した。アムネスティ・インターナショナルは、この立法を2025年のガンビアにおける死刑廃止に向けた重要な進展として記録している。

これは2018年のモラトリアムとは性質が異なる。モラトリアムが「死刑は法律上存在するが執行しない」という政策だったのに対し、2025年の刑法改革は、少なくとも一般刑法上の主要犯罪について「死刑そのものを刑罰体系から取り除く」という法的改革だったからである。

この意味で、ガンビアは2025年に事実上の死刑廃止へ大きく踏み込んだと評価できる。ただし、それをもって「完全廃止」と判断することにはなお問題が残る。

なぜ2025年の改革だけでは完全廃止にならないのか

最大の問題は、死刑がすべての法令から消えたわけではないことである。アムネスティによれば、2025年の刑法改革後も、軍隊法(Armed Forces Act)や反テロ法(Anti-Terrorism Act)など複数の法律には死刑規定が残されている。

つまり、一般刑法については死刑廃止に近づいたものの、国家安全保障や軍事、テロリズムなどの分野では死刑が残るという法制度上の例外が存在する。このような例外は、テロ事件や軍事クーデターなど国家の安全を脅かす重大事件が発生した際に、死刑復活論を政治的に正当化する根拠として利用される可能性がある。

さらに、死刑を完全に法体系から排除するためには憲法上の問題を解決する必要があった。ところが、この憲法改革が2025年に大きくつまずくことになる。

新憲法案の否決と「完全廃止」への停滞

2025年7月7日、ガンビア国会は「Constitution (Promulgation) Bill 2024(2024年憲法発布法案)」を第二読会で否決した。International IDEA(国際民主主義・選挙支援国際機関)によると、賛成35票、反対21票となり、法案を前進させるために必要だった4分の3の賛成を確保できなかった。

この新憲法案は、1997年憲法を置き換え、任期制限などを含む新たな政治制度を構築することを目指していた。また、死刑を認める規定を含まない内容だったため、成立すれば憲法レベルでの死刑廃止に向けて大きく前進する可能性があった。

しかし、国会での否決によって1997年憲法が引き続き存続することになった。International IDEA(国際民主主義・選挙支援国際機関)は、この否決が憲法改革を停滞させ、旧憲法の下に存在する制度上の問題を残す結果になったと分析している。

ここで重要なのは、死刑廃止の問題が単独の刑事政策ではなく、ガンビアの民主化そのものと結び付いていることである。司法の独立、議会の権限、大統領権限、治安機関の統制、過去の人権侵害への責任追及などを一体として改革しなければ、死刑制度だけを完全に不可逆化することは難しい。

「脱・死刑」は成功したのか

2017年から2025年までの流れを整理すると、ガンビアは明らかに死刑廃止の方向へ進んだ。2017年の政権交代、同年の死刑廃止に向けた国際的コミットメント、2018年の執行モラトリアム、自由権規約第二選択議定書への加入、そして2025年の一般刑法における死刑撤廃という流れは、制度史上の大きな転換である。

しかし、2026年9月時点で「問題は解決した」と結論づけるのは早計である。アムネスティは現在もガンビアを法的には死刑存置国として分類しており、2025年には死刑判決も記録されているうえ、軍事法や反テロ法などに死刑規定が残っていると指摘している。

このことから、現在のガンビアは「死刑制度を維持する国」から「死刑制度をほぼ廃止した国」へ移行する途中にあると表現するのが最も正確である。法制度の大部分は廃止方向へ進んだものの、憲法と一部特別法に残る死刑規定、そして国内政治の変動が、完全廃止への最後の障壁となっている。

そして、この「最後の障壁」こそが、今回のテーマである「政治情勢や世論による揺り戻しのリスク」と直接結び付く。国際条約への加入や刑法改正によって死刑復活のハードルは高くなったが、治安悪化や重大犯罪、政治的不安定化が発生した場合、国民の一部から「死刑を復活させるべきだ」という要求が強まる可能性は残されている。

2017年以降のガンビアは、ジャメ時代の強権政治から決別する象徴として、死刑制度の縮小・廃止を進めてきた。2018年のモラトリアムと国際条約への加入によって「執行しない国家」への転換が進み、2025年の刑法改革によって一般刑法上の死刑は大幅に撤廃された。

一方で、2025年の新憲法案否決によって、死刑を憲法レベルで完全に排除する改革は停滞した。さらに軍事法や反テロ法などに死刑規定が残っているため、ガンビアは「完全廃止」ではなく、「廃止への大きな転換を遂げたが、法的・政治的な例外を残す国」と位置づけるべきである。

この状態は、一見すると死刑廃止がほぼ完成したように見える。しかし、次に問題となるのは、制度そのものを廃止する動きが、国民の安全保障意識や犯罪への恐怖とどこまで両立できるのかという点である。

世論の動向と「揺り戻し」を生む構造的リスク

ガンビアの死刑制度をめぐる最大の特徴は、政府が死刑廃止へ向かう一方で、国民の多数が必ずしもその方向を支持しているわけではない点にある。2024年に実施されたアフロバロメーター(Afrobarometer)の調査では、「殺人のような最も重大な犯罪に対して死刑は公正な刑罰である」と回答した人が80%に達し、「いかなる犯罪についても死刑は正当化できない」と答えた人は18%にとどまった。

この数字は極めて重要である。ガンビア政府が死刑廃止を進めるうえで、単に法律を改正するだけではなく、「なぜ死刑を廃止するのか」を国民に説明し、生命刑に代わる刑罰によって社会の安全と被害者の権利をどのように保障するのかを示す必要があることを意味する。

さらに注目すべきなのは、この死刑支持が特定の社会階層だけに限定されていないことである。アフロバロメーター(Afrobarometer)の調査では、男性81%、女性79%、農村部82%、都市部78%が死刑を重大犯罪への公正な刑罰として支持しており、年齢、居住地域、教育水準などをまたいで比較的高い支持が確認されている。

