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ドミニカ国の死刑制度:事実上の廃止国(アボリショニスト・イン・プラクティス)、知っておくべきこと

ドミニカ国の死刑制度を「アボリショニスト・イン・プラクティス」と単純に呼ぶことには問題がある。
ドミニカ国のビーチ(Getty Images)
現状(2026年8月時点)

カリブ海東部に位置するドミニカ国の死刑制度は、2026年8月現在、非常に特殊な状態にある。法律上は死刑を廃止しておらず、国際的な死刑制度の分類では「リテンショニスト(Retentionist)」、すなわち死刑存置国に分類されている一方、実際の死刑執行は1986年を最後に一度も行われていない。2026年8月18日更新の死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)のデータでも、ドミニカ国は「リテンショニスト」と明記され、現在死刑判決を受けている人物は0人、2025年の執行も0件、最後の執行は1986年、執行方法は絞首刑とされている。

つまり、ドミニカ国の制度を単純に「死刑存置国」とだけ説明すると、現実の運用実態を十分に表現できない。逆に、「死刑廃止国」あるいは「アボリショニスト・イン・プラクティス(Abolitionist in Practice)」と断定するのも、法律上の位置づけとは一致しないため注意が必要である。

現在のドミニカ国を最も正確に表現するなら、「死刑を法律上維持しているものの、約40年間にわたり執行しておらず、さらに司法判断によって従来型の義務的死刑が違憲とされたため、死刑制度が極めて限定された状態に置かれている国」とするのが妥当である。この「法制度と実際の運用の乖離」こそが、ドミニカ国の死刑問題を理解する上で最大のポイントとなる。

法律上の位置づけと対象犯罪

ドミニカ国は1978年に英国から独立したが、英国植民地期から形成されたコモンロー的な刑事司法制度と、その後制定された国内法の影響を強く残している。死刑についても完全な廃止には至らず、現在も一定の重大犯罪について死刑を予定する法律上の規定が存在する。

国際的な人権機関や死刑制度を監視する専門機関の資料では、ドミニカ国において死刑の対象となる主要犯罪として殺人と国家反逆罪が挙げられている。国連の関連資料でも、死刑を科し得る犯罪として、Offences Against the Person Act 1861(1861年対人犯罪法)に基づく殺人と、Treason Act(反逆法 / 大逆法)に基づく反逆罪が確認されている。

ただし、ここで重要なのは「法律に死刑規定が存在すること」と「裁判所が実際に死刑を宣告し、政府がそれを執行できること」は同じではないという点である。ドミニカ国では2005年の重要判決によって、殺人に対して自動的に死刑を科す従来の仕組みが憲法上許されないと判断されたため、条文が残っていても、そのまま機械的に死刑を執行することはできなくなっている。

このため、現在の制度は「法律に死刑が書かれている」という形式面だけを見れば存置制度であるが、実際の司法運用を見ると大きく制約された制度となっている。この二重構造が、「事実上の廃止」という評価が生まれる背景にある。

憲法上の根拠

ドミニカ国憲法は、国家による刑罰権を無制限に認めているわけではない。特に重要なのが、個人の生命、身体的安全、人格的尊厳に関係する基本権の保障であり、死刑制度そのものを全面的に禁止してはいないものの、刑罰の科し方について一定の憲法的制約を設けている。

この点を決定的に明らかにしたのが、2005年の英国枢密院司法委員会(Judicial Committee of the Privy Council)による「Balson v. The State(バルソン対国家事件)」判決である。事件ではBally Sheng Balson(バリー・シェン・バルソン)が1998年に殺人罪で有罪となり、当時の法律に従って裁判官から死刑を宣告されたが、その後、死刑判決そのものの憲法適合性が争われた。

枢密院は、殺人という犯罪について法律が一律に死刑を要求する仕組みを問題視した。判決の核心は、殺人事件にはそれぞれ異なる事情があり、犯人の責任の程度も同一ではない以上、裁判官が個別事情を考慮することなく自動的に死刑を科す制度は、ドミニカ国憲法が保障する権利に反するという考え方にある。

これは「ドミニカ国では死刑そのものが違憲である」と判断した判決ではない。より正確には、「殺人を理由として、個別事情を一切考慮せずに死刑を自動的に科すmandatory death penalty(義務的死刑)は違憲である」という判断である。

この区別は極めて重要である。もし死刑そのものが全面的に違憲とされたのであれば、ドミニカ国は法的にも廃止国と評価できるが、Balson判決が否定したのはあくまで「義務的に死刑を科す仕組み」であり、死刑という刑罰そのものを全面的に消滅させたわけではないからである。

そのため、2026年現在でも国際的な専門機関はドミニカ国を死刑存置国として扱っている。死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)の最新データでも、ドミニカ国はリテンショニスト(Retentionist)と分類されており、第二選択議定書など死刑廃止を目的とする国際的枠組みにも加入していない。

一方で、学術研究の観点から見ると、ドミニカ国の実態は単純な「死刑存置」とも言い切れない。2025年のオックスフォード・アカデミック(Oxford Academic)掲載論文は、ドミニカ国では2005年のバルソン判決によってMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)が違憲とされた一方、国内法から関連規定が完全には削除されていないことを指摘している。その上で、1986年以来執行がなく、Balson判決後に死刑判決を受けた者もいないという実態を考慮すれば、実務上は義務的死刑を禁止する国家実行が形成されていると評価する余地があるとしている。

したがって、ドミニカ国の死刑制度を理解する際には、「死刑を廃止した国」か「死刑を存置している国」かという二択だけでは不十分である。法律上は存置、司法上は従来型の義務的死刑を否定、実務上は1986年以来一度も執行されていないという三つの層を分けて考える必要がある。