したがって、ガンビアにおける死刑廃止論は、単純な「政府対国民」という構図でもない。むしろ政治指導者や人権団体が死刑廃止を国際人権規範や過去の独裁政治との決別として捉える一方、一般市民の相当部分は死刑を重大犯罪に対する正当な刑罰として捉えているという、価値観のずれが存在している。

このずれが政治的に問題となるのは、治安情勢が悪化したと認識された場合である。殺人、強盗、暴力犯罪などが社会的に注目されれば、「死刑を廃止したから犯罪が増えた」という因果関係が実証されていなくても、政治的な言説として利用される可能性がある。

2026年には、実際にその兆候が現れている。国会議員のアルマメ・ギッバは、殺人や暴力犯罪への対応をめぐる国会討議の中で、犯罪抑止のために死刑を復活させるべきだと主張した。

これは単なる個人的な発言として片付けることはできない。死刑復活論が国民の治安不安と結び付いて国会という正式な政治空間に持ち込まれたことで、死刑制度が再び政策争点として可視化されたからである。

世論の分断と治安悪化への不安

死刑支持の背景には、犯罪に対する恐怖だけではなく、司法制度そのものに対する不信があると考えられる。アフロバロメーター(Afrobarometer)の2024年調査では、裁判所を「ある程度」または「非常に」信頼すると回答した人は46%にとどまり、43%は裁判官や治安判事の「大半またはほぼ全員」が腐敗していると認識していた。

さらに56%は、人々が法律の下で不平等に扱われることが「しばしば」または「常に」あると回答し、59%は法律に違反した公職者が処罰されないことが多いと考えていた。48%は、裁判官や治安判事が法律ではなく有力者の影響を受けて判決を下すことが「しばしば」または「常に」あると回答している。

この結果は一見すると死刑支持とは矛盾するように見える。しかし実際には、両者は同時に存在し得る。司法制度を十分に信頼できない市民ほど、重大犯罪に対して「最も厳しい刑罰」を求めることがあり、死刑支持が必ずしも司法制度への信頼の高さを意味するわけではないからである。

むしろ、「犯罪者が適切に処罰されていない」という認識が強まれば、死刑を象徴的な「究極の制裁」として求める政治的圧力が強くなる可能性がある。ここには、司法制度への不信が死刑復活論を補強するという逆説的な構造が存在する。

治安に対する不安も無視できない。2022年に実施されたアフロバロメーター(Afrobarometer)調査では、53%の市民が調査前年の1年間に近隣を歩く際に少なくとも一度は安全を感じなかったと回答し、42%が自宅で犯罪被害を恐れたと回答していた。2018年と比較して安全への不安が悪化していたことも報告されている。

もっとも、ここでは「犯罪が実際に増加していること」と「市民が犯罪増加を感じていること」を区別しなければならない。2026年7月にガンビア国内で死刑復活を求める議論が強まった際にも、警察長官は2026年第1四半期の全体的な犯罪率が前年同期比7.29%低下したと説明しており、少なくとも治安統計だけから「犯罪が一方的に悪化している」と断定することはできない。

それでも、殺人事件など個別の重大事件は社会心理に与える影響が大きい。特に人口約260万人規模の小国で重大事件が繰り返し報道されれば、統計上の犯罪率とは別に「社会が危険になっている」という認識が広がり、刑罰の厳格化を求める政治的圧力が強まる可能性がある。

2026年7月には、ガンビアの国会議員ギビ・ムバロウが、相次ぐ殺人事件を背景に死刑モラトリアムについて国民的議論を行う必要があると主張した。報道によれば、殺人事件をめぐる国民の懸念が死刑執行停止政策の再検討要求につながっており、死刑問題が再び治安政策と結び付いている。

この動きから考えると、今後の「揺り戻し」は、必ずしも直ちに死刑執行の再開という形で現れるとは限らない。まずは「死刑モラトリアムの解除を検討すべきだ」「重大犯罪だけは死刑を残すべきだ」「テロや国家反逆などについて死刑を認めるべきだ」といった例外論から始まる可能性が高い。

国会(ナショナル・アセンブリー)における議論の紛糾

ガンビアの死刑問題を左右するもう一つの重要な舞台が国会である。国民世論が直接法律を変更するわけではなく、最終的には議員が法改正や憲法改正を承認する必要があるため、議会内の政治力学は死刑制度の将来を決定する重要な要素となる。

2026年6月、殺人や暴力犯罪の増加をめぐる国会討議の中で、ギッバ議員が死刑復活を主張したことはその象徴である。彼は死刑を犯罪抑止策として位置づけ、「殺人を犯した者には死刑」という極めて厳格な刑罰政策を求めた。

これに対して、死刑復活に反対する立場も存在する。ジャーナリストのアルハジ・ヨロ・ジャロウは、ジャメ政権が死刑を復活させたにもかかわらず殺人が減少したとはいえず、死刑は犯罪抑止策として有効ではないと主張した。

また、ガンビア出身の研究者バ・サンバ・ンジョル・ドランメ氏も、2026年7月に死刑復活論へ反論し、死刑が殺人を抑止するという十分な根拠はなく、誤判の危険もあるため、現在の法制度の下では終身刑が重大犯罪への適切な刑罰だと主張している。

つまり、国会や社会における議論は、「死刑賛成派」と「死刑反対派」が単純に対立しているというより、「治安をどう守るか」という共通の問題に対して、死刑を解決策とみなすか、司法改革・警察改革・終身刑などを解決策とみなすかという政策論争になっている。

この点は非常に重要である。死刑復活論が勢力を伸ばすかどうかは、死刑そのものへの賛否だけではなく、政府が殺人や暴力犯罪に対して実効的な代替策を提示できるかどうかに左右されるからである。

憲法改正プロセスの頓挫

死刑制度の将来を考えるうえで、2025年7月の憲法改正案否決は極めて大きな意味を持つ。国会は2025年7月7日、1997年憲法を置き換える「Constitution (Promulgation) Bill 2024(2024年憲法発布法案)」を第二読会で否決し、賛成35、反対21という結果となった。必要だった4分の3の賛成を得られなかったため、法案は次の段階へ進まなかった。

この新憲法案は、死刑を認める規定を含まない内容だった。したがって成立していれば、一般刑法の改正と合わせて死刑廃止を憲法レベルでより明確に位置づける可能性があったが、否決によって1997年憲法が引き続き存続することになった。

もっとも、憲法案が否決された理由を「死刑廃止への反対」と単純化することはできない。International IDEA(国際民主主義・選挙支援国際機関)や憲法専門家の分析では、大統領の任期制限、権力分立、抑制と均衡、法案作成過程への市民社会・政治勢力の参加など、複数の政治的・制度的問題が対立の背景にあったとされている。

それでも結果として、死刑廃止をより強固に制度化する機会が失われたことは否定できない。アムネスティ・インターナショナルも、2025年の新憲法案否決によって完全な死刑廃止への進展が停滞し、軍法や反テロ法などに死刑規定が残る状況が続いたと評価している。

ここから導かれる重要な問題は、「法改正によって死刑を減らしても、政治制度そのものが安定しなければ、廃止を不可逆的なものにすることは難しい」ということである。ガンビアでは死刑問題が、司法制度改革、憲法改革、民主化、治安政策、過去の独裁体制との決別という複数の問題と複雑に結び付いている。

「80%の死刑支持」をどう評価するべきか

アフロバロメーター(Afrobarometer)による80%という数字は、ガンビアの死刑問題を考えるうえで最も重要なデータの一つである。しかし、この数字をそのまま「ガンビア国民の80%が死刑復活を要求している」と解釈するのは適切ではない。

調査で尋ねられたのは、「殺人など最も重大な犯罪に対して死刑は公正な刑罰か」という価値判断である。これは、現行制度として死刑を復活させることへの賛否や、実際の死刑執行を支持するかどうかとは厳密には異なる。

それでも、80%という圧倒的な数値は無視できない。少なくとも、重大犯罪に対する刑罰として死刑を正当と考える社会的基盤が非常に広いことを示しており、将来の政治家が治安不安を利用して死刑復活を訴える際の重要な背景になる。

さらに、この数字はガンビアの民主化が抱える一つの難題を浮き彫りにする。国際人権条約に基づく死刑廃止という政策が、必ずしも国民多数の刑罰観と一致していないからである。

これは死刑廃止そのものが民主主義に反するという意味ではない。生命権や拷問禁止など、国家が多数派の意思だけで制限できない基本的人権が存在する以上、人権保障と多数決原理には一定の緊張関係が生じる。

しかし、民主化を進めるガンビアにとって、この問題は極めてデリケートである。ジャメ政権から民主政治へ移行した国家において、国民の多数が望む刑罰政策と国際人権規範が異なる場合、政府がどこまで国際的な約束を優先し、どのように国民の理解を得るのかが問われるからである。

「揺り戻し」の本質

以上を総合すると、ガンビアにおける死刑制度の揺り戻しは、単純な「死刑復活」ではなく、いくつかの段階を経て進む可能性がある。第一段階は、重大犯罪の増加や治安不安を背景に、死刑の有効性をめぐる議論が再燃することである。

第二段階では、国会議員や政治指導者が、殺人やテロなど特定犯罪について死刑を認める例外規定を主張する可能性がある。第三段階になると、憲法改正や特別法改正を通じて、現在残っている死刑規定を維持・拡大する政治的動きにつながる可能性がある。

もっとも、現在のガンビアには、この揺り戻しを抑制する制度的要素も存在する。自由権規約第二選択議定書への加入、2018年以降のモラトリアム、2025年の刑法改正などは、死刑復活への政治的・法的コストを高めている。

したがって、2026年9月時点で「ガンビアが死刑復活へ向かっている」と断定するのは早い。より正確には、制度面では死刑廃止が進んでいる一方、世論と治安不安の面では死刑復活を支持する土壌が強く残っており、その二つの方向性が同時に存在していると評価すべきである。

ガンビアの死刑制度をめぐる最大のリスクは、政府の廃止方針そのものではなく、それと国民の刑罰観との間に存在する大きなギャップである。2024年のアフロバロメーター(Afrobarometer)調査では約80%が重大犯罪への死刑を公正な刑罰と認識しており、司法への不信や治安不安も相まって、政治家が死刑復活を主張する余地は決して小さくない。

2025年の憲法改正案否決は、こうした問題をさらに複雑にした。新憲法案の否決自体は死刑問題だけが原因ではないものの、結果として完全な死刑廃止を制度的に固定する機会が失われ、1997年憲法と一部特別法に残る死刑規定が引き続き存在している。

そして2026年には、殺人事件への社会的不安を背景に、国会議員から死刑復活を求める発言が実際に出ている。これは、ガンビアの「脱・死刑」がまだ不可逆的な段階には到達しておらず、治安悪化、世論の変化、政治勢力の交代という三つの条件が重なれば、制度の揺り戻しが発生し得ることを示している。

ガンビアにおける死刑制度の総合的分析

2026年9月時点のガンビアを総合的に評価すると、同国は死刑制度をめぐる「廃止への不可逆的転換」の途中にあると考えるのが最も適切である。2025年3月の刑法改革によって殺人、反逆罪などに対する死刑が廃止されたことは、制度史上きわめて大きな前進であり、アムネスティ・インターナショナルも同年の重要な死刑廃止措置として評価している。

しかし、これは完全な死刑廃止とは異なる。アムネスティによれば、軍隊法や反テロ法などにはなお死刑規定が残されており、さらに1997年憲法も死刑を完全に排除する内容にはなっていないため、法体系全体から死刑が消滅したとはいえない。

この「部分的廃止」という状態には、二つの意味がある。一つは、一般犯罪について死刑を復活させることが以前より困難になったことであり、もう一つは、国家安全保障や軍事、テロなどの重大事案を契機として、残存する死刑規定を政治的に強調する余地が残っていることである。