ドミニカ国で死刑の対象となる犯罪は、現在の国際機関の資料を確認すると、基本的に殺人(murder)と国家反逆罪(treason)の二つである。アムネスティ・インターナショナルは、ドミニカ国で死刑を科すことが法律上認められている犯罪として、Offences Against the Person Act 1861(1861年対人犯罪法)に基づく殺人と、Treason Act(反逆法 / 大逆法)に基づく反逆罪を挙げている。

この点は、死刑制度の規模を評価するうえで重要である。死刑を維持している国の中には、麻薬犯罪、テロ、軍事犯罪など殺人以外の犯罪にも死刑を適用できる国が存在するが、ドミニカ国では対象犯罪が非常に限定されており、一般刑事犯罪に対する死刑の適用範囲は狭い。

もっとも、「対象犯罪が少ない」ことと「死刑制度が廃止された」ことは別問題である。ドミニカ国の場合、法律上は国家が生命を奪う刑罰をなお保持しているため、国際的な死刑制度の分類では依然として存置国として扱われている。

殺人罪

殺人については、かつてOffences Against the Person Act 1861(1861年対人犯罪法)第2条が「殺人で有罪となった者は死刑に処する」という趣旨の規定を置いていた。この規定の特徴は、殺人で有罪となった場合、裁判官が個別の事情を考慮して死刑以外の刑を選択する余地が極めて限定されていたことである。

この仕組みが大きく変化したのが、2005年のBalson v. The State(バルソン対国家事件)判決である。バルソンは1998年に殺人罪で有罪となり、当時の法律に従って死刑判決を受けたが、最終的に英国枢密院司法委員会はその死刑判決を取り消し、事件をドミニカ国の高等裁判所に差し戻した。

判決の核心は、殺人という一つの犯罪類型に属する事件であっても、犯行の状況、被告人の責任の程度、犯罪に至った経緯などには大きな違いがあるという点にあった。したがって、殺人罪で有罪となった者全員に対して自動的に死刑を科す制度は、個別事情を考慮することのできない過度に硬直した刑罰制度となる。

枢密院は、ドミニカ国憲法が保障する「拷問又は非人道的若しくは品位を傷つける刑罰その他の取扱いを受けない権利」との関係から義務的死刑を問題視した。最終的に、殺人について自動的に死刑を科す仕組みは違憲であり、裁判官は事件ごとの事情を考慮して刑罰を決定しなければならないと判断した。

したがって、2005年以降のドミニカ国について「殺人には死刑がある」とだけ説明すると不正確になる。より正確には、死刑という刑罰自体は法律上残されているものの、殺人罪に対する自動的な死刑判決は憲法上許されないという状態にある。

国家反逆罪

もう一つの死刑対象犯罪が国家反逆罪である。反逆罪は通常の殺人罪とは性質が大きく異なり、国家の存立や憲法秩序に対する重大な侵害を処罰する犯罪として位置づけられている。

ドミニカ国の反逆罪に対する死刑規定は、同国が独立以前から受け継いできた英領カリブ海地域の刑事法制とも深く関係している。アムネスティ・インターナショナルも、殺人と並んでTreason Act(反逆法 / 大逆法)上の反逆罪を死刑対象犯罪として明確に挙げている。

しかし、現実の歴史を見ると、独立後のドミニカ国で反逆罪を理由とする死刑執行が継続的に行われてきたわけではない。1986年に執行されたフレデリック・ニュートン(Frederick Newton)の事件は、反政府クーデター計画や警察本部への武装攻撃と関連する極めて特殊な事件であり、ドミニカ国の最後の死刑執行として記録されている。

この事件は、ドミニカ国の死刑制度を考える上でも象徴的である。1981年の政府転覆計画に関連して警察本部への攻撃に加わり、警察官殺害について有罪となったフレデリック・ニュートン(Frederick Newton)は、1986年8月8日に絞首刑に処された。報道によれば、これはドミニカ国にとって13年ぶりの死刑執行でもあった。

つまり、最後の執行が一般的な殺人事件ではなく、政治的・国家的危機と結びついた重大事件だったことも、現在の制度を理解する際には注目すべき点である。その後、ドミニカ国では死刑執行そのものが長期間途絶えることになった。

執行方法

ドミニカ国で法律上想定されている死刑の執行方法は絞首刑(hanging)である。死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)の2026年8月18日更新データでも、同国の死刑執行方法は絞首刑とされ、最後の執行年は1986年と記録されている。

1986年のフレデリック・ニュートン(Frederick Newton)の執行についても、当時の報道は絞首刑だったことを確認している。執行は国立刑務所で行われ、政府転覆を目的とした武装行動に関係した司令官が対象となった。

したがって、ドミニカ国の死刑制度には、電気椅子、薬物注射、銃殺など複数の執行方法を選択できる制度は確認されていない。歴史的に英国植民地法制から受け継いだ絞首刑という方式が、そのまま独立後の死刑制度にも残っていると理解することができる。

ただし、執行方法が法律上残っていることは、現在その方法によって実際に刑が執行可能であることを意味しない。ドミニカ国の場合、問題の中心は「どのように絞首刑を行うか」ではなく、そもそも現在の憲法・司法制度の下で死刑判決を確定させ、それを合法的に執行できるのかという点に移っている。

「事実上の廃止(アボリショニスト・イン・プラクティス)」とされる所以

ここから、ドミニカ国の死刑制度をめぐる最も重要な問題に入る。それは、法律上は死刑存置国であるにもかかわらず、なぜ「事実上の廃止」に近い状態と説明されることがあるのかという問題である。