特に後者は、ガンビアのように過去に軍事クーデターと長期独裁を経験した国では重要である。国家安全保障を理由とした強権的な政策は、治安危機が発生した場合に国民から一定の支持を得やすく、死刑も「国家を守るための例外的手段」として再び正当化される可能性がある。

一方で、ガンビアには死刑復活を抑制する強力な国際法上の要素も存在する。ガンビアは2017年9月に自由権規約第二選択議定書に署名し、2018年9月28日に批准しており、同議定書は死刑廃止を目的とする国際的な義務を伴う。

したがって、現在のガンビアの問題は「死刑を廃止するかどうか」だけではない。より本質的には、国際的な人権公約、国内法、憲法、国会、世論、治安政策をどのように整合させ、死刑廃止を政治的に持続可能な制度へ転換するかという問題である。

国際公約と国内政治の板挟み

バロウ政権が死刑廃止を進めた背景には、ジャメ政権時代の人権侵害から決別するという強い政治的意味があった。2018年の死刑執行モラトリアム、死刑囚への減刑、国際人権条約への加入などは、ガンビアが過去の強権政治から人権重視の民主国家へ移行することを象徴する政策だった。

特に自由権規約第二選択議定書への加入は、国内政策としてのモラトリアムとは性格が異なる。政権が変わったから死刑を再開するという単純な政策変更では済まなくなり、国際法上の義務との整合性が問題になるからである。国連人権高等弁務官事務所の条約データでも、ガンビアの批准日は2018年9月28日、発効日は2018年12月28日と確認できる。

したがって、仮に将来のガンビア政府が死刑復活を主張した場合、それは国内政治上の政策変更にとどまらない。国際人権条約との関係、外交的信用、地域機構との関係、さらには民主化後に積み重ねてきた人権改革そのものの評価に影響する可能性がある。

しかし、国内政治には別の論理が働く。政府は国民の生命と安全を守る責任を負っており、重大犯罪が相次いだ際に「政府は何をしているのか」という批判が強まれば、死刑廃止という国際的な公約よりも治安対策を優先するよう求められる可能性がある。

この構造が「板挟み」の本質である。政府が国際公約を優先すれば国内世論から「犯罪者に甘い」と批判される可能性があり、逆に世論に合わせて死刑復活へ動けば、国際的な人権公約との矛盾が生じる。

治安問題と死刑復活論の関係

2026年に入り、こうした矛盾が具体的な政治問題として表面化した。ガンビア国内では殺人事件などへの懸念を背景に、国会議員ギビ・ムバロウが死刑執行モラトリアムについて国民的議論を行う必要があると主張しており、死刑問題が再び治安政策と結び付いている。

ただし、ここでは犯罪件数と犯罪への社会的恐怖を区別する必要がある。2026年7月のガンビア国内報道では、警察長官が2026年第1四半期の全体的な犯罪率は前年同期比7.29%減少したと説明しており、「ガンビア全体の犯罪が一貫して急増している」という単純な説明には根拠上の問題がある。

一方、殺人などの重大犯罪は、総犯罪件数とは異なる政治的インパクトを持つ。人口規模の小さいガンビアでは、数件の重大事件であってもメディアやSNSを通じて社会全体に強い不安を与える可能性があり、その結果として厳罰化を求める声が急速に強まることが考えられる。

ここで死刑は、犯罪抑止策という実証的な問題だけでなく、「政府が犯罪に対して断固とした姿勢を示している」という政治的シンボルとして利用される可能性がある。したがって、死刑復活論が強まるかどうかは、実際の犯罪率だけではなく、重大事件の報道、SNS上の世論、政治家の発言、政府の危機対応能力などによって左右される。

死刑は本当に犯罪抑止策なのか

死刑復活論を評価するうえでは、死刑が殺人などを減少させるという主張を実証的に検討する必要がある。ガンビア国内でも、死刑復活を求める議論に対して、死刑執行が犯罪抑止につながるという十分な根拠はないとの反論が出ている。

この点から見ると、ガンビアの政策課題は死刑の有無だけではない。警察の捜査能力、犯罪捜査の迅速化、裁判所の処理能力、刑務所制度、司法への信頼などを改善しなければ、死刑を導入しても治安問題そのものが解決する保証はない。

むしろ司法制度への不信が強い国で死刑を導入する場合、誤判という別の問題が重大になる。死刑は生命を奪う不可逆的な刑罰であるため、捜査や裁判に問題があった場合、後から判決を訂正しても被害を回復できない。

この観点から、死刑廃止を支持する側は「犯罪者を処罰しない」という立場ではない。終身刑などの代替刑を含め、国家が重大犯罪に対して十分な刑罰を科しながら、誤判による生命の喪失というリスクを排除することが重要だと主張している。

憲法改正の頓挫が意味するもの

2025年7月7日の新憲法案否決は、ガンビアの死刑問題を長期的に考えるうえで極めて重要である。International IDEA(国際民主主義・選挙支援国際機関)によると、国会では賛成35票、反対21票となり、成立に必要な4分の3の支持を得られなかったため、1997年憲法が引き続き効力を持つことになった。

新憲法案は大統領の任期制限など広範な制度改革を含んでおり、否決の原因を死刑問題だけに求めることはできない。実際には、権力分立、政治制度、法案作成過程などをめぐる幅広い対立が背景にあった。

しかし、結果として死刑廃止を憲法レベルで明確化する機会も失われた。アムネスティは、2025年の新憲法案否決によって完全な死刑廃止への進展が停滞し、軍隊法や反テロ法などに残る死刑規定が問題として残ったと評価している。

これは制度設計上の重要な問題である。通常法だけで死刑を廃止しても、憲法や特別法に死刑が残っていれば、将来の政治情勢によって例外規定が拡大される余地を完全には排除できないからである。

将来の展望

ガンビアの今後を考える場合、少なくとも三つのシナリオを想定する必要がある。第一は、現在の廃止路線を維持し、残存する死刑規定を段階的に削除して完全廃止へ進むシナリオである。

このシナリオでは、2025年の刑法改革を出発点として、軍隊法や反テロ法などの死刑規定を改廃し、将来的には憲法からも死刑に関する規定を排除することになる。自由権規約第二選択議定書への加入を考えれば、制度としてはこちらが最も国際的公約と整合的な方向である。

第二は、現在の「部分的廃止」を長期間維持するシナリオである。一般刑法では死刑を廃止したまま、軍事・テロなどの特殊領域には死刑を残し、実際の執行は行わないという状態が続く可能性がある。

これは政治的には妥協しやすいが、法体系としては不安定である。治安危機が発生した場合に残存規定が政治的に利用される可能性があり、「事実上の廃止」と「法律上の存置」の間の曖昧さが長期間続くことになる。

第三は、重大犯罪の増加や政治的危機を契機として死刑復活論が強まり、特別法などを通じて死刑適用範囲が再び拡大するシナリオである。これは現時点で既定路線とはいえないが、2026年に国会議員からモラトリアムをめぐる国民的議論を求める声が出ていることを考えれば、完全に無視することもできない。

今後の展望

今後の最大の焦点は、死刑廃止を「政府の政策」から「社会に定着した制度」へ転換できるかどうかにある。政府が死刑廃止を維持するだけでは、重大事件が発生するたびに死刑復活論が再燃する可能性がある。

そのためには、犯罪捜査能力の向上、警察への信頼確保、裁判の迅速化、司法の独立、刑務所制度の改善などを同時に進める必要がある。死刑を廃止する代わりに、重大犯罪者が確実に逮捕・起訴され、適正な裁判を受け、十分な刑罰を受けるという制度を構築することが、死刑廃止への社会的支持を維持するための重要な条件になる。

また、政府は死刑廃止の理由を人権問題だけに限定せず、治安政策との関係から説明する必要がある。すなわち「死刑を廃止するが犯罪には厳しく対処する」という政策モデルを明確に示すことが、世論の揺り戻しを抑えるうえで重要となる。

国会についても同様である。死刑復活論を単純に排除するだけではなく、重大犯罪への対応策を議会で継続的に議論し、終身刑、被害者支援、捜査強化などの代替政策を具体化することが必要になる。

さらに、憲法改革の再開も重要な課題となる。2025年の憲法案否決は、ガンビアの制度改革が政治的合意を形成できなければ進まないことを示したため、今後はより幅広い政治勢力、市民社会、法律専門家などを巻き込んだ合意形成が必要になる。

まとめ

ガンビアの死刑制度は、独立後の限定的な執行、ジャメ政権下の強権的な利用、2017年以降のモラトリアム、そして2025年の一般刑法上の死刑廃止という大きな変化を経験してきた。現在は死刑廃止へ大きく前進しているものの、軍事法や反テロ法などに残る死刑規定と憲法上の問題が存在するため、完全廃止とはまだ評価できない。

最も注目すべきなのは、制度改革と世論の間に存在するギャップである。2024年のアフロバロメーター(Afrobarometer)調査で重大犯罪への死刑支持が80%に達したことは、政府が死刑廃止を進めても、重大犯罪や治安不安が発生した場合に「死刑を復活させるべきだ」という要求が再び強まる可能性を示している。

一方、2026年の治安議論を見ると、犯罪統計そのものが一方向に悪化しているわけではなく、警察側は2026年第1四半期の全体犯罪率が前年同期比7.29%減少したと説明している。このため、現在確認できる「揺り戻し」は、犯罪率の客観的急増そのものというより、殺人など重大事件に対する社会的不安が政治的に増幅され、死刑復活論につながる現象として捉えるべきである。

結論として、ガンビアにおける死刑制度の揺り戻しリスクは「高い」と単純に断定するより、「制度的には低下しているが、政治・世論面では無視できない」という二重評価が妥当である。2025年の刑法改革と国際条約によって死刑復活の法的・外交的コストは高まっている一方、重大犯罪への不安、司法への不信、国会内の復活論、憲法改革の停滞が重なることで、部分的な死刑復活を求める政治圧力が形成される可能性は残っている。

したがって、ガンビアの死刑廃止を本当に定着させるためには、死刑規定を法律から削除するだけでは不十分である。民主的統治、司法の独立、犯罪捜査能力、被害者支援、刑務所制度、治安政策を包括的に改善し、「死刑がなくても国家は重大犯罪に十分対応できる」という社会的信頼を形成することが最終的な課題となる。

最終的には、ガンビアの死刑問題は刑罰制度の問題を超え、ジャメ独裁の記憶を持つ国家が、民主化と人権保障をどこまで制度として定着させられるかを測る試金石と位置づけられる。2026年9月時点では完全廃止への道筋はなお途上にあるが、2017年以前と比較すれば、ガンビアの国家制度が死刑を当然の刑罰として扱う段階から大きく離れたこともまた事実である。


参考・引用リスト

  • Amnesty International, Death Sentences and Executions 2025 — ガンビアの2025年刑法改革、一般刑法上の死刑撤廃、軍隊法・反テロ法に残る死刑規定、新憲法案否決などを整理した主要資料。
  • Amnesty International, Death penalty in 2025 – Facts and figures — 2025年の世界の死刑制度の状況、およびガンビアを含むサブサハラ・アフリカの死刑廃止・執行状況に関する資料。
  • United Nations Human Rights Office / OHCHR, Treaty Database — ガンビアによる自由権規約第二選択議定書への署名・批准・発効に関する公式資料。
  • UN Human Rights Committee, Concluding observations on the Gambia — ガンビアの死刑制度、2012年の9人の処刑、2018年のモラトリアム、死刑規定の憲法上の問題についての国連評価。
  • International IDEA, The Global State of Democracy / The Gambia – July 2025 — 2025年7月の新憲法案否決、35対21の投票結果、憲法改革の停滞に関する分析。
  • Afrobarometer, AD951: Access to justice in The Gambia: Courts seen as untrustworthy, unfair and ineffective — 2024年調査に基づく死刑支持、司法への信頼、腐敗認識、法の下の不平等などの世論データ。
  • The Standard Newspaper (The Gambia), Fulladdu NAM Calls For National Debate On Death Penalty, 2026年7月8日 — 殺人事件を背景とした死刑モラトリアム再検討論、国会議員による国民的議論の要求に関する報道。
  • The Standard Newspaper (The Gambia), Why Should The Government Lift The Moratorium On The Death Penalty?, 2026年7月16日 — 2026年の殺人事件をめぐる死刑復活論と、警察発表による犯罪率7.29%減少との対比を示す資料。