第一の理由は、最後の死刑執行が1986年であることだ。2026年8月時点で最後の執行から約40年が経過しており、独立後のドミニカ国で実際に行われた死刑執行は1986年の1件だけとされている。アムネスティの資料でも、1986年の執行は1978年の独立後に行われた唯一の執行とされている。

第二の理由は、現在死刑囚が存在しないことである。死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)の2026年8月時点のデータでは、ドミニカ国の死刑囚は0人であり、2023年、2024年、2025年のいずれにも死刑執行は確認されていない。

第三の理由は、2005年のバルソン判決によって、殺人に対する従来のMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)が違憲とされたことである。これによって、殺人で有罪となったというだけで自動的に死刑に直結する制度は否定され、死刑を適用する場合にも個別事情を考慮する必要が生じた。

第四に、カリブ海地域全体で形成されてきた死刑判決に対する司法的制約も無視できない。特にPratt and Morgan判決(プラット・アンド・モルガン判決)以降、死刑囚を長期間にわたって死刑執行待ちの状態に置くこと自体が、憲法上の非人道的・品位を傷つける取扱いに該当し得るという考え方が強くなり、死刑を実際に執行するための法的余地は狭くなった。

ただし、ここで「ドミニカ国はアボリショニスト・イン・プラクティスである」と断定するのは慎重でなければならない。国際的な専門機関である死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)は、2026年8月現在もドミニカ国を明確に「リテンショニスト」と分類しているからである。

したがって、より正確な表現は「事実上の死刑執行停止国」あるいは「法律上の死刑存置と、極めて長期にわたる死刑執行停止が併存する国」である。これは単なる言葉の違いではなく、死刑廃止には法律改正や憲法改正などの正式な手続が必要なのに対し、事実上の廃止は国家が死刑を法律上保持したまま、長期間執行しないことで成立する実態的な状態だからである。

長期間の執行停止(モラトリアム)

ドミニカ国については、1986年以来、死刑執行が行われていない。この約40年という期間は、単なる一時的な執行停止と呼ぶには極めて長く、制度の実効性そのものを疑わせる規模になっている。

しかし、これを「政府が公式に死刑モラトリアムを宣言した」と単純化することもできない。死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)の資料では、ドミニカ国は国連総会の死刑執行停止決議について、2010年決議に反対票を投じ、2012年決議にも反対票を投じており、国際的な死刑モラトリアム政策を積極的に支持してきた国とはいえない。

ここに、ドミニカ国の制度が持つ大きな矛盾がある。政府としては死刑廃止を正式に宣言していないにもかかわらず、実際には約40年間執行しておらず、現在も死刑囚が存在しないという状態が続いているのである。

これは、典型的な「政治的モラトリアム」と「司法的・制度的な執行困難」が重なった状態として捉えることができる。つまり、死刑制度を法律から完全に削除する政治的決断はなされていない一方、実際に死刑を執行するためには憲法、判例、上訴手続、人権保障など複数のハードルを越えなければならない。

さらに、カリブ海諸国では死刑判決後の長期間拘禁そのものが司法上の問題となってきた。1993年の判決では、死刑判決を受けた者を5年以上にわたり執行待ちの状態に置くことが、ジャマイカ憲法上の残虐・非人道的刑罰に該当すると判断され、この原則はその後の英連邦カリブ海地域の死刑制度に大きな影響を与えた。

この原則は、ドミニカ国の死刑制度を考える場合にも重要である。なぜなら、死刑を宣告した後に何年も執行できないのであれば、国家はその死刑判決を維持し続けること自体について、憲法上・人権上の問題に直面するからである。

結果としてドミニカ国では、「死刑を法律から消すこと」と「死刑を実際に執行しないこと」の間に大きな隔たりが生まれた。この隔たりこそが、同国の死刑制度を「法律上は存置、実態上は停止」という特殊な位置に置いている。

死刑囚の不在

ドミニカ国の死刑制度を「事実上の廃止」という観点から考えるうえで、極めて重要なのが、現在、死刑囚が存在しないことである。死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)の2026年8月18日更新資料では、ドミニカ国の死刑囚は0人とされており、2025年にも死刑執行は確認されていない。

これは単に「最近、死刑執行がなかった」という事実とは意味が異なる。死刑制度が法律上残っているにもかかわらず、死刑判決を受けて執行を待つ人物すら現在存在しないということは、制度が司法実務の中でほぼ作動していないことを示す重要な指標となる。

ドミニカ国の最後の死刑執行は1986年8月8日のニュートンに対する絞首刑である。資料によって細部の表現には差があるものの、1978年の独立後に実施された死刑執行として確認されているのはこの事件であり、その後2026年8月まで約40年間、執行が途絶えている。

さらに重要なのは、2005年のバルソン判決以降、従来のような「殺人罪で有罪になれば自動的に死刑」という仕組みが否定されたことである。したがって、現在のドミニカ国では、殺人罪に関して過去のような機械的な死刑判決を出すことができず、死刑を選択する場合にも個別事情を考慮する必要がある。

この結果、法律上の死刑規定が残っているにもかかわらず、死刑囚を生み出す司法的経路そのものが極めて狭くなっている。死刑制度の「存在」を条文だけで判断することが難しいのは、このように法律、判例、実務が相互に作用しているためである。

死刑執行を不可能にしている司法・法的制約

ドミニカ国で死刑執行が約40年間行われていない理由を、一つの「政府による停止決定」だけで説明することはできない。むしろ、憲法、人権保障、判例、上訴制度、刑事司法上の手続などが重なり、実際の執行を非常に困難にしていると考えるべきである。

第一の大きな制約が、2005年の判決である。この判決によって、殺人罪に対して自動的に死刑を科すMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)は違憲とされたため、裁判所は犯罪の具体的事情や被告人の個人的事情を考慮しなければならなくなった。