追記:ガンビアの死刑制度は本当に「後戻りできない」のか

ここまで、ガンビアの死刑制度について、独立後の政治史、ジャメ政権下の強権政治、2017年以降の民主化、2018年の死刑執行モラトリアム、2025年の刑法改革、世論の動向、国会での死刑復活論、そして憲法改正の停滞までを確認してきた。追記ではこれらを一つの分析枠組みに統合し、2026年9月時点で「政治情勢や世論による揺り戻し」がどの程度現実的なリスクなのかを評価する。

1.ガンビアの死刑制度をどう位置づけるべきか

ガンビアの現状を最も端的に表現すれば、「死刑廃止へ大きく進んだが、完全廃止を制度的に確定させる最後の段階で停滞している国」である。2018年以降、死刑執行は停止され、2025年には一般刑法上の主要な死刑規定が撤廃されたため、ジャメ政権時代と比較すれば制度の性格は根本的に変化している。

しかし、軍隊法や反テロ法など一部の法律にはなお死刑規定が残されており、1997年憲法も死刑を完全に排除していない。したがって、「ガンビアは死刑を廃止した」と断定するより、「一般刑法上の死刑をほぼ廃止し、完全廃止へ移行している」と表現する方が2026年9月時点では正確である。

ここには重要な制度上の違いがある。死刑を「執行しない」という政治的約束は政権交代によって変更できるが、死刑そのものを法律から削除すれば復活には新たな立法措置が必要になり、さらに国際条約上の義務が加われば復活の政治的・外交的コストは一段と高くなる。

この意味で、2025年の刑法改革は単なるモラトリアムの延長ではなく、死刑制度の復活可能性を縮小する重要な制度改革だった。ただし、憲法と特別法に残された死刑規定が存在するため、その防波堤はまだ完全ではない。

2.「揺り戻し」はどのように発生するのか

死刑制度が廃止方向へ進んだ国で、制度が再び復活する場合、通常は一つの出来事だけで突然復活するわけではない。重大犯罪、テロ、政治的混乱、治安機関への不信、被害者遺族の怒りなどが重なり、「国家はもっと厳しく対応すべきだ」という社会的圧力が形成され、その中で政治家が死刑を政策的な選択肢として提示するという過程をたどる可能性がある。

ガンビアの場合、この条件の一部がすでに確認されている。2024年のアフロバロメーター(Afrobarometer)調査では、80%の回答者が殺人のような最も重大な犯罪に対して死刑を公正な刑罰と考えており、死刑支持の社会的基盤は非常に大きい。

ただし、この80%という数字を「国民の80%が死刑復活を要求している」と解釈することには注意が必要である。調査が示しているのは重大犯罪に対する刑罰としての死刑への評価であり、現行制度への復帰、死刑執行の再開、憲法改正への賛否を直接質問したものではないからである。

それでも、この数字が示す政治的意味は大きい。重大犯罪が発生した際、政治家が死刑を「国民の安全を守るための厳格な手段」として提示した場合、それを支持する潜在的な社会基盤が広範に存在することを意味するからである。

3.最大のリスクは「死刑復活」そのものではない

したがって、2026年9月時点で最も警戒すべきなのは、直ちに死刑執行が再開されることではない。むしろ、その前段階として、重大犯罪を理由に「例外的に死刑を残すべきだ」という議論が拡大することである。

例えば、殺人、テロ、国家反逆、軍事犯罪などについて「一般犯罪とは異なる」とする例外論が登場すれば、現在の部分的廃止という法体系と容易に結び付く。すでに一部の特別法に死刑規定が残っているため、新たな死刑制度をゼロから作る必要がなく、残存規定を政治的に拡張するという議論が生じる可能性もある。

この意味で、ガンビアの揺り戻しリスクは「全面的な死刑復活リスク」と「死刑の例外的存置・拡大リスク」に分けて考える必要がある。後者の方が政治的には実現しやすく、国民にも受け入れられやすい可能性がある。

さらに危険なのは、「死刑を復活させれば犯罪が減る」という単純な因果関係が、重大事件の発生時に政治的スローガンとして利用されることである。犯罪抑止効果について十分な実証的根拠がない場合でも、被害者や国民の感情を背景に「最も重い犯罪には最も重い刑罰を」という論理が強い訴求力を持つ可能性がある。

4.司法への不信が死刑支持を強めるという逆説

ガンビアの特徴としてさらに重要なのが、死刑支持と司法制度への不信が同時に存在していることである。アフロバロメーター(Afrobarometer)によると、裁判所を信頼していると答えた市民は46%にとどまり、56%は人々が法律の下で不平等に扱われることが「しばしば」または「常に」あると回答している。

これは一見すると矛盾しているように見える。しかし、司法への不信が強い社会では、犯罪者が適切に処罰されていないという感覚が生まれやすく、その反動として「もっと厳しい刑罰」を求める心理が形成されることがある。

つまり、死刑支持の高さを単純に「国民が残酷な刑罰を好んでいる」と理解するのは適切ではない。むしろ、「犯罪者が確実に処罰される」という司法制度への信頼が十分でないため、死刑という究極的な刑罰に象徴的な安心感を求める側面も考慮する必要がある。

この観点から見ると、死刑廃止を定着させるために必要なのは、死刑廃止そのものを宣伝することだけではない。警察が犯罪を捜査し、検察が適切に起訴し、裁判所が公正かつ迅速に判断し、重大犯罪者が確実に長期拘禁されるという司法の実効性を高めることが不可欠になる。

5.「死刑なしでも治安を守れる」という実績が重要

死刑廃止に対する国民の理解を得るうえで、最も強力なのは理念ではなく実績である。政府が「死刑は不要だ」と主張するだけでは、重大事件が発生した際にその主張は簡単に揺らぐ可能性がある。

逆に、死刑を執行しなくても殺人などの重大犯罪を適切に捜査し、犯人を逮捕し、公正な裁判を行い、終身刑などの重い刑罰を確実に執行できるならば、死刑の必要性そのものが弱くなる。

ここで重要なのが、2026年の犯罪統計を冷静に評価することである。ガンビア警察は2026年第1四半期の全体的な犯罪率が前年同期比7.29%低下したと説明しており、「死刑を停止しているため犯罪が増加している」と単純に結論づけることはできない。

したがって、政府が今後行うべきなのは、重大犯罪が発生した際に死刑復活論だけが注目される状況を避けることである。犯罪統計を継続的に公開し、捜査・裁判・収監の実績を透明化し、治安政策の成果を国民に説明することが重要になる。

6.2025年の憲法案否決が残した問題

2025年7月の新憲法案否決は、死刑問題をめぐる制度的な不確実性を残した。国会では35票の賛成に対して21票の反対となり、成立に必要な4分の3の支持を得られなかったため、1997年憲法が引き続き効力を持つことになった。

この否決を「死刑廃止への国会の反対」と解釈するのは正しくない。新憲法案には大統領の任期制限や権力分立など幅広い改革が含まれており、否決の背景には死刑以外にも多くの政治的対立が存在したからである。

しかし、結果として死刑廃止を憲法レベルで明確に固定する機会が失われたことは事実である。一般刑法上の死刑が撤廃されても、憲法と特別法に残る規定を完全に消滅させるには、今後もさらなる法制度改革が必要になる。

ここにガンビアの「脱・死刑」の最大の弱点がある。政策として死刑を使わない状態から、どの政権でも簡単には復活できない状態へ移行するには、通常法、特別法、憲法、国際条約という複数のレベルで改革を完成させなければならない。

7.国際公約は「防波堤」になるのか

ガンビアが2018年に自由権規約第二選択議定書に加入したことは、死刑復活に対する重要な制度的防波堤となっている。この議定書は死刑廃止を目的とする国際条約であり、ガンビアがその枠組みに参加したことは、2017年以降の人権改革を単なる国内政策から国際的な義務へと押し上げた。

したがって、将来の政権が国内世論を理由に死刑復活を試みれば、国内法だけではなく国際法上の問題にも直面する。これは死刑復活の政治的コストを高める要因になる。

ただし、国際条約だけですべての政治的揺り戻しを防げるわけではない。国内で強力な治安危機が発生し、国民の多数が死刑復活を求めるようになれば、政府が国際的批判を受けながら国内政治を優先する可能性は理論的には残される。

したがって、国際公約は「絶対的な防壁」ではなく、「復活を困難にする追加的な制度的コスト」と考えるべきである。最終的な安定性を決めるのは、国際条約と国内法、そしてそれを支える司法・政治制度が相互に機能するかどうかである。

8.ガンビアで「揺り戻し」が発生する条件

これまでの分析を踏まえると、ガンビアで死刑復活圧力が強まる条件は、おおむね五つに整理できる。

第一は、殺人など社会的衝撃の大きい重大犯罪が連続して発生することである。第二は、政府や警察が事件への対応に失敗し、「国家は国民を守れていない」という認識が広がることである。

第三は、裁判の遅延や冤罪、釈放などによって司法への不信がさらに高まることである。第四は、選挙を控えた政治家が治安問題を争点化し、死刑を「強い国家」の象徴として利用することである。

第五は、テロ、クーデター未遂、政治的暴力など、国家の安全そのものを脅かす事件が発生することである。この場合、一般犯罪への死刑復活よりも、「国家反逆やテロには死刑を適用すべきだ」という限定的な例外論が先に浮上する可能性が高い。

逆に、この五つの条件が同時に発生しなければ、全面的な死刑復活が短期間で実現する可能性はそれほど高くないと考えられる。現在のガンビアには、刑法改革、国際条約、モラトリアムという複数の廃止方向の制度が存在するためである。

9.今後の政策課題

ガンビア政府にとって最優先されるべきなのは、残存する死刑規定を段階的に撤廃することである。軍隊法や反テロ法などに残る死刑規定を放置すれば、重大な国家安全保障事件が発生した際に、死刑復活論の制度的根拠として利用される可能性がある。

第二に、憲法改革を再び政治課題として取り上げる必要がある。2025年の新憲法案が否決されたことを踏まえれば、政府は政治勢力間の対話を重視し、死刑だけを単独で争点化するのではなく、司法の独立、権力分立、大統領権限などを含めた包括的な制度改革として再構築する必要がある。

第三に、司法制度への信頼を高めなければならない。アフロバロメーター(Afrobarometer)が示した司法への不信は、死刑問題だけではなく、ガンビアの法の支配そのものに関わる問題である。

第四に、被害者・遺族への支援を強化する必要がある。死刑復活論が強まる背景には、「犯罪被害者が十分に救済されていない」という感情が存在する可能性があるため、被害者への経済的・心理的・法的支援を充実させることは、死刑廃止政策の社会的基盤を強化する。

10.最終評価――揺り戻しのリスクはどの程度か

2026年9月時点での総合評価として、ガンビアの死刑制度における「全面的な死刑復活リスク」は現時点では限定的だが、無視できないと評価するのが妥当である。2018年以降のモラトリアム、自由権規約第二選択議定書への加入、2025年の刑法改革によって、死刑復活の制度的コストはジャメ政権時代より大幅に高くなっている。