これは死刑制度にとって極めて大きな意味を持つ。従来の制度では、殺人罪の有罪判決から死刑判決までが法律上ほぼ自動的につながっていたが、バルソン判決後はその連結が切断されたからである。

さらに、死刑判決が出た場合でも、被告人には上訴などの司法的救済手段が保障される。死刑という不可逆的な刑罰については、誤判を防止するための司法審査が特に重要になるため、単純な刑事事件と比較して、国家が最終的な執行に至るまでには多くの法的段階を経ることになる。

ここでカリブ海地域全体に影響を与えたのが、Pratt and Morgan v. Attorney General for Jamaica(プラットおよびモーガン対ジャマイカ司法長官事件)である。1993年の英国枢密院判決は、死刑囚を極端に長期間執行待ちの状態に置くことが、残虐・非人道的または品位を傷つける刑罰に該当し得ると判断した。

この判例の背景には、死刑そのものだけではなく、「いつ執行されるか分からない状態で何年も拘禁され続けること」自体が重大な精神的苦痛を生み出すという問題がある。死刑判決を受けた者が長期間拘禁された場合、国家が後になって死刑を執行しようとしても、その執行自体が人権上の問題となる可能性がある。

ドミニカ国においても、この地域的な司法原則は死刑制度を運用する上で重要な制約となる。つまり、死刑判決を出したとしても、長期間執行できないまま拘禁を継続すれば、別の憲法上の問題が発生する可能性があるためである。

絶対的死刑の違憲判決

ここで注意すべきなのが、「絶対的死刑」という言葉の使い方である。ドミニカ国の2005年判決は、死刑という刑罰そのものを全面的に違憲としたものではなく、Mandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)、つまり裁判官による個別の量刑判断を許さない義務的死刑制度を違憲とした判決である。

バルソン事件では、殺人罪に対する死刑が法律によって自動的に決定される仕組みが問題となった。枢密院は、犯罪者の責任の程度や犯行の事情を考慮することなく、殺人という犯罪類型だけを理由として死刑を科すことは、憲法上認められないと判断した。

この判決によって、ドミニカ国の死刑制度は「絶対的」な制度から「裁量的」な制度へと変化したと評価できる。つまり、死刑が法律上完全に消滅したのではなく、裁判官が個々の事件について量刑を判断する余地が必要とされたのである。

この点は、死刑廃止国との違いを明確にする。死刑廃止国では、裁判官がどのような事情を考慮しても死刑を選択することはできないが、ドミニカ国では死刑そのものが法体系から完全に削除されたわけではない。

したがって、「2005年に死刑が違憲になった」という表現は不正確である。正確には、「2005年に殺人に対するMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)が違憲とされた」と説明する必要がある。

「プラット&モーガン」原則の足かせ

モーガン判決は、ドミニカ国を含む英連邦カリブ海諸国の死刑制度を理解するうえで非常に重要な判例である。事件では、ジャマイカで死刑判決を受けた2人が長期間にわたって死刑執行待ちの状態に置かれたことが争われ、英国枢密院はその長期拘禁を憲法上問題のある刑罰として認定した。

モーガン原則の重要性は、「死刑判決が合法なら、いつまでも執行できる」という考え方を否定したところにある。国家には刑罰を執行する権限がある一方、死刑囚を何年も極端な不安状態に置き続けることには限界があるという考え方が示された。

この原則は、死刑制度を維持する国にとって非常に大きな制約になる。死刑を執行するのであれば、司法手続を適切に進める必要があるが、手続が長期化すれば、今度は死刑囚の拘禁期間そのものが憲法上の問題になるからである。

ドミニカ国のように1986年以来執行実績がなく、現在死刑囚も存在しない国では、この問題は直接的な「現在の死刑囚の長期拘禁」という形では現れていない。しかし、将来新たな死刑判決が出された場合、Pratt and Morganの考え方が重要な法的制約になることは否定できない。

さらに、バルソン判決とモーガン原則は、それぞれ別の問題を扱いながら、結果として同じ方向に作用する。前者は「殺人だから自動的に死刑」という制度を否定し、後者は「死刑判決を出したから長期間執行待ちにしてよい」という考え方を否定するからである。

この二つの司法的原則が組み合わさることで、ドミニカ国が死刑を法律上維持することと、実際に死刑を運用することとの間には大きな隔たりが生じる。法律上の死刑制度は残っていても、司法制度の中ではその適用と執行に多数の制約が存在するのである。

なぜ「死刑存置国」と「事実上の廃止」が同時に成立するのか

ここまでの検証から、ドミニカ国について二つの一見矛盾する評価が成立する理由が見えてくる。国際的な法的分類では、死刑を規定する法律が残っている以上「Retensionist(死刑存置国)」であり、実際の刑事司法では1986年以来執行がなく、現在の死刑囚も0人であるため、実態としては死刑制度がほぼ機能していない。

この違いは、「de jure(法律上)」と「de facto(事実上)」という二つの観点を分けると理解しやすい。de jureでは死刑存置、de factoでは長期間の執行停止という二重構造である。

国際人権法の議論でも、死刑制度の評価では法律上の廃止と実際の執行状況を区別する必要がある。アムネスティ・インターナショナルも、死刑制度について「すべての犯罪について法律上廃止した国」「通常犯罪について廃止した国」「事実上の廃止国」「存置国」といった区分を用いており、単純に「長期間執行がない=法律上の廃止」とは扱っていない。

したがって、ドミニカ国を「アボリショニスト・イン・プラクティス」と表現する場合には、国際的な正式分類として使用するのではなく、「約40年間死刑を執行していないという実態を説明する分析概念」として用いる方が適切である。

むしろドミニカ国の特徴は、死刑廃止に向けた明確な政治決断をした国というより、死刑を法律上維持しながら、司法的・政治的・人権的制約によって、その制度を実際には作動させていない国という点にある。

政治的ジレンマ

ドミニカ国の死刑制度をめぐる最大の政治的問題は、「廃止するのか、維持するのか」という単純な二択ではない。実際には、1986年以来死刑を執行していないという長期的な国家実行が存在する一方、政府は死刑そのものを法律から削除する正式な決定をしておらず、国際的にも死刑存置国としての立場を維持している。

この状態は、政治家にとって一定の合理性を持つ。死刑廃止を明確に決定すれば、重大犯罪に対して国家が持つ最も強い刑罰を放棄することになり、犯罪被害者や治安を重視する有権者から「犯罪に弱い政府」と批判される可能性があるからである。

一方、死刑を実際に執行しようとすれば、バルソン判決以降の憲法上の制約や、英連邦カリブ海地域で形成された人権判例との整合性が問題になる。さらに、死刑囚を長期間拘禁することにもモーガン原則などの司法的制約があるため、政府が死刑制度を維持しても、それを容易に実行できるわけではない。

この意味で、ドミニカ国の政策は「死刑を積極的に使う」という方向でも、「死刑を完全に廃止する」という方向でもなく、その中間に長期間とどまってきたと考えられる。死刑を法律上残すことで政治的選択肢を維持しながら、実際には執行しないという状態は、政治的には一種の現状維持戦略として機能する。

国民感情と政治的保守性

ただし、ドミニカ国の死刑存置を「国民が強く死刑を支持しているから」と単純に説明することもできない。東カリブ海諸国では、死刑制度を維持しているにもかかわらず、実際の執行が長期間行われていない国が複数存在し、死刑の存置と国民の具体的な執行要求との間には一定の距離がある。

この点を調査したThe Death Penalty Project(ザ・デス・ペナルティ・プロジェクト)の東カリブ海地域研究は興味深い。政治家、高級官僚、司法関係者、宗教指導者、市民社会関係者など100人を対象とした調査では、死刑廃止を支持した回答者が52人、存置を支持した回答者が48人だった。これは地域社会のエリート層・有識者層においても、死刑をめぐる意見がほぼ拮抗していたことを示している。

同調査が重要なのは、死刑存置の背景を「死刑への圧倒的な国民支持」だけでは説明できないことを示唆している点にある。調査では、政府が死刑を廃止しない理由として、政治家が犯罪や治安問題に対して弱腰と見られることへの懸念、世論の反発を恐れること、死刑廃止をめぐる政治的リスクなどが重要な障壁として挙げられている。

ここから見えてくるのは、死刑制度の存続が必ずしも「死刑を実際に執行したい」という政治意思と一致しないということである。政治家にとっては、死刑廃止そのものが持つ政治的コストを避けるために、法律上の制度を残しておくことにも意味がある。

つまり、死刑は実際の刑罰としてではなく、「重大犯罪に対して国家が最終的に持っている権限」の象徴として存続している側面がある。この象徴的機能が、約40年間執行されていないにもかかわらず、死刑廃止法制が進まない理由の一つとして考えられる。

国際社会からの圧力

一方、ドミニカ国を取り巻く国際環境は、明確に死刑廃止の方向へ動いている。国連総会は1989年、死刑廃止を目的とする「自由権規約第二選択議定書」を採択し、その後、多数の国が加入している。同議定書第1条は、締約国の管轄下にある者を処刑してはならず、各締約国が自国の管轄内で死刑を廃止するため必要な措置を取ることを定めている。

しかし、ドミニカ国は2026年8月時点で、この第二選択議定書の締約国ではない。国連人権高等弁務官事務所の条約データベースでも、ドミニカ国について自由権規約第二選択議定書の署名・批准・加入は記録されていない。

この点は、隣国や他のカリブ海諸国との比較でも重要である。例えばドミニカ共和国は2016年に第二選択議定書へ加入しているが、これはドミニカ国とは別の国家であるため、両国を混同してはならない。

国際社会からの圧力は、条約だけに限られない。国連のUPRでも、ドミニカ国に対して死刑の正式なモラトリアムを導入することや、死刑そのものを廃止することを求める勧告が行われてきた。

2024年に提出されたUPR関連の共同ステークホルダー報告によれば、ドミニカ国は前回のUPRで、死刑に関する正式なモラトリアムを実施する勧告と、死刑を廃止する勧告をそれぞれ受けたが、これらを実施していない。同報告は、最後の執行が1986年で、2000年以降、裁判所が死刑判決を言い渡していない一方、政府は公式な死刑廃止も正式なモラトリアムも導入していないと指摘している。

ここには、ドミニカ国の立場の特徴が非常にはっきり表れている。実際の運用では死刑を停止しているにもかかわらず、国際社会に対して「法律上も死刑を廃止した」とまでは約束していないのである。

国際的分類から見たドミニカ国

このため、アムネスティ・インターナショナルなどの国際機関による分類では、ドミニカ国を「事実上の廃止国」とだけ記述することはできない。国際的な分類では、法律上死刑を保持している国と、法律上廃止した国を区別する必要があるからである。

アムネスティ・インターナショナルは、死刑制度を「すべての犯罪について廃止」「通常犯罪について廃止」「事実上の廃止」「存置」という形で分類している。2025年末の世界の死刑制度に関する集計でも、死刑存置国は54か国とされており、ドミニカ国はその側に位置づけられている。