しかし、「部分的な死刑存置・拡大リスク」はそれより高いと考えるべきである。2024年の調査で重大犯罪への死刑支持が80%に達していること、2025年の憲法改正が頓挫したこと、2026年に国会議員から死刑モラトリアムの再検討を求める声が実際に出ていることを合わせれば、治安危機を契機として死刑復活論が政治争点化する可能性は明確に存在する。

したがって、現在のガンビアを「死刑廃止が完全に定着した国」と評価するのは時期尚早である。むしろ、「制度面では死刑廃止へ進んでいるが、社会的・政治的には死刑存置を支持する圧力がなお強く、完全廃止を不可逆的なものにするには追加的な制度改革が必要な国」と評価するのが最も適切である。

11.結論

ガンビアの死刑制度の歴史は、刑罰政策の歴史であると同時に、国家権力のあり方をめぐる歴史でもある。ジャワラ期には限定的に運用されていた死刑が、ジャメ政権下では強権的統治と結び付くようになり、2017年以降はその反省から人権保障と民主化を象徴する政策として廃止方向へ転換した。

2025年の刑法改革は、その歴史的転換をさらに前進させた。だが、軍事法・反テロ法などに残る死刑規定、1997年憲法、新憲法案の否決、そして死刑支持率の高さという要素が残されているため、ガンビアはまだ「死刑制度を完全に克服した」とはいえない。

特に重要なのは、死刑復活論が「独裁政治への回帰」という形ではなく、「犯罪から市民を守るための政策」という形で再登場する可能性である。これは民主国家における死刑問題の典型的な難しさであり、政府が人権を守りながら治安を確保できるかどうかが、死刑廃止の持続性を左右する。

したがって、ガンビアにとって死刑廃止を本当に定着させるための最大の課題は、「死刑を禁止すること」そのものではない。死刑がなくても重大犯罪に対して国家が十分な責任を果たせるという実績を積み上げることこそが重要である。

最終的に、ガンビアの死刑制度をめぐる「揺り戻しのリスク」は、政治・法律・世論・治安という四つの要素の交点に存在する。国際条約と刑法改革は廃止方向への強い力として作用する一方、重大犯罪への恐怖、司法不信、政治的競争、憲法改革の停滞は逆方向の力として作用している。

このため、今後のガンビアでは、死刑廃止を単独の人権政策として扱うのではなく、民主化の定着、司法改革、治安政策、被害者救済、法の支配の強化を一体化した国家制度改革として進めることが必要になる。それが実現すれば、死刑支持の強い世論が存在していても、死刑制度そのものを復活させる政治的必要性は徐々に低下する。

反対に、重大犯罪への対応が失敗し、司法への不信が拡大し、政治家が治安不安を選挙上の争点として利用する状況が重なれば、死刑復活論は再び勢力を増す可能性がある。したがって、2026年9月時点のガンビアは「死刑廃止の成功例」と断定する段階ではなく、死刑廃止を民主化の制度として定着させられるかどうかを試されている段階にあると結論づけることができる。


参考・引用リスト

国際機関・人権機関

Amnesty International
Death Sentences and Executions 2025。2025年のガンビアにおける刑法改革、死刑判決、軍隊法・反テロ法などに残る死刑規定、新憲法案否決などを確認するための主要資料。

Amnesty International
Death penalty in 2025 – Facts and figures。2025年の世界各国における死刑判決・死刑執行・死刑廃止の状況を比較するための資料。

United Nations Human Rights Office / OHCHR
自由権規約第二選択議定書に関する条約データ。ガンビアの署名・批准・発効状況を確認するための公式資料。

UN Human Rights Committee
ガンビアの人権状況に関する総括所見。2012年の死刑執行、2018年のモラトリアム、死刑制度の法的問題などを検証する際の基礎資料。

世論・社会調査

Afrobarometer
AD951: Access to justice in The Gambia: Courts seen as untrustworthy, unfair and ineffective。2024年調査を基礎として、重大犯罪に対する死刑支持、裁判所への信頼、司法腐敗への認識、法の下での不平等などを分析するための主要資料。

民主主義・憲法改革

International IDEA
The Global State of Democracy / The Gambia – July 2025。2025年7月の新憲法案否決、国会における35対21の投票結果、憲法改革停滞の背景を確認するための資料。

ガンビア国内メディア

The Standard Newspaper (The Gambia)
2026年7月の死刑モラトリアムをめぐる議論、国会議員による国民的議論の要求、犯罪統計をめぐる議論などを確認するための資料。

The Voice Gambia
2026年の国会における死刑復活論、および死刑の犯罪抑止効果をめぐる反論を確認するための資料。

最後に

ここまでを通じて明らかになったのは、ガンビアの死刑問題が単なる「死刑存置国か廃止国か」という分類問題ではないということである。そこには、独裁体制の記憶、民主化、司法への信頼、治安不安、国民世論、国会政治、憲法改革、国際人権法という複数の要素が重なっている。

歴史的には、ジャメ政権下での2012年の死刑執行が大きな転換点となり、2017年の政権交代後にはその反動として死刑執行モラトリアムが導入された。さらに2018年の自由権規約第二選択議定書への加入、2025年の一般刑法上の死刑撤廃によって、ガンビアは制度的に「脱・死刑」を大きく前進させた。

しかし、同時に2024年のアフロバロメーター(Afrobarometer)調査では重大犯罪への死刑支持が80%に達しており、世論面では死刑廃止と逆方向の力が存在する。さらに2025年の新憲法案否決と2026年の死刑復活をめぐる政治的発言は、ガンビアの死刑廃止がまだ完全に不可逆化されていないことを示している。

したがって、最終的な評価は次のようにまとめられる。

「ガンビアは死刑廃止へ向かう歴史的転換をすでに実現している。しかし、その制度的定着はまだ完成しておらず、治安悪化、重大犯罪、司法不信、政治的動員によって、限定的な死刑復活論が再浮上する余地が残されている。今後の焦点は、死刑を復活させないことだけではなく、死刑なしでも国民の安全と被害者の正義を十分に保障できる国家制度を構築できるかどうかにある」ということになる。

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