したがって、「ドミニカ国=アボリショニスト・イン・プラクティス」という表現は、国際機関による公式な国別分類として使うと誤解を招く。より正確なのは、「法律上は死刑存置国だが、1986年以来執行がなく、2000年以降死刑判決も確認されず、2026年時点で死刑囚もいないため、死刑制度が事実上停止している」と説明することである。

これは言葉の問題だけではない。「事実上の廃止」と「法律上の廃止」では、将来の政策変更に対する国家の自由度が大きく異なるからである。法律上の廃止国では、新たに死刑を導入するために法改正などの大きな政治的手続が必要になるが、存置国では既存法を維持したまま執行方針を変更する余地が残されている。

今後の展望

ドミニカ国の今後には、大きく三つのシナリオが考えられる。第一は、現在の状態をそのまま維持することであり、法律上は死刑を残しながら、実際には執行しないという「事実上のモラトリアム」がさらに長期化するシナリオである。

第二は、正式な死刑モラトリアムを導入することである。これは死刑制度そのものを直ちに廃止するのではなく、政府として執行しない方針を公式化するものであり、現在の実務と法律の間に存在する不透明さを減らす効果が期待できる。

第三が、最終的な死刑廃止である。1986年以来の長期的な非執行、2005年のバルソン判決によるMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)の違憲化、現在の死刑囚ゼロという実態を考えれば、法律上の死刑規定を削除して現実と法制度を一致させることには一定の合理性がある。

ただし、廃止への道には政治的障壁が残る。2024年のUPR関連資料が指摘するように、ドミニカ国では死刑廃止や正式なモラトリアムに関する勧告が実施されておらず、現時点で政府が死刑廃止へ明確に転換したとは評価できない。

さらに、死刑廃止を進める場合には、単に刑法上の条文を削除するだけでなく、重大犯罪に対する代替刑、被害者・遺族への支援、犯罪抑止政策、司法制度の信頼性などを総合的に説明する必要がある。死刑制度を政治的に維持してきた理由が「重大犯罪に対する最終的な刑罰」という象徴性にあるとすれば、その機能を無期拘禁などの代替刑でどのように担保するかが政策課題になる。

一方で、約40年間にわたり執行がないという国家実行そのものは、廃止に向けた政治的土台にもなり得る。現実には死刑を使用していない以上、廃止によって日常の刑事司法が劇的に変化する可能性は、死刑を頻繁に執行している国と比べれば小さいからである。

まとめ

ドミニカ国の死刑制度は、「廃止」か「存置」かという二択だけでは捉えにくい制度である。2026年8月現在、法律上は殺人や国家反逆罪について死刑を認める規定が残り、国際的にも死刑存置国に分類されている一方、最後の執行は1986年であり、2000年以降は死刑判決も確認されず、現在の死刑囚も0人である。

さらに、2005年のBalson判決によって殺人に対するMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)が違憲とされ、モーガン原則によって死刑囚の極端な長期拘禁にも司法上の制約が存在する。このため、法律上死刑を残しているにもかかわらず、その制度を実際に運用するための余地は極めて限定されている。

したがって、ドミニカ国を「アボリショニスト・イン・プラクティス」と呼ぶ場合には、それを国際機関の正式な分類ではなく、約40年間の非執行という実態を説明する概念として使用するのが適切である。より厳密には、「法律上の死刑存置国でありながら、長期的な非執行と司法的制約によって、死刑制度が事実上停止している国」と表現するのが最も実態に近い。

そして、この事例が示しているのは、死刑廃止が必ずしも一度の法律改正によってのみ進むわけではないということである。司法判断、国家実行、政治的判断、国際人権規範が長期間にわたって積み重なることで、法律上は死刑が残っていても、実際にはその制度がほとんど機能しない状態が形成される場合がある。

ドミニカ国はまさにその典型的な事例の一つである。今後、正式な死刑廃止へ進むのか、現在の「法律上存置・実務上停止」という状態を維持するのかは、国民感情、政治的意思、司法制度、そして国際社会からの圧力がどのように交差するかに左右されることになる。

「事実上の廃止」という評価をどう捉えるべきか

ここまで検討してきたドミニカ国の死刑制度を一言で表現するなら、「法律上は死刑存置、実務上は極めて長期間にわたり停止」という状態にある。2026年8月現在、アムネスティ・インターナショナルはドミニカ国を「Retentionist」、つまり法律上死刑を維持している国として分類しており、これは「Abolitionist in Practice(事実上の廃止国)」という正式分類とは明確に異なる。

一方で、最後の死刑執行が1986年であり、2026年8月時点で約40年間執行が行われていないという事実は極めて重い意味を持つ。死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)の2026年8月18日更新資料でも、ドミニカ国は死刑存置国とされる一方、現在死刑判決を受けている者は0人、2023年から2025年までの執行も0件、最後の執行は1986年、執行方法は絞首刑と記録されている。

つまり、ドミニカ国について「死刑存置国だから、現在も死刑制度が通常どおり機能している」と考えるのは適切ではない。法律上の制度と、実際の刑事司法における運用との間には、約40年間という極めて大きな隔たりが存在している。

国際的分類と「事実上の廃止」の違い

死刑制度を研究する際には、「法律上の廃止」と「事実上の廃止」を明確に区別する必要がある。アムネスティ・インターナショナルは、死刑制度について、すべての犯罪について廃止した国、通常犯罪について廃止した国、事実上の廃止国、そして死刑存置国という複数のカテゴリーを設定している。

この分類では、「Abolitionist in Practice」とされる国は、法律上死刑を残していても、一般的な犯罪について長期間死刑を執行していない国を指す。しかし、ドミニカ国は2024年末時点のアムネスティの分類でもRetentionistに含まれており、2026年現在の同機関の国別ページでも同じ扱いが維持されている。

したがって、「ドミニカ国はアボリショニスト・イン・プラクティスである」という文章を国際機関による公式分類として使用するのは正確ではない。より適切なのは、「ドミニカ国は法律上の死刑存置国であるが、約40年間にわたり執行を行っておらず、実務上は死刑制度が停止状態にある」と説明することである。

この区別は単なる用語上の問題ではない。法律上廃止された国では、将来的に死刑を復活させるために新たな立法措置が必要になるのに対し、ドミニカ国では死刑を定める法的枠組みが残っているため、理論上は将来の政策変更によって死刑制度を再び実際に運用する余地が残されている。

バルソン判決がもたらした制度的変化

ドミニカ国の死刑制度を理解するうえで、2005年のバルソン判決は不可欠である。この判決によって、殺人罪に対するMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)、すなわち殺人で有罪となれば裁判官の個別判断を介さず死刑が自動的に科される制度が違憲とされた。

この判決は「死刑そのものを全面的に違憲とした判決」ではない点が重要である。問題とされたのは、個々の事件における犯罪の態様や被告人の責任程度、その他の量刑事情を裁判所が十分に考慮できないまま、法律によって死刑を自動的に科す仕組みだった。

近年の学術研究も、この点を重視している。Oxford Academicに掲載された2025年の研究は、ドミニカ国ではバルソン判決によってMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)が違憲とされた一方、国内法からその規定が完全に削除されたわけではないことを指摘している。さらに、1986年以来執行がなく、Balson判決後に死刑判決を受けた者も確認されていないという国家実行を踏まえれば、ドミニカ国は実際にはMandatory death penalty(必要的死刑・強制1死刑)を禁止する方向の国家実行を形成していると評価できるとしている。

ここにドミニカ国の制度の特徴が最もよく表れている。法律を全面的に改正して死刑を消去するのではなく、司法判断によって従来の死刑制度の核心部分が否定され、その後の国家実行によって死刑制度が実質的に使用されなくなっているのである。

モーガン原則との関係

もう一つ重要なのが、モーガン判決である。1993年、英国枢密院司法委員会は、ジャマイカで死刑判決を受けた2人が長期間にわたって死刑執行待ちの状態に置かれた事件について、極端な長期拘禁が憲法上の残虐・非人道的刑罰に該当し得るとの判断を示した。

この判例がカリブ海地域の死刑制度に与えた影響は大きい。死刑判決を受けた者を長期間にわたって「いつ執行されるか分からない状態」に置き続けることそのものが人権問題となるため、死刑制度を維持する国家にとって、執行を長期に延期することにも法的限界が生じるからである。

ドミニカ国の場合、現在死刑囚が0人であるため、この問題が現在進行形の長期拘禁問題として現れているわけではない。しかし、将来的に死刑判決が出された場合には、バルソン判決による量刑上の制約とともに、モーガン型の長期拘禁問題も考慮しなければならなくなる。

その意味で、ドミニカ国の死刑制度は、単純に「法律に死刑があるから執行できる」という制度ではない。死刑判決を出す段階、上訴を処理する段階、執行を決定する段階、その後の拘禁期間という各段階に、憲法的・人権的な制約が存在している。

国際人権法から見た位置づけ

国際社会では、死刑廃止を促進する方向が長期的な大きな潮流となっている。アムネスティ・インターナショナルによれば、2025年末時点で世界では少なくとも145か国が法律上または実務上、死刑を廃止しており、完全に法律上廃止した国だけでも113か国に達している。

これに対して、2025年に死刑執行を行った国は17か国であり、世界全体では死刑を実際に使用する国家は少数派になっている。ただし、2025年の世界の死刑執行数は少なくとも2,707件に達しており、2024年の1,518件から78%増加したため、「死刑は世界的に消滅へ向かっている」と単純化することもできない。

この世界的状況の中で、ドミニカ国は独特な位置にある。死刑を法律上保持しているものの、長期間にわたり執行しておらず、現在の死刑囚も存在しないため、実際の死刑制度の運用という点では廃止国に近い状態にある。

しかし、国際人権法上の正式な廃止国と同一視することはできない。ドミニカ国は2026年8月時点で、死刑廃止を目的とする自由権規約第二選択議定書の締約国ではなく、死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)も同国をRetentionistとして分類している。

「約40年間執行なし」が持つ意味

1986年から2026年まで約40年間死刑が執行されていないという事実は、単なる統計上の数字ではない。それは、国家が死刑を法律上維持しながら、実際にはその刑罰をほぼ使用してこなかったという長期的な国家実行を意味する。

さらに、現在死刑囚が0人であることを合わせると、現在のドミニカ国では死刑制度が「存在するが、日常的な刑事司法の中では作動していない」と評価できる。死刑廃止世界連盟(World Coalition Against the Death Penalty、WCADP)の2026年8月時点のデータは、この状態を非常に端的に示している。

ここから重要な政治的意味も生じる。40年間執行されていない制度を廃止しても、現在の刑事司法に与える直接的な変化は、死刑を頻繁に執行する国に比べて小さい可能性がある。

そのため、ドミニカ国にとっては、死刑廃止が実務上の刑罰体系を根本的に変えるというより、すでに形成されている国家実行を法律上正式に確認する意味合いが強くなる可能性がある。言い換えれば、「実態を法律に合わせる」のではなく、「法律を実態に合わせる」という廃止になる可能性がある。

それでも死刑を廃止しない理由

では、なぜドミニカ国は約40年間も死刑を執行していないにもかかわらず、法律から死刑を完全に削除していないのか。この問題については、死刑が実際の刑罰であると同時に、重大犯罪に対する国家の最終的な制裁権を象徴する政治的制度でもあることを考慮する必要がある。

The Death Penalty Projectによる東カリブ海地域の調査では、政治家、官僚、司法関係者、宗教指導者、市民社会関係者などの意見形成者の間で死刑廃止への賛否が拮抗しており、死刑存置の背景には犯罪・治安問題への政治的懸念が存在することが示されている。これは、死刑存置を単純な「死刑への強い支持」と説明することの難しさを示す資料である。

政治家にとっては、死刑廃止を明確に宣言することで、重大犯罪に対して政府が弱腰になったという批判を受ける可能性がある。一方、死刑を実際に執行すれば、国内憲法、人権保障、司法判例、国際的批判などの問題に直面することになる。

結果として、「死刑は残すが、執行しない」という中間的な政策が政治的に成立しやすくなる。これは必ずしも死刑制度を積極的に支持していることを意味せず、むしろ廃止による政治的コストを回避しながら、実際の執行も避けるという現状維持の論理として理解できる。

今後、正式廃止に向かう可能性

ドミニカ国が正式な死刑廃止国になる可能性は十分に存在する。約40年間の非執行、現在の死刑囚ゼロ、mandatory death penaltyに対する司法的制約、そして世界的な死刑廃止傾向を考えれば、法律上の死刑規定を削除して制度上の状態と実務を一致させることには合理性がある。

ただし、それが近い将来に必ず実現するとは限らない。死刑をめぐる政治的問題は犯罪被害者、治安、世論、政治的イメージ、憲法、国際人権法など複数の要素にまたがっているため、単純な法改正だけでは処理できない。

特に重要なのは、死刑廃止を実施する場合に、国家が重大犯罪への対応能力をどのように説明するかである。終身刑や長期自由刑、被害者支援、再犯防止、捜査・裁判制度の強化などを組み合わせることで、死刑廃止が治安政策の弱体化ではないことを示す必要がある。

また、国際社会からの圧力も今後さらに強まる可能性がある。2025年には世界全体で145か国が法律上または実務上死刑を廃止しており、死刑を実際に執行する国家は少数派となっているため、ドミニカ国が現在の法的地位を維持し続けることは、国際的には次第に説明を求められやすくなる。

最終評価

以上を総合すると、ドミニカ国の死刑制度を「アボリショニスト・イン・プラクティス」と単純に呼ぶことには問題がある。2026年8月時点の国際的な分類では明確にRetentionistであり、法律上死刑制度を維持しているためである。

しかし、だからといって「通常の死刑存置国」と評価するのも実態を十分に説明していない。最後の死刑執行は1986年であり、現在の死刑囚は0人、さらに2005年のバルソン判決によって殺人に対するmandatory death penaltyが違憲とされているため、実際の死刑制度は極めて限定された状態にある。

したがって、最も正確な結論は、「ドミニカ国は法律上の死刑存置国であるが、約40年間の非執行と司法上の制約によって、死刑制度が事実上停止している国」というものである。

「事実上の廃止」という言葉を使用する場合も、この意味で限定的に使用する必要がある。国際機関の公式分類としてではなく、法律上の制度と実際の国家実行との間に生じた巨大な乖離を説明する概念として使うなら、ドミニカ国は非常に興味深い事例となる。

最終的に、この国の死刑制度が示しているのは、「死刑廃止は法律を一本改正すれば終わる問題ではない」ということである。司法判断、政治的意思、国民感情、国際人権規範、長期的な国家実行が積み重なった結果、死刑を法律上維持しながら、実際には40年間使用しないという独特の制度状態が形成されることがある。

ドミニカ国はその典型例の一つであり、今後の焦点は「死刑を再び執行するか」ではなく、「すでに約40年間使用していない死刑制度を、いつ、どのような政治的・法的手続によって正式に廃止するのか」という問題に移っていると評価できる。


参考・引用リスト

  • Amnesty International, Abolitionist and retentionist countries as of December 2024, 7 April 2025. 死刑制度の国際的分類、Abolitionist in PracticeとRetentionistの区分を確認するための基本資料。
  • Amnesty International, Death sentences and executions 2025, 18 May 2026. 2025年の世界の死刑判決・死刑執行数、死刑廃止国数などの最新統計を確認するための資料。
  • Amnesty International, Human rights in Dominica. 2026年8月時点におけるドミニカ国の死刑制度上の分類を確認するための国別資料。現在も「Retentionist」と分類されている。
  • World Coalition Against the Death Penalty, Dominica. 2026年8月18日更新。最後の死刑執行年、現在の死刑囚数、執行方法、国際人権条約への加入状況など、ドミニカ国の死刑制度の現状を確認するための資料。
  • Oxford Academic / Human Rights Law Review, The customary prohibition of the mandatory death penalty in international law, 2025. Balson判決によるドミニカ国のmandatory death penalty違憲化と、その後の国家実行を分析する学術研究。
  • Judicial Committee of the Privy Council, Balson v The State, 2005. ドミニカ国における殺人罪のmandatory death penaltyをめぐる重要判例。
  • Judicial Committee of the Privy Council, Pratt and Morgan v The Attorney General for Jamaica, 1993. 死刑確定後の極端な長期拘禁と残虐・非人道的刑罰との関係を示したカリブ海地域の重要判例。
  • The Death Penalty Project, 東カリブ海地域における死刑制度と意見形成者の認識に関する調査。死刑存置の政治的背景、犯罪・治安政策との関係を分析するための専門資料。
  • United Nations Human Rights Council / Universal Periodic Review, Dominica関連資料。ドミニカ国に対する死刑モラトリアムおよび死刑廃止に関する国際的勧告を検証する際の基礎資料。
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